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魔王の愛した料理人  作者: 仙葉康大
第三章 ~ミノタウロスの牛肉カレー~
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解毒と嘘

「まず解毒しましょう。ベル、私のリュックを持ってきてください」

「うむ」


 リンリは治癒薬の入っていた薬瓶に砂糖と聖竜の骨の粉末を入れ、水で溶いた。一口飲み、自身の体から痺れと吐き気がなくなったことを確認し、シンにも勧める。


「二口飲んでください」

「は、はい」


 シンはごくごくとリンリの作った液体を飲んだ。


「甘い。あ、しびれが解けてきました」

「一分もしたら動けるようになります」


 それから薬瓶の残りをすべてロスの口に注いだ。ロスは飲みきった後も顔を振って舌なめずりし、リンリの胸を鼻先でつつき、もっとないかとねだった。


「シン、奥にバジリスクの巣があるかもしれません。そこにあなたの求める脱皮があるのでは?」

「あ、そうです。脱皮を採って帰らないと」


 バジリスクの死体を他の冒険者に横取りされるのを防ぐため、ベルゼとロスが残り、シンとリンリが奥へと向かうことにした。


「火炎魔法」


 手のひらに炎を灯し、通路を進む。上の階層が迷路のように入り組んでいたのが嘘であるかのように、分岐はなかった。やがて冒険者のローブが敷き詰められた空間に行きついた。毒の匂いと血の匂いが入り混じっている。間違いない。ここがバジリスクの巣だ。


 巣の中を探ること数分、冒険者ローブの間から薄く透明な皮のようなものをシンがつかんで見せた。


「ありましたっ。バジリスクが脱皮した抜け殻です」


 薄緑色のそれは、ところどころ細かい穴が開いてはいるが、破けてはおらず、ほんのかすかに魔力を帯びていた。この脱皮で餃子を作るのもありかもしれないなどとリンリが夢想しているうちに、シンは手早く脱皮を巻き取り、縮小魔法をかけて革袋にしまった。


「縮小魔法、使えたのですね?」

「はい。便利ですよね、持ち運びに」


 縮小魔法は、習得難易度の高い魔法だ。リンリは食材の運搬のために身に着けたが、冒険者にとっても必須の魔法なのだろう。


「他にも魔法を使えるのですか?」

「基礎的な魔法であれば。そうだ、帰り道は私が明かりを灯しましょう」


 そう言ってシンは火炎魔法を発動させた。手のひらに青い炎が灯った。赤い炎よりも高温の青い炎をたやすく生じさせ、消えないよう魔力量を調節している。汗一つかかずに。


「バジリスクの抜け殻は何に使うのですか?」


 シンは一拍置いて答えた。


「わかりません。私は採ってくるよう依頼されただけなので」

「抜け殻がどうしても必要なのだと言っていませんでしたか?」


 顔を半分だけリンリの方に向け、シンは微笑む。


「誤解させてしまったようですね。どうしても必要と言ったのは、この依頼を完遂しないといけないからなのです。私には家族がいます。家族を食わせるためにはお金が要ります。この依頼の報酬は破格の額でした。そういうわけで、どうしても必要だったのです。そう言えば、リンさんたちはどうしてバジリスクの討伐を? 私と同じように誰かからの依頼ですか?」


「はい。とある方からの依頼です」


「とある方と言うのは?」


「口外しないという約束で引き受けた依頼です」


「なるほど。でもその方は見る目がありますね。本当にバジリスクを倒してしまったのですから。私は石化してしまい、どうやって倒したのか、見れませんでしたが、リンさん、あなたが倒したのでしょう?」


 青い炎に照らされているリンリの影が揺らめく。


「いいえ。とどめを刺したのはベルです」


「それはすごい。石化魔法をかいくぐり、毒に侵されながらもなんとかとどめを刺したというところでしょうか? あれ? でもさっきあの子は解毒薬を飲んでいなかったような。あ、そう言えばリンさん、解毒薬にもあの白い粉末を入れてましたよね? あれは結局何なのですか?」

「あれは、一角獣の骨の粉末です」

「一角獣? つまり一角獣の骨には石化耐性や解毒作用があると?」

「薬屋の主人はそう言っていました」

「なるほど」


 嘘だった。あの白い粉末は、一角獣の骨ではなく、聖竜の骨を砕いたものだ。うまくごまかせたか、気にはなったが、リンリはシンの方を見ず、通路の出口を目指して歩き続けた。

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