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螺旋の邂逅(彼方)

超☆展☆開

  ω ω ω



 気が付くと、真っ白な所にいた。

 仕切りも端も見えない空間で、少なくとも部屋には見えない。

 目の前には泣いている小学生くらいの女の子がいて、ずっとオレに謝り続けてる。

 泣いてる理由を聞いても答えてくれない。

 困ったワン。泣いてばかりいると困っちゃうぜ子猫ちゃんワン。とか流石に言える空気でもなくて途方に暮れてると……うちの親のセンスからして、もし次に子供生まれたら“途方”とか名付けるのかな。青海途方。


「……ないな」

「そうですね」


 なんぞ!?

 と思ったら、いつの間にか女の子の傍らに男の人が立っていた。


「あの……どちら様でしょう」


 私の空間に入り込むとは、只者ではあるまい。


「貴方の空間ではありませんが」


 心を読みなすった!?


「寧ろ言葉と思考が区別されていない、と考えていただけると簡単です」

「はふん」


 私の空間じゃないなら固有結界とでも名付けようか。或いはそれに似た大魔法、開け! 黄金の


「先程の質問ですが」


 ……最近皆が冷たい。オレもこの子と一緒に泣こうかな。


「私は貴方がそうなってしまった原因です」


 やれやれ。なんか真面目な話をし始めやがった。……マジになるなんざ、オレのキャラじゃねえんだがな。


「まず、貴方がそのような体と精神になってしまったのは我々の失態であることを謝らせてください」


 おいおい勘弁してくれよ……って、本当に? ど、土下座とか初めて生で見た。

 土下座されても、正直ピンとこないせいで寧ろ罪悪感を感じてしまうんですが。


「か、顔を上げてください。そして体を起こし、そのまま立ち上がってください」

「本当に、申し訳ありません」


 酷いよ! せっかくこの空気をぶち壊してやろうと思ったのに無視するなんてあんまりだ!

 オレの右手には幻想殺しはなみたいだぜ、ヒーローォォォオオオオオオ。


「できる限りのことをしたい、とは考えています。しかし、現状ではあなた方の異常事態による弊害、と判断された場合にのみ、我々の援助が可能です」


 ここまで無視されるとなると、もうこっちも真面目に考えるしかないのだけれど、言っている意味がよくわからなかった。異常事態っていうのがこの身体の変化だっていうのだけは分かる。それ以外が分からない。


「えっと……何かできるんですか?」

「はい。具体的な例で言えば、その体になってしまったために生じた予定外の支出です」


 この身体……男の身体になってしまったから、揃えなきゃいけなかった服とかの代金ってこと? それが弊害ってやつの内容でもあるわけだね! カナたん賢い!

 とか思っても、男の人には伝わってる筈なのになんのリアクションも返してくれなかった。


「返してくれるんですか?」

「はい。こうした形でしかお詫びできないこと……本当に、謝って許されることだとは思っていません……」

「……別にいいです。返してくれなくても。今のとこ、別に悪かったこと、ないですし?」


 服とかにかけたお金だって、元の身体でも使ってたかもしれないし。

 でも、本当にこの人が原因なんだとしたら、聞いておかなきゃいけないことがある。


「一つ聞きたいんですけど、これって戻せるんですか?」


 男の人は静かに首を横に振った。


「申し訳ありませんが、それは致しかねます」


 それは、きっぱりとした否定だった。だけど、今までの謝罪の言葉が嘘だったとは到底思えない。


「……ですよねー」


 予想はしてた。きっかけっていうきっかけが無くて、これをすれば元に戻る、みたいなアイテムみたいなものがまったくなかったから。

 とはいえ、やっぱりちょっとくるものがある。


「……面目次第もございません」


 再び低く頭を垂れる男の人。


「それともう一つ」


 言って、顔を上げる。


「これは、差し出がましい提案です。しかし同時に、異常事態関連に関わらず、我々が貴方方に援助できるようになる提案でもあります」


 自分たちのせいで男体化して苦労をかけているのに、限定的な援助しかできないのは心苦しいから、普通に援助できるような提案をしたい……ということ、だろうか。


「はい」


 心を読まれるのって恥ずかしいね。あ、でも心の中を読むことができるなら、本気で言ってるって分かってもらえるかも。例えば直ちゃんとか、もしくは直ちゃんとか……あと、直ちゃんとか。


「ですが、これは貴方一人が参加すると言っても意味はありません」

「はい?」


 一人って……一人しかいないじゃん。この女の子とキャッキャウフフすればいいの?

