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魔王の愛した料理人  作者: 仙葉康大
第四章 ~天空米のおかゆ~
34/69

バハムがいたときは

「治癒部隊を呼べっ。早くっ」


 治癒部隊が馳せ参じ、触診し、告げる。


「ひどい高熱だ。体の衰弱も激しい。魔王様、これを」


 黄金色の液体の入った薬瓶を取り出し、ベルゼに飲ませると、治癒部隊隊長は叫んだ。


「ベッドにお運びしろ」


 ベルゼを乗せた担架に付き添いながら、リンリは後悔した。やはり行かせるべきではなかった。魔力のないベルゼに魔帝宮の極寒の環境は酷すぎたのだ。


 魔王の居室のベッドにベルゼが横になり、治癒部隊が魔法と薬で看病を始めた。


「高位文官文辞担当」


 居室に城の要職が集う中、リンリは文官の中でも文辞を司る者に言う。


「魔帝宮に対し、今後、このようなことがないよう申立書を送達してください」


「まさか。リンリ殿、そんなことはできません」


「なぜですか? 魔王様の熱の原因は明らか。きちんと極寒に対応できる衣を着ていけば、こんなことにはならなかったのです。王妃様はちゃんと、ちゃんとそういった衣を遺していたんです」


「わかってます。わかってますが、魔帝宮に意見するなど、許されないことです。あなたは魔帝宮と魔王城の力関係を何もわかっていない」


 リンリは声を荒げる。


「バハムがいたときは――」


 要職全員の顔が曇った。そう、バハムがいたときは、必要とあらば魔帝宮に申立書を送っていた。魔王領の民からとる税を減らすよう、魔帝宮軍人が地方でしでかした強姦や略奪を諫めるよう、天界からの攻撃に対しては魔帝宮からの増援を迅速によこすよう、ことあるごとに意見してきた。


 でも、もう、バハムはいない。


「ベルゼ様とこの城と領民を守るためにも、リンリ殿、ここは我慢してくだされ」


 情けなかった。自分の料理で守れなかったことも、王妃様の遺した衣を着せてやれなかったことも、未だに心のどこかでバハムを頼りにしていたことも。


 咳ばらいを一つし、治癒部隊隊長が発言する。


「さて、魔王様の病状だが、今のところ命に別状はない。しかし回復まで少なくとも三日は要する。研修に行かれている間に溜まっている書類や報告はたくさんあるだろうが、すべて後に回すように。看病は治癒部隊で行う、と言い切りたいところだが、魔法と薬だけでは心もとない。リンリ殿、料理で助力をお願いできないだろうか?」


「はい。お任せください」


 要職たちはうなずき、各自の持ち場へ戻っていく。リンリは居室の衣装戸棚から薄紫色の衣を取り出し、治癒部隊隊長に渡した。


「一角獣の毛で編まれた衣です。自然治癒力を高めます。魔王様に着せてあげてください」

「かしこまりました」

「いつでも食事を出せるようにしておきます。魔王様が目覚め、食事をとれる状態になりましたら、お知らせください」


 厨房に戻り、部下にベルゼの状態を周知すると、まず反応したのは男性陣だった。


「ベルゼが風邪をひくなんて珍しいな」とジャン。

「魔帝宮は室内でも極寒だからな。ベル坊も災難だったな」とガウス。

「ベル君、大丈夫だか? 心配だ」とブルゴ。


 つづいて女性陣が納得がいかない顔で発言する。


「支度もさせずに研修に連れていくなんておかしいです」とミレイ。

「魔帝宮の執事? 料理人? 無能?」とノン。

「魔帝宮の料理人とは、一度、じっくりと話し合う必要がありそうですね」とアイーラ。


 リンリもうなずく。今後も魔帝宮での研修があるかもしれない。研修がなくとも呼び出されることはあるだろう。ベルゼの体調のことを考えて料理を作るよう伝えておきたいところだ。


「それで、魔王様の料理はどうします?」


 ティアが言った。


「私が担当します」

「はいはい、一緒に作ります」


 ティアが手を挙げたが、リンリは首をふる。


「申し訳ありませんが、ティア、あなたには魔王様の風邪が治るまでの間、私の仕事をすべて受け持ってもらいます」


「それは別にいいですけど、私も一緒に魔王様の料理作りたいです。久しぶりに一緒に料理作りましょうよ、リンリ料理長」


「それはまたの機会に。今回は、私ひとりで作ります」


「ちなみに何を?」


「天空米のおかゆを作るつもりです」

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