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魔王の愛した料理人  作者: 仙葉康大
第三章 ~ミノタウロスの牛肉カレー~
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古代帝国遺跡へと

 翌朝、ローザから正式に王蛇バジリスクの討伐依頼を受けたリンリたちは、支度を整えるためにいったん帰城した。


 迷いの森の魔女の依頼内容がバジリスク討伐だと知るやいなや、文官たちはベルゼの出陣に反対を示し、軍部はベルゼに魔王軍の主戦力を同行させたいと申し出た。


「君たちの心配はありがたいが、バジリスク討伐には、ぼくとリンリ、それにロスで行く」

「しかし、危険すぎます」

「そうです。せめて軍を帯同させてください」


 ベルゼはリンリが選んできた衣に着替えながら、首をふる。


「大勢で行くわけにはいかない。古代帝国遺跡は、魔王領ではないからな。人間の冒険者たちがわんさかいる場所に魔王が軍を率いて行けば、戦争になる」

「魔王様が死ぬよりは戦争の方がマシです」

「馬鹿を言うな。ぼくは死なないし、戦争も起きない。ただバジリスクを倒し持ち帰るだけだ」


 緋色の衣に着替え終えた魔王は、「使うかわからぬが、持っていくか」とつぶやき、バハムの形見である魔剣を腰に差した。


「それでは、留守を頼んだぞ」


 颯爽と部屋を出て行くベルゼの後ろについていくリンリに、軍幹部の中で唯一、こたびの討伐に反対しなかった治癒部隊隊長が、回復薬一式をわたしてくれた。


「リンリ殿が同行されるなら、我々の出る幕はありません。魔王様のこと、よろしくお願いします」


 リンリはうなずいて、薬瓶を革袋にしまった。古代帝国遺跡には、バジリスク以外の魔獣も数多住み着いており、いつ戦闘になってもおかしくない環境だ。回復薬の差し入れは素直にありがたかった。


 食料と食材と調理器具をリュックに詰め込んで、リンリはベルゼとともにロスの背に乗り、魔王城を出発した。目指すは、ベルゼ魔王領より北西に位置する古代帝国遺跡。冒険者たちが集う大陸最大級の遺跡ダンジョンである。


*****************************************************


 風よりも速いロスの足で大地を駆けること六時間。リンリたちは魔王領を抜けて帝国領に入っていた。大陸の中心に位置し、百以上の国をまとめて統治している帝国。人口比は、人族が最も多く、エルフが最も少ない。