 迷惑行為防止条例に触れない。幼女を守る。

 両方やらなくちゃいけないのが男のつらいところだな。

 覚悟はいいか? オレはできていない。

 まだ捕まりたくないです。


「貴方の他にあと三人、同じ状況になってしまった方が同じ学校にいます」

「え……三、人?」


 もう一人は黒酒だよね。え? あと二人もいるの?


「はい」

「それって……男?」


 男の人は首を横に振って否定した。つまり、女ってこと? ……女体化!? そういえば、見た目すごく可愛いのに学生服着て男だって言い張ってた子がいたな。はは~ん。女体化してしまったことを認めようとしないなんて、ますます可愛いじゃないか。デュフフ。


「いえ、お答えすることができない、という意味です」

「あ、な~る」


 それもそうか。簡単には教えられないよね。ことがことだし。


「もちろん貴方自身のことも同様です。御三方にも伝えてありますが、もしその方々に自分の状況を教えてもいいと仰せになるなら、明日の放課後、四時半までに部室棟三階の中央の部室にいらしてください。そこから改めて他の賛同を得られた方と別室で合流して頂き、こちらからの提案をお話しします」



  ω 四月十八日(水)07:41 ω



 いつの間にか意識は途切れてた。

 気づけばベッドの上。夢、だったらしい。

 いくら思い出そうとしても男の人も女の子の顔も思い出せなかった。

 夢ならそれが普通。一時間も経てば内容だって忘れてるだろう。

 それが夢なら。

 夢にしてはあまりにも生々しくて、聞いた言葉だけがはっきりとしすぎていた。

 もしも、万が一あれが夢じゃないとしたら、もっとちゃんと真面目に聞いておけばよかった。後悔先に立たずとはこのことだね。

 でも仕方ないと思うんだ。変な場所だし言ってることも普通じゃないし、信用できる要素何一つないじゃないか。

 という怒りも込めて黒酒に相談することにした。

 駅で待っていると、周りから頭一つ飛び抜けてるイケメンが見えた。


「悠ちゃ~ん」

「殺すぞ」


 どうやら機嫌が悪いぽ。この殺気、本気を出したら首一つ訳なく落とすだろう。オレなら死んじゃうね。ここは一つ真面目に行こうと思ふ。

 根が真面目だからか、黒酒はちゃんとした態度を見せればちゃんと対応してくれることはもう知ってるからね。所謂クーデレというやつですな。違うか。この人遥ちゃんにしかデレないシスコンだし。

 ともあれ、昨日見た夢(?)のことを話す。勿論周りに聞かれないよう、駅から学校に続いてる道を一本ずらした回り道を通りながらだ。

 話しが進むにつれ、黒酒の機嫌はどんどん悪化していった。


「……お前のとこにも来たんだな」

「あ、やっぱりそっちにもあったんだ」


 変な夢。というか、共有してる時点で夢なんかじゃないと思うけど、面倒なので区別しない。

 大まかな流れや内容は同じで、最後に言った放課後行く場所と時間が少し違うくらい。黒酒の推理では、あの男の人が一人で確認するため、それと了承を得るまで互いの顔を合わせない配慮のために敢えてズラしているんだろう、とのこと。


「で、どう思う?」


 信用できるか、どう行動するべきなのか。

 いろいろ端折っちゃったけど、黒酒はこれで伝わるだろう。


「……まず、あの野郎が原因だってことが本当だと仮定した話だけど……信用できない」

「あの男の人が?」


 黒酒は頷いて肯定した。


「何度かのやりとりで次第に信用させて騙す手口は詐欺の典型だし、話にも不可解な点が多すぎる」


 きっと黒酒のことだから、色々聞き出そうとしたんだろう。で、聞けば聞くほど不可解な点が増えていった、と。そもそもが普通じゃないんだから、現実主義的な黒酒とはもともと相性悪かったんじゃないだろうか。


「そもそも何……!? 言ってることもやってることも非現実的すぎるだろ!」


 これはかなりキテますね。ええ。ストレスを発散させるために今にも獲物を見つけて喰ってかかりそうです。つまりオレがピンチだ。


「お、おちつけ。そこはほら、オレら自体が非現実的なんだから、今更そこを言っても仕方ないって」

「うぐっ……」


 どうどう。


「で? どうする?」

「何が」

「放課後。行く?」


 怒りの表情から一転、呆れ顔になる黒酒。

 言いたいことはわかるし、リスクだって十分分かってる。それでも、メリットだってあると思う。


「オレは、黒酒がいてくれて心強いよ。だから、もしその人が一人で抱え込んでるなら力になりたい」

「……」


 なんだその信じられないようなものを見る目は。今、結構まともなこと言ったよね? 


