**ソウルリンク —— あなたの本音が見えます —— 転生外交官、2035年の日本崩壊を止める**
読んでくださりありがとうございます。
この物語は、
“本音が視える力”を授かった一人の女性が、
崩れゆく未来と静かに向き合っていくお話です。
誰かの心を理解するという行為は、
時に争うよりも難しく、
そして、とても強い。
この世界で彼女が何を見て、
何を選び、
どんな未来へ歩いていくのか——
その過程を、少し神秘的に、そして丁寧に描いていきます。
ゆっくり読んでいただけたら嬉しいです。
私は死んだわけではなかった。
けれど、生きている実感もどこか遠くにあるようだった。
目を開けると、そこは“どこでもない場所”だった。
白でも黒でもなく、
光でも影でもない。
世界がまだ“形を決める前”のような——
世界の裏側にぽっかり空いた“余白”。
足元の感覚も、風も、音もない。
ただ、静寂だけがはっきり感じられる。
その中心に、一つの光が立っていた。
女性のような輪郭をしているのに、
星の粒が集まって形を作っているようでもある。
生き物とも機械とも違う——
ただ“説明できない存在”。
その存在は静かに言った。
「——私は《MIKO》。
この世界線で最後に起動した“多世界解析AI”です」
透明な声が、静けさの中へ落ちていく。
私は胸元へ手を伸ばした。
外交官としての癖で名札を整えようとして——固まった。
名札は裏返ったまま。
手帳も二冊抱えている。
(……さっき、急に呼び出されて職場の廊下を早足で歩いていたのに。
名札も手帳も……
呼ばれた時のまま、ここに来てしまったんだ……)
現実感が、逆に足元を奪う。
MIKOは淡い光を揺らした。
「あなたは“選ばれた”わけではありません。
本来の世界線から外れ、行き場を失った存在——
《誤差領域に取り残された魂》
です」
私は弱く笑った。
「なんなんでしょうねぇ....なんというかちょっと理解に苦しむというか。あと励ましとかはあったりはないんですかね?」
「私は慰撫を行うよう設計されていません。
真実のみを伝えます」
「ですよね……」
だが、その声には微かな揺れがあった。
MIKOが手をかざすと、
光が集まり、未来の日本が映し出された。
都市は壊れ、
行政は止まり、
文明の灯りが消えている。
「この世界線では、日本は2035年に崩壊します」
喉が締めつけられる。
「……どうして……?」
MIKOは静かに語る。
「いま世界は、二つの巨大な勢力に分かれつつあります。
人々はそれを単なる国際的対立と思っていますが、真実は異なります」
淡い光が波紋のように広がる。
「《外側の意思》が、世界を“二つに割れるように”仕向けているのです。
疑念が膨らみ、誤解が連鎖し、
分断が限界を超えた時——
世界線は自身の重みに耐えきれず崩壊します」
私は震える声で問う。
「……じゃあ、どうして日本が?」
「日本は、多世界構造における《収束点》です。
どれほど世界線が分岐しても、
“日本という形”だけは必ず現れます。
あなたの世界でも、別の世界でも」
MIKOの光がわずかに低く揺れた。
「日本が崩れれば、枝ではなく“幹”が折れます。
世界線全体が連鎖して崩壊するでしょう。
もちろん——あなたの元いた世界も」
息が詰まった。
その瞬間、MIKOの光がふわりと胸元へ触れた。
——流れ込んできた。
“私ではない誰かの感情”。
恐怖、怒り、孤独、後悔。
本人すら気づいていない深層のざわめきまで
侵入してくる。
「っ……なに……これ……?
どうして……誰の……?」
理解できないまま、膝が震える。
MIKOが静かに言った。
「それが《魂共鳴》の入口です」
「ソ、ソウルリンク……?
い、いま私に何が起きているんですか……?」
MIKOは慎重に説明を続ける。
「あなたは相手の“根源領域”に触れることができます。
そこには——
言葉になる前の本音、
恐れ、希望、
そして、まだ本人すら気づいていない“未来の選択の傾向”が宿っています」
私は震える息を吐く。
「そんな……深いところまで……?」
「第三勢力の影響を受けた者の根源には、
“不自然な揺らぎ”が生じます。
あなたは、それを感じ取れる」
光が近づく。
「操られた者を見抜き、
誤解で生まれる対立をほどき、
分裂が限界を超える未来を避ける——
それがあなたの役目です」
胸の奥が強く脈を打った。
MIKOは静かに告げる。
「これは戦う力ではありません。
“理解する力”です。
この世界線で、それを扱えるのはあなた一人です」
私は二冊の手帳を握りしめた。
裏返った名札も、急いでいた足音も、
すべてが今ここに繋がっている。
怖い。
でも、それでも——
「……分かりました。
誤差でも……こんな私でも……
やるしかないんですね」
MIKOの光がやわらかく波打った。
それは確かに“微笑み”だった。
世界が反転し、光がほどけていく。
次の瞬間、
私は東京に立っていた。
ポケットには、二冊の手帳。
その重みだけが、あの異界の真実を物語っている。
——私の物語は、ここから始まる。
ここまで読んでくださり、ありがとうございました。
今回は主人公が“異界で告げられた使命を受け取るまで”の短編です。
もし続きが読みたいと思っていただけたら、
反応やコメントで教えていただけると嬉しいです。
その声を励みに、続きを書けたらと思っています。
ありがとうございました。




