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魔王の愛した料理人  作者: 仙葉康大
最終章 ~帝蛇の燻製~
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冥氷魔法と悪魔の翼

「ミレイ、お前、遅かったじゃねえか」

「あんたが速すぎるのよ。魔王様、失礼します」


 透明なガラスの器に盛られているかき氷を匙ですくい、ベルゼの口へと差し入れる。苺の甘い味が口の中に広がり、のどを冷やす。


「これは」

「冥界の氷を削り、楽園産の苺より抽出したシロップをかけたかき氷でございます」


 言いながら、ミレイは二口、三口とかき氷を食べさせていく。


「小賢しい。どんな料理を食べたところで、この絶大なる僕の聖力の前では無意味。死ねっ」


 光炎が爆ぜ、セカイの剣撃がさらに重たくなった。

このままでは全滅する。けれど、ベルゼの脳内はこれまでにないほど澄み切っていた。冥界のかき氷を食べることで得た魔力をどう使えばいいか。自然とわかっていた。


「冥氷魔法」


 刹那、聖剣が凍り、勇者セカイは氷の塊の中に閉じ込められた。


「今のうちに負傷者を医務室へ運ぶのだ」


 しかしそもそも負傷していない者は数名しかいない。


「伝令兵、伝令兵は要るか? こちらに人員をよこすよう言ってくれ」

「その必要はありません」


 そう言ってなだれ込んできたのは、ティア副料理長と食中毒の調査に行っていた治癒部隊だった。


「魔王様、遅くなりました。負傷者の搬送及び治癒は我らにお任せください」

「助かる。速やかにここから退避させてくれ。勇者セカイはまだ――」


 死んでいない。そう言いかけた瞬間、氷が真っ白な翼によって砕かれた。


「まさかこれを出すことになるなんて思ってもみなかったよ」


 勇者セカイは背中から生やした天使の翼を動かし、宙を舞った。


「君はいったい」


「勇者さ。でも、そこらの勇者とは違う。熾天使様から直接、祝福を受けた、当代最強の勇者、それが僕だ」


 上空から鋭い角度で斬りかかって来るセカイ。ベルゼは竜の爪で受けようとしたが、旋回され、脇腹を切られた。


「ベルゼっ」

「魔王様っ」


 ジャンとミレイが叫ぶ。ベルゼが叫び返す。


「心配するなっ。このぐらい何ともないっ」


 血が出る脇腹を押さえ、次に来る攻撃に備える。空を自由に飛びまわるセカイの動きを眼で捉えようとするが、速い。それに自由自在に回転し、予測不能な動きで斬りかかって来る。


「どうすれば」

「ベル君っ」


 ベルゼのことをそのように呼ぶのは城内でただ一人。思わず顔をほころばせ、ベルゼは言う。


「待っていたぞ、ブルゴ」

「遅くなってすまないだ、これ、食べて。おいらの渾身の一品だ」


 ブルゴの大きな手の平の上にちょこんと乗った一皿。そこには、黒くて薄いチップスが盛られている。


「これは?」


「悪魔馬鈴薯を薄切りにして揚げたポテトチップスと呼ばれる料理だ」


 一枚取り、食べる。塩味が効いていてうまい。二、三枚、つかみ、一気に口に入れ、音を立ててほおばる。


「うまい、うまい。強烈な旨味だ」


 食べているうちに、ベルゼは背中に魔力の胎動を感じた。


「また料理か。いい加減に死ねっ」


 セカイが急降下するのが見え、ベルゼは残りのポテトチップスを大急ぎで口に詰め込んだ。視界に聖剣がきらめき、ミレイの絶叫が聞こえたそのとき、ベルゼの背中から魔力が噴き出て、黒い翼が顕現した。紙一重で聖剣をかわし、そのまま飛翔。


「何だ、それは?」


 悪魔の翼にうろたえるセカイに対し、今度はベルゼが上空から急降下し、竜の爪を叩き込む。


「くそっ、またもや僕に傷を」


 セカイは切り裂かれ、血のにじむお腹を押さえながら、再び光る輪っかを取り出して、かじった。すると、みるみるうちに傷が癒えていく。


「てめー、ずるいぞ。その光るそれ、何なんだよ」ジャンがわめいた。


「ずるいだなんて心外だな。僕は君たちと同じことをしているだけだ。これは、勇者一行付料理人が僕に持たせてくれた回復料理。天使の輪っかドーナツだ。一口で致命傷から全回復するほどの驚異的な回復力を誇る。これがある限り僕に負けはない」


「ベルゼ、あのドーナツ奪え」


「そうしたいのはやまやまだが」


 セカイが聖剣を構える。研ぎ澄まされた集中力だ。まるで隙がない。


「来ないのなら、こちらから行くぞ」


 飛翔し迫りくるセカイ。ベルゼは翼を動かして回避行動をとるが、追いつかれ、蹴りを食らう。追撃の聖剣を竜の爪で弾くも、さらに蹴りを食らう。戦闘技術においては明らかに相手が上。


「このままでは、厳しいな」


 視界の端で何か飛び跳ねている。料理人。ベルゼは対空戦のさなか、広範囲に冥氷魔法を放った。セカイが大きく旋回し、魔法を回避している間に、料理人のもとに降下する。

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