「……相手が、お前みたいな考えで来るとは限らない」

「分かってるよ」


 下種な野次馬根性とか、弱みを握ろうとしてくるような奴かもしれない。でも、そんな考えの奴は自分がやられる場合のことも考えちゃうだろうから、わざわざ同じリスクを背負ってまで関わってこようとしないと思うんだよね。


「……はぁ。わかった。行くよ。あの男に聞きたいこともあるしな」

「素直じゃないなぁ~」


 まぁ、内心ちょっとビビってるオレが言えたことじゃないけどね。



  ω ω ω



 そして、運命の放課後。

 言われた通りの時間に、部室棟三階の中央にある部屋の前に来た。周りには誰もいない。ドアに付いてる不透明のすりガラス越しに人影のようなものが見えて、男の人がいることがわかった。

 改めて、夢じゃないことがわかって焦ってしまった。落ち着こう。オレは本番に強いタイプの筈だ。

 そう、あれは中学二年の春(以下略)。


「しっつれいしゃーす」


 勢いよくドアを押し退け仕切りを跨いだ。

 が。


「え、マジで……?」


 そこにいたのは、司ちゃんだった。


「「あー……」」


 お互い対応に困って、変な沈黙が部室に流れる。

 部屋、間違えたかな。


「……昨日、変な夢見た?」

「あ、うん。司ちゃんも?」


 小さな頭を縦に振り、頷く司ちゃん。

 あの夢に出てきた男の人の仲間……じゃないよね。夢、見た側っぽいし。

 見た側ということは、同じ状況の人間。異性へと体が変化してしまった人ということだ。……え、何?

こんな可愛い子が男だったの? 一週間以上経ったけど、全然そんな感じしなかった。


「……えーっと、率直に聞くね」


 混乱した頭のまま、なんとか話かけることができた。司ちゃんも混乱してるのか、言葉にはしなくても拒否することなく頷いてくれたから、早速聞いてみることにした。


「司ちゃん、男子だったの?」

「うん」


 即答でした。ちょっと恥ずかしそうに笑顔を浮かべてる姿が本当に可愛くて、男子って言葉が何なのか忘れかけてしまった。

 男子。男の子。男の娘……あの胸は本物だろうか。


「青海くんは、女子だったんだ」

「death」


 そしてまた沈黙。

 だけど、


「「良かった~」」


 ほとんど同時に、胸を撫で下ろした。言葉が被ってしまったことがおかしくて、お互いに見合って笑いを溢す。

 今度は、いつも通りの柔らかい笑顔だった。心が温かくなるような、屈託のない優しい笑顔。

 知ってる人。しかも司ちゃんで本当に良かった。


「まさかいきなり会うなんて思わなかったよ。あの男の人、策士だね」

「まったくだ」


 となると、もう一方に向かった黒酒ももう一人と会ってるのかもしれない。


「まさか司ちゃんだったとはな~」

「実は私、ちょっと疑ってたよ」

「え、マジで……? なんか変だった!?」


 何か違和感のある態度をとっていたとしたら、これは忌々しき事態だ。そのことを今まで誰も言ってくれなかったってことは、距離を置かれてるってことじゃないか!


「変っていうか、覚えてるかな。前に臨海公園ってとこで会ったの。あの時、青海くん自分のことお姉さんに妹って言ってて、お姉さんもそこスルーしてたからさ」

「あ、ああ……成る程」


 良かった。……って良くない!

 会った記憶は勿論有るけど、そんなことを言った覚えが全くないって、他の所でも失言が有りそうじゃないですかー! やだー!


