【三題噺】君が私にくれたもの。
君から貰ったものは数え切れなくて。
泣きたい時の笑い方。
前を向いて生きていく方法。
誤解の優しい解き方。
だから、君が私の前からいなくなるなんて信じたくなかった。
「ごめんね」
見送りに来た私に君は淋しげに笑った。
私は黙って俯く。
口を開いたら泣いてしまいそうだった。
「……さよなら」
顔を上げたいのに、笑いたいのに。
教えてもらった笑い方が思い出せない。
さよならじゃないよ。
唇が震えただけで声にならなかった。
君が誕生日にくれた紅葉のしおり。
手作りだから無骨でごめんね。
なんて少しだけ照れて言った君。
一人で見る海辺は淋しくて悲しくて。
君が好んだ蜜柑の炭酸。
ペットボトルの蓋を捻れば、シュワシュワと弾ける泡。
口に含んで、その刺激が緩んだ涙腺を決壊させた。
ポケットから手紙を引っ張り出す。
なんども書き直しても、納得がいかなくて、結局渡せなかった。
砂浜に下り、靴が濡れるのも構わず波に立ち入る。
跳ねた飛沫が頬を濡らす。
悔しかった。
いろんなことが悔しかった。
俯けば、水を鏡に顔が写る。
ひどい顔をしていた。
はっとして涙を拭う。
ペットボトルの中身を飲み干す。
空になったそれに手紙を押し込む。
そして、大きく息を吸う。
『深呼吸して、大好きな人の笑顔を思い出して』
記憶の中の君が笑う。
『そしたらほら、涙なんて流れない』
「そうだね」
くっと前を向く。
君から貰ったものを大切にしたい。
涙はまだ流れるけど、頑張ってみる。
「さよならになんて絶対しないからっ」
私は笑って、泣いて、叫んだ。
手紙入りのペットボトルを海に投げる。
家に帰ったら手紙を書こう。
あとしおりを作ってみる。
そして、今度こそ伝えるんだ。
君が私に数え切れないぐらい、いろんなものをくれたこと。
三題噺として書きました。
空のペットボトル、水鏡、しおり。