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魔王の愛した料理人  作者: 仙葉康大
第一章 ~邪竜の竜田揚げ~
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負けられない理由

 邪竜は大きなくしゃみをすると、リンリに向かって炎を吐いた。避ける余地がないほどの広範囲攻撃。リンリは包丁を縦に振り下ろし、炎の波を割る。開けた道を走り、足に魔力をためて空へ飛ぶ。邪竜の目の前。


「半月切り」


 万物を真っ二つにする斬撃を邪竜は鋭い爪で受け止め、リンリを火口へと叩きつける。


「冷却魔法」


 下に放ち、マグマを冷却して作った足場に着地するリンリ。顔についた煤をコックコートでぬぐい、奥歯を噛む。やはり、一筋縄ではいかない。


 リンリは包丁に伝わせる魔力を倍にし、射程を伸ばし、切れ味を上げる。呼吸を整える間もなく邪竜の追撃。上空から押しつぶすような火炎放射。リンリは背中のフライパンを抜き、ガードする。足場が崩れる。マグマに片足を焼かれた瞬間、もう片方の足で空を蹴り、火口から脱出。


 まともに戦っては勝てない。しかし、リンリには負けられない理由があった。


 炎に焼かれながらも距離を詰め、邪竜の横っ面にフライパンで重い一撃を入れる。

 ベルゼに決断させたのは、自分だ。


 邪竜がお返しと言わんばかりに鋭い爪でリンリを切り裂く。

 賢者の石焼きビビンバを食べなければ、ベルゼはあのような結論には至れなかったはずだ。


 邪竜の火炎の咆哮とリンリの焼成魔法が激突する。


 だからリンリは、負けられない。邪竜をしとめ、ベルゼに明日の昼食を召し上がっていただかなくてはならない。一人城に残り、殺される、などという選択をさせてしまったから。


 顔も手も火傷だらけだった。だが、漆黒のコックコートは、破けていないし、燃えてもいない。エルフの森に生息する蚕の糸で織ってあるこのコックコートには、天使の加護以上に特別な加護が宿っている。脳裏に、今は亡き王妃様の顔が浮かんだ。


 降り注ぐ火炎をよけながら、リンリは思考を巡らせる。認識を改める必要がある。どれだけ図体がでかかろうと、どれだけ濃い魔力を放っていようと、しょせんは食材だ。これは殺し合いではない。ただの食材の調達だ。食材は、料理人によってさばかれる。どんなに食材が暴れようと、料理人の優位は変わらない。


 すべての魔力を解放し、料理人としての矜持を芯に立ち、宣言する。


「魔王城筆頭料理人リンリ・ルルコース。これより、調理を開始します」


 邪竜が一瞬、すくむのがわかった。その隙をリンリは見逃さない。


「微塵切り」


 邪竜の長い尾が先っぽから細かく切られた。その速度は、人間の域を超えていた。邪竜は痛みに吼え、首をねじらせ、火を吐く。フライパンで防御し、次の攻撃に移る。


「角切り」


 邪竜の左足が無数のサイコロ状に切れ、体勢が崩れたところに畳みかける。


「乱切り」


 リンリは自身の体を回転させ、その遠心力を利用して、邪竜の大きな体をざっくばらんに切っていく。炎のかぎ爪を包丁ではじき返し、その巨体から発せられる絶叫さえも切り刻む。ありったけの炎と黒煙を闇雲に吐き散らす邪竜。


 リンリは顔に新たな火傷を負い、肺に刺すような痛みを抱えながら、包丁をふるった。首を胴体から切断する一撃。


 空を舞い、リンリのもとに落ちてくる竜の頭部。


「飾り切り」


 邪竜の額に包丁でバツ印を入れ、リンリは長く息を吐いた。周囲を見回すと、赤黒い肉片が火口のあちこちに散在している。回収し、早く城に戻らなければ。


 コックコートのポケットから、大風呂敷を取り出し、縮小魔法を解除して広げる。火炎蚕かえんがいこの糸で織られているこの風呂敷は耐火性をもち、決して燃えない。ダメージを追った足をひきずりながら、邪竜の肉を風呂敷の上へと放っていく。


 空が白んできた。もうすぐ朝日が昇る。麓から城までロスの足でも四、五時間はかかる計算だ。このままでは、間に合わない。


 そのときだった。風を裂くような遠吠えとともに、ロスが山頂へと駆けのぼってくるのが見えた。軽快な足取りでリンリのもとに到着したロスは、長い舌でリンリの全身をひとなめした。


「ロス、麓で待ってなさいと言ったじゃないですか」


 ロスはそしらぬ顔で、辺りに散らばっている肉の一塊をくわえ、風呂敷の上に置いた。火口の険しいところまで乗り出し、首を伸ばし、回収できる肉はすべて回収していくロス。その動きには無駄がなく、手負いのリンリの倍以上の働きっぷり。


 それでも、今から山を下りて、城に戻り、料理する時間も考慮すると、猶予はない。


 大陸の果てから朝日が昇り始めた。

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