「!」


 携帯が鳴って、見てみたら黒酒からの着信だった。電話するなんて珍しい。というか、初めてだった。


「ちょっといいかな」

「あ、うん。私もちょっと」


 見れば、司ちゃんも着信があったようで、いつの間にか携帯を持っていた。

 中は別にしても今はオレが男だ、ということで、部屋を出て電話に出る。


『黒酒だけど』

「うん。どうかした? もう一人と会った?」

『やっぱりそっちもか』


 案の定、もう一人の被害者と会っていたらしい。特に声にも変化がないあたり、まともな人だったっぽい。


『そっちの人が承諾したらだけど、これから合流しないか』

「わかった。ちょっと待って」


 通話状態にしたまま部屋に戻ると、司ちゃんも部屋を出て行こうとしているところだった。


「あ、もしかしてなにか急用?」

「ううん。青海くんに話があって」

「?」

「えっとね――」


 聞けば、司ちゃんの電話も同じ要件だったらしい。

 まさか、お互いに一人ずつ知ってる人だったとは思わなかった。

 黒酒が行ったのは、確か第二視聴覚室。一年の教室が集まってる西棟の三階にあって、部活中で出入りが予想しやすい部室棟と違って生徒とか教師がいつ来るか分からない。そのあたりは夢に出てきた男の人が何とかするだろうけど、話しやすさとか諸々を考慮してこっちの部室棟に集まることになった。

 で、数分後。

 四人が集まった空き部室は、何ともいえない空気に包まれていた。

 特に直ちゃん。

 目の前にいるのは男なんだけど、中が中なのでどう対応すべきかわからない、って感じがありありと分かる。

 恥ずかしいのか、少し頬を赤くして俯いていて目も合わせてくれない。そんな表情だって、見惚れてしまうくらい綺麗だ。

 最初はあれだけ綺麗な子だから、男子に言い寄られまくったりして男嫌いになったのかなって思ったけど、男がどれだけ欲求不満か知ってるから警戒してたとかそんな所なのかも。告白されたことないって言ってたの、今なら信じられる。

 司ちゃんも司ちゃんでこれから大変かもしれない。

 あんなに可愛いくて分け隔てなく誰にでも優しいから、もう他のクラスでは何人か付き合いたいとか言ってる男子までいるし。特にあんまり女の子慣れしてない人かな。優しくされたりボディタッチされたらもう好きになっちゃうような人って本当にいるんだね。あれ、この子俺に気あるんじゃね? みたいな。

 罪作りな子だなぁ……えげつねぇ、って思ってたけど、男だったから警戒心がないってことなのかも。


「あの人、遅いね」


 直ちゃんと黒酒が醸し出す空気に堪えられなくなったのか、司ちゃんが言ったのとほぼ同時。


「「!」」


 四人全員が何かに反応した。

 オレは携帯の着信。というか皆も同じだった。


「あれ……知らない番号だ」


 司ちゃんの言葉に、また全員が反応する。流れ的に、皆で画面を見せ合うべきだろう。

 案の定、皆同じ番号だった。


「……誰が出る?」


 部屋に入ってから初めて口を開いた、黒酒が尋ね、


「じゃあ、ジャンケンで」


 面倒くさ……ここは公平にいこうとオレが提案した。



  ω ω ω



「もしもし」


 言いだしっぺって、なんか負けるよね。ちくせう。


『無事、合流して頂けたようですね』


 全て御見通しってわけですか。何この黒幕感。統括理事なの? それとも私が天に立つ?


『では、貴方方への提案を申し上げます』


 流石に普通の時には心は読めないらしい。まぁ聞こえてても無視されてるだけなのかもしれないけどね。ハハッ。

 っと、そんなことしてる場合じゃない。

 携帯のモードをスピーカーに変えて、皆にも聞こえるようにした。


「馬鹿。通路を通った奴に聞かれたらどうする」

「すまぬ」


 ちぇっ。良い案だと思ったんだけどなぁ。


「どうぞー」

『はい。では早速ですが……貴方方には、違和感を見つけて欲しいのです』

「はい?」

『今のこの世界は、幾つかの世界が重なってできた世界なのですが、貴方方はその世界で異なる精神が異なる身体を得てしまった、言わば特異点です』

「ふむふむ」

『故に、重なる以前の記憶と重なった結果の身体を持つ貴方方には、この世界が重なる際に生じてしまった齟齬を見つけることができるはずなのです』

「ほほう」

『見える場合もあるでしょう。知識の祖語である場合もあるかもしれませんし、感じるだけの場合も考えられます。貴方方で協力していただき、その齟齬……違和感を見つけだし、報告していただきたいのです』

「成る程」


 わからん。


『後程、そちらの部室に報告のためのネット環境と撮影機器をご用意させていただきます。活動のための費用は承認され次第その都度こちらで用意させていただきますし、毎月定額を用意させていただいた口座に振り込ませていただきますので、そちらの援助費は部費としてご自由にお使いください』

「なんとそこまで」

『こちらからは特に調査個所、報告期限を指定致しません。良い報告をお待ちしています』

「ちょ、ちょっと待って下さい!」


 丸投げすぎるし全然理解できてないしで、本当にありがとうございます! ……じゃなくて!


