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たまに重たい、誠の旗 ーー新撰組の縁側

作者: 湯好き御幸
掲載日:2026/02/03

新しい大きな誠の旗を掲げた新撰組。

 寄せ集めの新撰組をまとめるため 旗には役割があたえられていた。




誠の旗が、風に舞う。

新しい布の匂いが、まだ血を知らない白さを保っている。


「誠の旗だ」


近藤勇の声は、まっすぐで、迷いがなかった。


夕方。

縁側に並んで座り、草履を脱いだまま、誰もが黙っていた。

血の匂いは、まだ落ちきっていない。


原田左之助が、鼻で笑う。

「……近藤さんよ。

自分は安全なところで、いろいろ言ってくれるよなあ」


誰も、すぐには返さない。

その沈黙が、答えだった。


斎藤一が、低い声で言う。

「目の前で、年若い組下が怪我をしたり、命を落としたり……

そういう経験は、ないだろうな」


責めるでも、庇うでもない。

ただの事実だった。


永倉新八が、縁側の板を見つめたまま、ぽつりと言う。

「誠のため、か……

百歩譲ってよ。俺の命だけなら、くれてやってもいい」


少し間を置いて、苦く笑う。

「どうせ、ここで生きるしかねえからな」


沖田総司は、膝を抱えたまま、黙って聞いていた。

いつもの軽口は、出てこない。


「……でもな」


永倉が続ける。

「組下は、違う」


原田が、強くうなずく。

「ああ。

組下の命はよ、旗より大事だ。誠よりもな」


沖田は、そこでようやく笑った。

「……だよねえ、」


その声は、いつもより低い。


「誠が立派なのは、もう知ってるしさ。

旗も、きれいだよ。かっこいい」


でも、と続ける。

「まるで、旗のために 隊士が死んでもいい みたいな言い方……

あれ、ちょっとさ」


誰かが、小さく息を吐いた。


沖田は、夕焼けを見ながら言う。

「僕ら、今日を生き延びるのに必死でさ。

……え、旗?って、思っちゃったよ」


縁側に、しばらく静けさが落ちる。

重くはない。

同じものを見てきた者同士の、共有だった。


原田が立ち上がり、言う。

「ま、なんだ。

明日も、生きてやるしかねえな」


「うん」


短く、誰かが笑った。


誰も、もう旗を見なかった。

誠の旗は、少し離れたところで、

相変わらず美しく揺れていた。


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