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魔王の愛した料理人  作者: 仙葉康大
第一章 ~邪竜の竜田揚げ~
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賢者の石焼きビビンバ

 会議室では、激しい議論が続いていた。


「勝ち目はありません。城を捨てて逃げるのが得策かと」

「逃げ切れるわけなかろう。聖竜は三日で大陸を横断するほどの速さだぞ」

「他の魔王への援助要請はどうなっている?」

「すべて却下されています。バハム様亡き今、我が城のために聖竜と戦う義理はないとのこと」

「降伏するか?」

「したところで、天界は魔族を許さぬ。決して」


 そのとき、正午を告げるチャイムが魔王城に鳴り響いた。


 リンリは粛々と配膳を始める。


「こんなときに食事など摂っていられるか。聖竜到来は明日に迫っておるのだぞ」

「こんなときだからです」


 リンリは口答えした軍幹部へ冷たい視線を送る。


「空腹は判断を鈍らせます。この城の料理長として、食事を抜いて会議を続けるなどという愚行は、看過できません」

「うむ。リンリの言う通りだ。食事にしよう」


 ベルゼの一声でその場はおさまった。全員、不平不満を口には出さないが、疲労は着実に溜まっている。リンリは配膳を速やかに終えると、一礼し、ベルゼの後ろに立った。


「いただこう」


 高温の石の器に盛られたビビンバを匙ですくい、食べる。文官も軍幹部もいったん食べ始めると、その手が止まらない。水を飲むのも忘れたかのように一気呵成にビビンバをたいらげていく。


 ベルゼは一口ずつよく噛んで飲み込んでいく。時折、何かを思いついたように表情をはっとさせた。


「なんだか、やけに頭が冴えてきた。リンリ、この料理は?」

「石焼きビビンバでございます」

「そうか。しかしぼくの器だけ皆とは違う色をしている」


 魔王は緋色の器をしげしげと眺め言う。


「この器に秘密があると見た」

「ご明察恐れ入ります。その器は、賢者の石でございます」

「なるほど。賢者の石焼きビビンバというわけか。道理で頭が冴えてくるはずだ。ありがとう、リンリ。君のおかげでいい策を思いつけた」

「私は、ただ昼食を提供しただけでございます」


 リンリが食器を回収すると、会議が再開された。


「現状の戦力では聖竜には勝てませぬ。他の魔王に援軍要請を行いましたが、応える声はありません」

「このままでは我が城も領土も民も焼き尽くされてしまうことは必定」


 高位文官と軍幹部は世界が終わるかのような表情を浮かべている。


「起死回生の策が浮かんだので、聞いてほしい」


 ベルゼが手を挙げた。注目が集まる。


「まず、聖竜とはぼくが戦う。おそらく負けるだろう。ぼくが死んだ場合、我が領土及び領民は、近隣を治めているキレイラ魔王の支配下となる、そういう約束を取り付けておくのだ。さすれば、ぼくが死んだあと、キレイラ魔王が聖竜を撃退してくれる」


 一同、絶句する。


「魔王様の死を前提にした策など採用できません」

「悪いが、決定権はぼくにある」

「しかし、キレイラ魔王がこの提案を受け入れるでしょうか?」

「受け入れる。この前の全魔王会議の際、少子化が進んで大変だと愚痴を漏らしていたからな」

「だとしても我らは到底、賛成できませぬ。魔王様、どうかご再考を」

「気にするな。ぼくは父上のように強くない。だから、遅かれ早かれこうなる運命だったのだ。通信魔法でキレイラ魔王につないでくれ」


 文官も軍幹部もうつむき、拳を硬く握りしめ、動こうとしない。


 リンリは見かねて通信魔法を発動させた。光の玉が会議室の中央に現れ、声を震わせる。


「こちらジンジャエル城交換室」

「突然の通信失礼いたしいます。バアル城の魔王ベルゼが配下リンリ・ルルコースと申します。こたびの聖竜派遣の件で、ベルゼが貴王との通話を望んでおります」


 数秒の沈黙。


「おつなぎします」

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