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魔王の愛した料理人  作者: 仙葉康大
第三章 ~ミノタウロスの牛肉カレー~
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ミノタウロスの牛肉カレー

「料理を作ります」

「こんなときに、ですか?」

「こんなときだからです。ベルとシンは辺りを警戒していてください」


 まずは魔王城から持ってきた玉ねぎの皮をむき、くし切りにする。じゃがいもとにんじんも切り、鍋に入れる。


「火炎魔法」


 生じた火の上の台座に鍋を固定し、具材をいためる。獲れ立ての肉を投入し、しっかり加熱する。つづいて飯盒に米を入れて水流魔法で研ぐ。水の濁りが薄くなったところで火にかける。


「カレー、ですか?」


 じっと見つめていたシンの問いにリンリはただうなずいた。鍋に水を加え、煮る。アクをとりつつ、火炎魔法の強さを調整する。ルウを割り入れ、隠し味に聖竜の骨の粉末を入れ、とろみがつくまで煮込む。


「いい匂いだ。しかし、いつものカレーとは少し違うようだな。これは食べるのが楽しみだ」


 飯盒から水が吹きこぼれ始めたので、火を弱くする。そのまま炊きつづけ、中からチリチリと音がしたところで、火炎魔法を止める。食器を準備し、飯盒の米を紙皿によそい、カレーをかける。


「完成です。どうぞお召し上がりください」

「いただきます」


 ベルゼが手を合わせ、大口を開けて一口目を食べる。目を見開き、二口目、三口目とつづけざまに食べて言う。


「うまいっ、何だこの肉は? 噛み応えがあってすさまじい旨味があふれてくる。食べたことのない味だ」

「さきほどのミノタウロスの肉でございます」

「ほ、ほんとですか? ミノタウロスの肉は硬くて料理には向かないと聞きますが」


 シンは匙を持ったままうろたえている。


「市場に出回っているミノタウロスの肉は、死後数時間以上経過したものですから、硬くて食べられません。ですが今回は、さきほど狩ったばかりの新鮮な肉」

「そうか、だから」


 シンはカレーをまじまじと見つめると、勇気を振り絞るように目をぎゅっとつむり、一口目を食べた。


「お、おいしい」


 普通の感想だ。リンリは安心して自分の分のカレーを食べることにした。が、次のシンの言葉に手を止めた。


「隠し味に何か入れてましたよね?」

「何のことですか?」

「ルーと一緒に入れていたあの白い粉です。あれは一体何なのでしょう? 私はそれが気になります。あの粉こそこのカレーの神髄なのでは?」

「粉? そんなもの入れていたのか?」

「塩です」

「そんなはずはありません。ミノタウロスの牛肉の影に隠れている繊細な味。それは決して塩では引き出せない。あの調味料は何なのですか? ぜひ教えてください」


 リンリは心の中で舌打ちした。この人間、料理の味を細かく感じ取れる舌を持っていたとは、とんだ誤算だった。白い粉末が聖竜の骨の粉末だとは明かせない。それは自分たちの正体に直結する。


 返答に窮していると、視界の端に鋭く閃くものが映った。

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