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プロローグ

 もう会えないと分かっていて、それでも会いたいと願うのは罪ですか?

 傍にいれないと分かっていて、それでもそう望むことは罪ですか?

 話すことができないと分かっていて、それでも話したいと思うことは罪ですか?

 それが罪だと言うのなら、

 私は喜んで罪を犯そう。

 例え、その先に暗闇が待っていようとも。



 ――――



 1


 その日、彼の人生が大きく動いた。

「あれ? 私の財布がない?」

 昼休みの中間にクラスメイトの発した一言。

 普段団結力のないクラスだったが、こう言う時に限って全員が強力して財布を探そうとする。

 と、言うよりも犯人を見つけたいと思っているのだ。

 世の中には刺激が必要。

 学校に来て勉強するだけの同じ毎日。

 部活に入っていようがいまいが、同じ日々を過ごしているのは明確で、

 平凡な生活では満足出来ない年頃の高校生にとっては、小さなイベントみたいなモノだった。

 はじめはやはり机の周りからだろう、と当たり前の様に仕切りたがりが一人飛び出し、探偵にでもなった気分で捜索をはじめようとする。

 そんな中で、

「ふぁああああーー」

 窓際でみかんがそのまま入りそうなくらい大きなあくびをする少年がいた。

 名前を高井光流(たかい ひかる)と言うが、

 彼にとってこんなイベントは、理系クラスに入った生徒の古典の授業くらい興味のわかないものだった。

 と言うよりも、

 良い意味で目立つことも、悪い意味で目立つこともしない。

 普通に言えば一般生、悪く言えば影が薄い。

 背もたれをゆうに超えて、とある映画の銃の弾をよけるワンシーンほどの背伸びをした彼であったが、運も良く後ろの席は空席であったため、人に当たることもなかった。

「財布くらい自己管理しろよな」

 呟き程度に発した声だったので、クラスメイトの誰にも聞こえていなかったが、恐らく誰も口に出さないだけで、皆が思っていることだろう。

 興味はなかった。

 刺激も求めていない。

 犯人探しと言う、イベントに参加する気など一切なかった。

 特に親しくもないクラスメイトの捜し物を手伝うくらいなら、昼休みの残り時間をボーと過ごす方が後の授業に参加していく上でいくつにもプラスに働くだろう。

 午後の授業は眠気との戦いだ。

 態々、自ら手伝おうなどと言う気にはなれない。

 もちろん、手伝ってと言われたなら、断る理由もないのだが。

「となると、やりたくないけどカバンの中とか見せて貰ったほうがいいよな」

 仕切りのクラスメイトがそう言い出した。

 本格的な犯人探しが始まったようだ。

 クラスの見える部分、共有のスペースの捜索を終え、今度は見えない部分、つまり個人の領域へと足を踏み入れていく。

 被害者のクラスメイト、江丸冷夏(えまる れいか)と共にクラス全員のカバンの中と机を調べ始める。

 さすがに、今現在いないクラスメイトのカバンの中まではプライベートなので覗こうとはしなかったが、いるメンバーに関しては机とカバンの中をチェックしていく。

「女子のカバンは江丸さんがチェックして。男の僕が見るよりかは多少ストレスが減るだろうから」

「……うん」

 一応、暗黙の了解でチェックが済むまでの間クラスから出ようとするモノはいない。

 犯人の疑いをかけられたくないからだ。

 光流もそんなことはしなかった。

 目立つことはしない。

 それが、普通に学園生活を送っていく為に必要不可欠なことだからだ。

「高井も見せてくれるよな?」

 女子は江丸冷夏がチェックしていく中、窓側の列までやってきた梅川昇(うめかわ のぼる)が訊ねる。

 メガネの中央を指で押し、まさしくなりきっているオーラ全開だった。

 黒髪、メガネ、制服のホックは一番上まで止める、と言うタグが付けば、クラスに数人はいる、少し引きこもり気味の少年がイメージされる事が多いが、そこに、リーダーシップと言う言葉が混ざれば、その少年には優等生と言う名札がちらほらと見え隠れしてくる。

 光流にとってあまり話したことの無いクラスメイトだったが、学年でトップ10に入るくらい頭がよい、と言う情報は頭の中にもあった。

 つまりは優等生。

「あぁ、勝手に見てくれ。机なりカバンなり、特に面白いモノなんて入ってないけどな」

 入っているのは、教科書に筆記用具、加えて梅干のタネが入ったコンビニの袋くらいだ。

「面白いモノねぇ」

「ん?」

 一瞬だったが、梅川が細く微笑んだ様に見えた。

 鼻で笑われたのだろうか? と光流は思っていたが、

「なら、これは何だろうね? 高井光流」

 梅川は光流のカバンの中から何かを取り出した。

 見覚えの無いモノだった。

 カバンの中に入っているのは教科書とコンビニの袋だけのハズだった。

 不要なモノは持ち合わせていない。

 財布など入っているハズがないのだ。

 なぜなら、自分の財布はポケットの中に入っているのだから。

 なら、どうして、自分のカバンの中から財布が『もう一つ』出てくるのだろうか?

 見覚えのない財布。

 それは紛れも無く他人のモノで、

「あ、……私の、財布」

「え?」

 梅川が取り出したのは、

 なぜか高井光流のカバンの中に入っていた『江丸冷夏の財布』だった。



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