星の浜辺
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夜空に星がうるんでいる。風の音と波の音が折り重なる浜辺。
虹色の鱗をもつ大きな蛇の胴体に背中を預け、リンリとバハムは海を見ていた。
「さすがに疲れたな」
「ええ」
「しかし、ローザはどうしてこんな蛇の死体が欲しいのか、俺にはわからん」
「薬の材料にするのでしょう。希少素材であることは確かです。なんといっても世界に一匹しかいない帝蛇なのですから」
「ガハハ。その一匹を俺たちは倒したのだぞ。もっと喜べ」
そう言ってリンリの肩を抱くバハム。それからしばらくの間、二人は身を寄せ合い、沈黙していた。
「ソラに結婚を申し込んだ」
「そうですか。返事は?」
「本当に私で良いのですか、とそう言われた」
「それで?」
「お前が良いのだと言ってやったわ。そうしたら、嘘をつくなと怒られてな」
「嘘ではないのでしょう?」
「無論だ。ソラは、俺にとってかけがえのない存在となった」
「ならば何の問題もないでしょう。ソラもあなたのことが好きですよ。すぐにではなくとも、結婚を受け入れるでしょう」
夜の海は星々のきらめきを反射しては、波の音を返している。
「リンリよ、気は変わらんか?」
「は?」
「その、俺と結婚する気はないか?」
「あなたはソラと結婚するのでしょう」
「俺は魔王だぞ。妻を一人に限る理由などないわ。それに、お前に結婚を申し込むのは、これが初めてではなかろう。俺の気持ちは全く変わっておらんぞ」
「私の気持ちも全く変わっていませんよ」
「しかし、ソラが言うには、お前は俺のことが好きなのだろう」
「ええ」
「ならば結婚しよう」
「いえ」
「なぜだ? どうしてそうかたくなに拒む?」
リンリは言った。
「――怖いのです」
「俺がか?」
「あなたのことなど怖くありません。私が怖いのは、あなたと家族になること。家族になって、いつかあなたを失うこと」
「ガハハ。ならば何も問題ないではないか。俺の方がお前より長く生きればいいだけのことだ」
「それを信じられたらどんなにいいか。でも、私はもうそんなふうに楽観できないのです。私の故郷がどうなったか、バハム、あなたは知っているでしょう」
一瞬の静寂。
「あんなことは、二度と起こさせん」
「ありがとう。でも、どうしても勇気がでないのです。魔王と料理人という職務上の関係の今でさえ、あなたの死を思うと、たまらなく怖いのです。私は、あなたと家族にはなれません」
リンリがそう言うと、バハムは力なく笑った。
「そうか。だがリンリよ、忘れるな。俺はお前との関係を職務上のものだと思ったことなど一度もない。俺にとってお前は、家族以上の存在だ。そのことを忘れるな。これは王令だ」
「かしこまりました、魔王様」
そう言うとリンリはバハムの胸に顔をうずめた。けれど、泣き声はしなかった。涙も一滴も流れていないようだ。ただ波の音がだけが聞こえていた。
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