「齟齬、でしたっけ? 具体的にどんなものなんですか!?」


 いろいろ聞きたいけど、ぱっと思いついた質問がこれくらいしかなかった。

 聞きつつ、手帳を取り出して皆に向けて筆談。まず、ボスケテ、と……。


『現在、他の特異点の方から報告を受けている齟齬は、私鉄の運行状況に関して二点。そして残留思念の形跡が一点です』

「と、言いますと?」


 黒酒睨まないで。本気で怖いから。さてはジャガーしか知らないな? にわかめ。名作は掘り返してでも読むべきだ、っと……あ、ペン取られた。


『現在私鉄で行われている性別による専用車輌の区別ですが、別の世界では女性専用のみのまま。また別の世界では専用車輌そのものが無なくなっていたそうです。それと、残留思念は身体を失ってしまい、世界に定着してしまった精神……俗にいう地縛霊、幽霊ですね。こちらは撮影が難しいので、専門の方に確認していただきました』


 今さらっと怖いこと言ったよね。

 ユーレイ? なにそれ美味しいの?

 それと、一つだけわかったことがある。筆談で今の状況をクリアするのは無理ゲーだ。


「ちょ、ちょっと待って貰っていいですか? 皆も聞きたいことあると思うんで」

『でしたら是非、明日報告の練習も兼ねてメールで送って下さい。こちらからそちらの送信に必要最低限の返信はありませんが、明日は特例をいただいてお待ちしています。では』

「ちょーーーーい!?」


 マジで切りやがったあんにゃろう!

 うわありえねー! 理不尽過ぎる! あんな意味不な説明ちゃんと覚えてねーよ!

 うわーんどうしよー! 黒酒に殺されるー!


「おい……何いきなり泣き出してるんだ」

「黒酒……恨むならジャンケンで勝った自分自身を恨むがいい! 命を粗末にするやつなんか、大っ嫌いだ!」

「なんか色々おかしい……のはまぁいつも通りか」


 いつも通りなんかじゃないやい。


「取り敢えず、今聞こえてたことを整理しよう」


 黒酒の提案に女子(?)二人が頷く。ってちょっと待て~い。


「え、何? 皆聞こえてたの?」

「「うん」」


 な~んだ。心配して損した。


「取り敢えず、胡散臭いよね」


 と苦笑気味に司ちゃんが言った言葉に他の二人も同意のようで、特に口を挿まなかった。

 なので、一応尋ねることにした。


「どの辺が?」


 いや、分からないわけじゃないよ? 認識の齟齬っていうのは結構危ないと思うんだ。

 ほら、そんな簡単に分かり合えたら、みんな勘違いとかすれ違いをしなくなってもっと世界って平和になってる筈じゃん? なのにどうして世界にはこんなに悲しみが満ちているのか、っていうことだ。

 そしてオレは今、大丈夫かこいつ、みたいな目で黒酒に見られてることが悲しくて泣いてしまいそうだった。本当、この人オレに容赦ないよね。他の人だったらわれ関せずって感じで流すのに。あ、これってやっぱデレ? やれやれ、不器用な奴だ。オレの察しが悪かったら、世界にまた一つ悲しみが増える所だったゼ。


「ちょっと待って赤生さん……なんか、青海がムカつくこと考えてそうだからちょっと懲らしめとく」

「え? うん」

「ちょ、黒酒有段者なんだから手出すこともっと躊躇おうよ! それと司ちゃんは簡単に納得しないで!?」

「ったく……」


 立ち上がろうとして上げた腰を席に下ろす黒酒。オレ、この数時間にどれだけの寿命を消費してどれだけの寿命を救ったんだろうか。


「えっと、何が胡散臭いかって、私たちに良いことばっかりで悪いことが一つもないところかな」


 その通りだと思うけど、それは良いことなんじゃないかな。確かに不気味だとは思うけど、考えてみても思いつくデメリットとかリスクはなさそうだし。

 あ、お金を使いこんだら後で倍額で返せ、とかはあるかも。


「それに、俺たちをここに集める必要がない。協力しても個別に調査するのと発見する確率は変わらないだろ」


 付け加えるような黒酒の言葉に、司ちゃんも成る程、みたいな表情で相槌を打っていた。ほら、ちゃんと言葉にしたほうが確実に伝わるじゃんか。


「でも、敢えて断る必要もないんじゃない? お金をもらうことが嫌なら、使わなきゃいいんだし」

「……まぁな。何か悪巧みに引っ掛けようとしてるなら、こっちから誓約書でも書かせればいい。あっちは提案してきてる立場なんだから、疾しいことがなければまともな条件は呑む筈だ」


