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魔王の愛した料理人  作者: 仙葉康大
最終章 ~帝蛇の燻製~
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新たなる食中毒

 ティアが厨房に移動している間にも新たな食中毒患者がつぎつぎと運び込まれていた。みな、広場で販売されていたクレープを食べた者たちだ。その中には、クレープを最後まで食べきっていない子どももいた。ティアはそのクレープを持ってきてもらい、しげしげと観察した。具は苺とチョコと生クリーム。見た目も匂いもおかしなところはない。


「よし、食べよう」


 ティアはおなかに力を入れると、クレープをぱくりとひとかじりした。


「あ、おいしい」


 もう一口食べ、目をつむり、咀嚼する。苺にちょっとした酸味、チョコは甘いだけで苦味はない、生クリームはくちどけがよくしとやかな甘さ。生地もおいしい。けど、何かおかしい。この生地、もっちりしすぎている。それに味がまるでしない。ああ、そう言えば、おじいちゃんが言ってたっけ。天界には、変な卵を産む鶏がいるって。私たち魔族は、その卵を絶対に食べちゃダメだって。


 院長と治癒部部隊隊長の視線を受け止め、ティアは言う。


「わかりました。このクレープの生地に使われている卵、それが食中毒の原因です」


「卵? しかし、卵で毒のあるものなどあまり聞きませんぞ」と治癒部隊隊長。


「天界でしか採れない卵ですから」


「まさか」と院長。


「はい、刑卵けいらんです。天界の雲のみを食べて育つ鶏が生む、魔族に刑罰をもたらすと言われる卵がこのクレープの生地には使われてて、それが食中毒の原因というわけです」


 そう言ったそばから、ティアは体にすこしの怠さを感じ始めていた。


「それじゃあ、さっそく買い出しに行かなきゃ」


 瞬間、ティアの視界が気持ち悪く揺れた。治癒部隊隊長が駆け寄り、ティアを椅子に座らせる。


「食材の調達ならば、我々が行います。必要な食材を教えてください」


 ティアは解毒料理を作るのに要る食材を口頭で伝えた。


「どれも城下町の市場で買えるものです。ほんとはこれ、料理人の仕事なのに、ごめんなさい。よろしくお願いします」


 病院の看護師たちに治癒魔法をかけてもらいながら、ティアは食材の到着を待った。その間、彼女の胸中を支配していたのは、どうしてという感情だった。


「ティア殿、言われた通り食材を買いこんできましたぞ」


 箱に入った食材が厨房に運び込まれる。ティアは深呼吸して立ち上がる。


「ありがとうございます。すぐに解毒料理っていうか饅頭を作ります」

「饅頭?」

「はい、解毒は饅頭に限る。おじいちゃんの口癖です」


 砂糖を水に溶かし、薄力粉やベーキングパウダーなどの粉類をふるいにかける。ざっくり混ぜて生地完成。買ってきてもらった「悪魔餡子」を一口大に丸め、伸ばした生地で悪魔餡子を包む。器に入れ、蒸気魔法を発動する。


 ティアはどんどん重たくなっていく体で、吐き気を催しながら、痺れる手先で饅頭を瞬く間に作った。


「できましたっ、患者に持って行ってください」


 大急ぎで看護師が解毒饅頭を運び出す。それを見届けて、ティアはその場にへたり込んだ。胸が気持ち悪い。体中を痛みが駆け巡っている。ひどい吐き気がこみあげてきた。


「ティ、ティア殿、食べれますか?」


 治癒部隊隊長が口元に持ってきてくれた饅頭をティアは一口でほおばり、懸命にあごを動かし、食べる。痺れ切った舌に悪魔餡子の溶けるような甘味。咀嚼し、少しずつ飲み込む。体に力が戻って来る。水をいっぱいもらうともう全快。急に立ち上がり、指でピースして見せる。


「ああ、すっきりした。解毒成功ですっ。流石副料理長とほめてくれていいんですよ。えっへん」

「患者も饅頭を食べた途端、体調がよくなったと今、報告が入りました」と院長。

「流石です、本当に流石ですぞ、ティア殿」治癒部隊隊長が言った。

「一件落着ですね。よかったよかった」


 ティアと治癒部隊はすぐに城に戻るのではなく、患者たち本人からヒアリングをすることにした。食中毒は解決したが、クレープを売っていた人物はまだ捕まっていない。


「二十代か三十代ぐらいの方で、男性か女性かはちょっと。中世的な顔立ちだったので。声や物腰は女性のようには感じたんですけど、確証はありません。髪は翠色で、後ろで一つ縛りにしていたような」


 患者の一人であり、最も症状が重かったセエーヌはそう証言した。


「でも、あのクレープが本当に原因だったのですか?」

「はい、間違いなくあのクレープが原因です」


 ティアがそう言うと、セエーヌはうつむいた。


「そう、ですか。でもきっと、故意ではないと思うんです。私、あんなにおいしいクレープ食べたの、初めてで、ひどい目にあったのにまた食べたいとさえ思うんです。変、ですよね?」


「全然っ」


 ティアは言った。


「私もそう思います。お大事に」


 ティアは病院にとどまり、犯人確保の報せが入って来るのを待った。街には魔王軍による捜査網が敷かれ、犯人が捕まるのは時間の問題のはずだった。


「はい、こちら治癒部隊」


 通信魔法が入った。治癒部隊隊長は表情をこわばらせ、「すぐ向かう」と短く言い、通話を切った。ティアはすぐ尋ねる。


「犯人捕まりましたか?」


 治癒部隊隊長は首をふり、告げた。


「魔王領北域を管轄する北森病院からの緊急要請です。患者の治癒を手伝ってほしいと」

「まさか」

「はい。新たなる食中毒です」

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