目撃者を探しています。
12月4日(金)
大学生の渡太一はバイトを終えて自宅へ帰る時、母親から頼まれていた物を買うため、いつもとは違う道で帰る事になった。
すると信号待ちをしている横断歩道である看板が目に止まる。
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目撃者を探しています
令和8年12月6日(日)午前7時30分頃、この場所で黒の乗用車と歩行者の交通事故が発生しました。
この事故を目撃された方は下記までご連絡下さい。
ご連絡先 ○○警察署 交通捜査係
○○○ー××××ー△△△△
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(なんだこの看板)と思うと共に(これは面白い話題なるぞ)とケータイで写真を撮った。
その写真を見て太一はこの先を想像し一人薄ら笑いを浮かべる。
今であればこの看板より太一の方が話題になると思える程、一人不気味な顔をしていた。
「あの~」
その後、時間のあった太一は最寄りの交番へ行き、写真を見せて話を始める。
「あぁ、それは間違いじゃないですよ」
対応してくれた警察官は、さも当然のように返答した。
その返答が信じられない太一は「これ、未来の日付になってるんですよ?」と改めて確認する。
「はい、そうですけど? もしかして目撃されたんですか?」
警察官の頓珍漢な答えに理解が出来ず、まるで自分が間違っているかのような感覚に陥る。
「いいえ…、目撃はしてないです」
「そうですか」
「…」
「まだ何か?」
その言葉を合図に交番を出た。
この事も含めて話題にしようと一人想像を膨らまし、また不気味な顔のまま帰宅するのであった。
12月5日(土)
太一はこの日もバイトがあり、後輩ではあるが同い年の女の子、新垣由美に早速、昨日の出来事を話題に出した。
簡単に言ったがこれは太一にとって重要な事である。
この時の為に自宅で話す順番を考え、家族で試し、一生懸命に練習した。
太一はそれ程、彼女に好意を持っていたのだ。
練習したかいもあり、見事彼女の笑顔を見る事が出来た太一は内心ガッツポーズをとり、満足げに次の話題を振る。
それは以前から話していた共通の趣味、最近の映画についてだ。
「明日の休みはこの映画を観に行って、ついでにこれも観ようかなって思ってる」
太一は自分のタイムスケジュールを彼女に伝えて精一杯のアピールをする。
「その二つ私も気になってたんだよ、でも時間的に合わなくて…、何処の映画館だとその二つ観れるの?」
案の上、彼女はこの話題に乗ってきた。
これは太一が彼女の好きなジャンルや出演者などの情報をかき集め、興味を引いた結果である。
「家からも少し離れてるんだけど都内にある○○映画館で観れるよ」
もちろんこの映画館は太一がいつも使っている映画館では無く、最後の言葉に対する布石であった。
「へぇ~、いいなぁ~」
太一はこの言葉を待っていた。
心臓が飛び出す程に脈打つのを感じながら、冗談っぽく「じゃあ一緒に行く?」と勇気を振り絞って彼女に伝える。
返ってきたのは「う~ん…」というような気の抜けた返事であり、この様子を見て失敗を予感し既に後悔を始めていた。
(そりゃ返事に困るよな、黙ってれば良かった)
彼の思考回路はネガティブなもので溢れている。
「いいよ」
「えっ?」
「だから映画観るの一緒に行ってもいいよ」
この時の太一の喜びようは既にその想いを隠す事など出来ずに純粋であった。
そんな様子の太一を見て由美は「ふふっ」と笑い待ち合わせの時間と場所を決めていく。
太一にとってこの時間は何よりも幸せな一時であった。
そんな浮いた気持ちで太一は帰り道を歩く。
だがそんな時にも関わらずふとあの看板が頭を過る。
少し遠回りになるが見てみようと再びあの場所に足を運び、その内容の変更にぎょっとする。
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目撃者を探しています
令和8年12月7日(月)午前7時30分頃、この場所で黒の乗用車と歩行者の交通事故が発生しました。
歩行者の服装は【青のダウン】【黒のジーパン】【赤いスニーカー】20代前半の男性です。
この事故を目撃された方は下記までご連絡下さい。
ご連絡先 ○○警察署 交通捜査係
○○○ー××××ー△△△△
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その服装は太一が好んで使う服装であり、明日も当然着ようと思っていた格好だったからである。
まるで予知のような看板が自分の未来を指しているようで背筋に悪寒が走ったが、せっかく漕ぎ着けた彼女とのデートを断る訳にはいかない。
そもそもこの道は太一が普段使う道では無い。
それに逆を返せば当日、早い時間に出て服装を変えれば良いだけの事である。
念のため、いつもとは違う黒いダウンを着れば良いという結論を頭の隅に置き、その後は明日のデートに備えてシュミレーションを繰り返し失敗しないように努める事にした。
12月6日(日)
太一はなんとなく目を覚ます。
7時30分、その時刻は本来起きるべき時間より1時間も遅い、この窮地を頭で理解するより早く体が察し動いていた。
この時の太一の動きは無駄がなく、刹那とも呼べる速度で身だしなみを整え家を出る。
(7時55分の電車にはまだ急げば間に合う!)