 どうも黒酒はネガティブというか、疑り深いというか。そんなに周りを敵視して楽しいのかなって心配になってきてしまう。


「じゃあその誓約書は任せた!「おいこら」司ちゃんは何か聞いておくこととかある?」

「うーん……ちょっとその前に、話は逸れちゃうんだけどさ」


 少し言いづらそうに、司ちゃんは窺うようにオレや黒酒を見る。絶対狙ってやってないってわかると、上目使いってこんなに攻撃力をもつもんなんだね。


「できれば、ちゃん、って止めてくれないかな……。知ってる人に言われると、なんか恥ずかしい」


 照れてる姿が可愛い。


「わかったよ司! じゃあオレも彼方って呼び捨てにしてくれると嬉しいな。流石にこの姿でカナちゃんとか痛いし」

「うん。じゃあそうするね、彼方」


 やっべぇ。マジ可愛いぞこの子。癒されるわぁ。黒酒から睨まれた後だと三割増しで癒されるわぁ。まぁ、一応「もともとそんな風に呼んでないし」的なツッコミを期待したけれども、そんなんどーだっていいや。


「じゃあ直ちゃんは」

「っ……」


 うわぁ……すっげぇ顔真っ赤。綺麗、なのに可愛い。


「……ふ、ふん。別に今更ちゃん付けされたって恥ずかしくなんてないし、なんならちゃんと心身ともに女の子なんだってことを」

「こら直。いままで女子の演技してたって思われるのが恥ずかしいのはわかったから上着に手をかけるな」

「あうう……司ぁ……」


 ああ……こういう子なんだ。

 そーいえば一昨日の騒動も後で聞いてみたらすごかったみたいだし、焦ったりすると暴走してしまう子なのかもしれない。触ったら怪我する棘のある薔薇じゃなくて、障ったら周りを巻き込んで自滅する爆弾だったらしい。


「正直な話、二人が男子だったところなんて想像できないからさ。そんな風に恥ずかしがることないよ、直」

「……うん……ありがとう、か、彼方……。……いままで、きつく当たってごめんなさい」

「いえいえ。あれはあれでご褒美だったし」

「え……?」

「え?」


 なにか変なことを言っただろうか、いや、言っていない。

 オレは何も間違っていない。きっとクラスの子みんなが同意してくれるはずだ。今目を逸らした司を含めて。


「盛り上がってるところ悪いんだが、これでいいか?」

「もうできたの!?」

「昨日の時点で色々考えてたからな。今日得た情報足すだけだったからそんなに苦労せずに済んだ」

「すげぇよ悠! オレたちにはできないことをやってのける!」

「あー、それ以上はいいから」

「これからがネタだろ!?」


 こいつジョジョが嫌いなのか、それかジョジョをネタにされることすら嫌いなファンかどっちかだな。司は自己紹介の時に言ってたくらい好きなみたいだし、直は何を言ってるのか分からないっぽい。司との身内ネタにするしかないか。


「悠は無いの? 質問すること」


 驚いた顔で司を見る悠。


「……俺も名前で呼ばれる流れなのか?」

「嫌だった? 勿論黒酒でもいいよ」


 畳み掛けるような司の問いかけに吃る悠。あの曇りのない笑顔を前に、嫌だとは言えないだろう。

 YOU、言っちゃいなよ。名前で呼ばれるのが照れ臭いんだって! ひゃっはー! かまととぶりやがって! くけけけけ!


「彼方。お前後で覚えてろ」

「おいおい、八つ当たりはよくないぜ兄弟痛ぁい!」


 小指を狙うなんて此方よりえげつねぇ!



  ω ω ω



 こうして、オレたち四人は出逢った。

 もう戻れないという、突き付けられた未だ半信半疑な失望の現実。

 秘密を共有できる場所、人を得たという現実の希望。

 何かもっと良い言い回しは無いものか、オレは一生懸命考えたけど思い浮かばなかった。こういうのは悠に任せようと思う。目指せ、オサレポエマー!


「以上、活動日誌プロローグっと……よし!」


 明日はホームランだ!


あまりにも突飛な話はこれっきりだと思います。突飛すぎるので、今後大幅に書きかえるかもしれません。


次回――


「こっちも奥の手を出すしかあるまい」


「受けて立つ!」


――地球の未来にご奉仕するにゃん!

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