せっかく整えた身だしなみも意味が無い程、全力で走る。
いつもの道、いつもの横断歩道、青が点滅する。
【ドン!!】
その音で注目を集めるのは必然である。
若い男が黒の乗用車と接触した瞬間の音だ。
車が止まり「大丈夫ですか?」と優しそうな50代程の女性が直ぐに出てきて20代前半の男性と話し合いが始まった。
男を見るとまさしく予知されていた看板と同じ姿であり、太一は予め決めていた自分の黒いダウンを見て、ほっと一息つく。
「あぶねぇだろうが!!」
男の怒鳴り声で我に帰ると「すいません、すいません」と女性が必死に謝っていた。
この瞬間で彼らの関係性は決まってしまっていた。
「謝って済む問題じゃねぇだろが!」
「どうすんだよ! どうすんだよ!」
男は怒鳴り散らして恫喝する。
考えれば太一が通った時に信号は既に点滅しており、渡り終えた時には既に赤信号になっていた筈なのだ。
にも関わらず反対側で接触事故が起きるのはおかしい、だが女性は慌てており思考回路が停止していた、それに彼女の性格も相まって男性の言葉を否定する胆力も無い。
この女性が困っている様子を皆知りながら見て見ぬふりをして通り過ぎる。
遠くから同い年ぐらいであろう若者達が面白半分で動画を撮っている。
触らぬ神に祟りなし、今は自分が安全圏にいながら他人を話題にする時代である。
皆そうしてるから何の問題も無い、そう皆そうしてるから…。
「あの!」
「あぁ?」
「とりあえず警察呼びましょう」
太一は男と目を合わせず女性に促した。
「おい! てめぇなんだよ!」
相変わらずの怒鳴り声で太一に詰め寄る。
そんな状況を遠くの若者は撮り続け「救世主きた」などと盛り上がっていた。
「俺はただの目撃者です」
「目撃者? おいババア! コイツが俺にお前の車がぶつけてきた所を見たってよ!」
男は笑いながら女性に告げる。
「いえ、見てはないです」
「は?」
「見てはないですけど俺が信号を渡りきった時、丁度赤信号になったので反対側で接触事故が起きるのはおかしいかと」
「は? 何お前? 俺が悪いって言いたいわけ?」
先程まで笑っていた男の顔が凄んでいく。
「いえ、そうゆう訳では無いです、ただ俺はそう証言するだけです」
「はぁ!? 証拠も無いのにてめぇは何様だこら!!」
太一は話をする時も今回のデートも計画的に動くタイプである。
この男がそう言ってくるのを待っていたといわんばかりにある方向へ指をさす。
「証拠ならありますよ、彼らがずっと撮ってましたから」
突然巻き込まれた彼らは慌てていたが、これが太一の作戦であった。
この目の前の男を黙らせる事、安全圏から面白可笑しくネタにしている者達へ知らしめである。
「おい! 何撮ってんだ!」
と怒鳴りはしたが先程までの勢いは無い。
証拠があると分かるや否や男はしおらしくなり、先程とは別人のようであった。
その後、警察官立ち会いのもと話し合いとなったが、結果としてこの接触事故は男の信号無視という形で落ち着いた。
あの看板によって一人を冤罪から救ってはいたが、その代償は大きく彼女とのデートをすっぽかす形となってしまった。
「この間は本当にごめん!」
バイト先で会うなり太一は彼女へ必死に謝る。
一番ショックなのは太一であったが彼女にこれ以上嫌われたくない想いが強く唯々謝った。
「いいよ、それメッセージでもやり取りしたし大変だったんでしょ?」
「そうだけど、せっかく時間を作ってくれたのに悪いから…」
色々と考え準備する太一もこの後の事に関してはどうする事も出来ない。
分かりやすく落ち込んでいる太一に彼女は言った。
「で、いつ行くの?」
「いつ行くって?」
「映画よ、二人で見る約束だから私見てないんだけど?」
何やら話が予想だにしない方へ進んでいく。
「えっ? だってチケット買ってたのに見なかったの?」
「そう! 今回のチケット代返してよね!」
「というより映画見る時、チケット代私の分も払ってよ、それでちゃらにしてあげる」
こんな未来にいけるとは露程も思っていなかった太一はあの看板は予知ではなくお告げに近いものだったのでは無いかと思うのだった。
(了)