「首都のリオンに寄って行くか? 魔王領では手に入らない食材が売りに出ているかもしれないぞ」

「いえ、やめておきましょう。私たちが魔族であることがバレたら大変です。ベルゼ様、これを」


 リンリは革袋から薬瓶を取り出した。


「まだ傷は負っていないが?」

「回復薬ではありません。ローザ殿からいただいた識別種族誤認薬です」

「しきべつしゅぞくごにんやく? 食欲をそそられる色ではないのだが、これは飲んでも大丈夫なのか?」


 薬瓶の中では、曇り空のような灰色の液体が流動している。


「この薬は、飲んだ者の種族を周囲に誤認させる効果を持ちます。つまり、これを飲めば、我々は魔族ではなく、人間族として認識されるのです」

「潜伏にはもってこいの薬だな。どれ」


 瓶のふちを口につけ、顔を上げ、一気飲みすると、ベルゼは舌を出して顔をしかめて見せた。


「ま、まずいな」

「お口直しにどうぞ」


 牛乳瓶を手渡し、それから、リンリは自分の分の誤認薬を飲んだ。


「おおっ、なんだか変な感じだ。リンリをどうしても魔族とは思えない。人間がそばにいる感じだ」

「効果は四十八時間です。それまでにバジリスクを討伐してしまいましょう」

「うむ。おっと」


 崖際でロスが急ブレーキをかけて止まった。眼下には見渡す限りの砂漠が広がっている。


「もうすぐだな。ロス、疲れてないか?」


 水をやりながらベルゼが尋ねた。ロスは目を輝かせて短く吠えた。まだまだ大丈夫そうだ。


 切り立った崖を難なく駆け下り、砂漠の砂地獄に足をとられることもなく、ロスは目的地まで疾走した。そして砂丘を超えた先にその大穴は表れた。


「着いた。これが、古代帝国遺跡」


 砂漠に空いた大穴の中に、街一つ分ほどの巨大な建造物が埋没している。穴を取り囲むように冒険者用の宿屋、武器屋、商店、料理店が並んでいる。一攫千金を夢見る冒険者たちがそこらじゅうにいて、喧騒が絶えない。


 ロスは本当の姿だと目立つので、子犬サイズに変化してもらい、リンリが抱きかかえることにした。


「こ、こんなに人間がたくさんいる場所は初めてだ。なんだかドキドキするな」

「そうですね。薬を飲んでいるとはいえ、目立つ行動は避けた方がいいでしょう」


 雑踏を抜け、大穴へと降りる昇降台に乗るため、順番待ちの列に並ぶ。すぐ前にいる冒険者たち四人組が真剣な表情でミーティングしている。


「今日のノルマは、小型魔獣二十体に中型魔獣五体。それだけ狩れたら帰還するぞ」

「いいけど、なんだか最近マンネリじゃない? もうちっと刺激が欲しいって言うか」

「そうそう。もうちょっと深いところまで探索しようよ」

「ダメだ。もしミノタウロスやバジリスクに遭遇したら、どうするんだ?」

「バジリスクはともかくミノタウロスなら、勝てるかもしれないよ。私たち、けっこう強くなってると思う」

「まったく。増長もいい加減にしろよ。俺はな、調子にのって実力以上の魔獣と戦い、死んでいった奴らをたくさん知ってる。ただでさえ最近は、パーティーの全滅報告が相次いでるんだ。今日も手堅くいくぞ」

「ちぇっ」


 目の前で繰り広げられた会話をヒントに、リンリは今日の献立を決めた。


 順番が来たので、他の冒険者とともに昇降台に乗る。三十人ほど乗ったところで、ローブに帝国の紋章の刻まれた魔法使いが降下魔法を発動させた。古代帝国遺跡の探索及び発掘は、国家事業として帝国が推進しているのだ。


 大穴の底に着くと、冒険者たちはパーティーごとに分かれ、壁面に点在している入口へと吸い込まれるように歩いて行った。


 ベルゼが魔王城の書庫より持ち出してきた地図を広げ、くちびるをなめる。


「バジリスクがいるのは、遺跡の最奥部だな。そこにつながっている入口は、あっちだ」


 指さした方向へ進む。陽の光の届かない遺跡内へと入る間際、リンリは抱えていたロスを下ろした。ここからはどんな危険があるかわからないので、両手を空けておきたい。


 暗い通路に入ると、ベルゼの着ている緋色の衣がオレンジ色の光を灯した。


「これは便利だな。ランタンが要らない」


「はい。その衣は灯の衣と言います。桑の葉の代わりに火を食べる火炎蚕の糸を用いて織られており、暗闇では光を灯します。遺跡や洞窟に冒険に行くときのためにと、王妃様が」


「なるほど。それにしても、ぼくは生まれてこの方、着るものに困ったことがない。どんな状況でも、それに適した服が必ず用意されている。母は織物がとても好きだったのだな」


「王妃様は、織物の名手で、衣を織ることを好んでいました。けれど、ただ好きだと言うだけで、百着もの服を遺したりはいたしません」


 ベルゼは立ち止まらず、前だけを向いて歩いていく。リンリはその後ろから言葉を続ける。


「魔王様。あなたは、王妃様のことをもっと知るべきです。私が、知っている限りのことをお話しします。どういう思いでその衣を織られたか」


「そう言うがな、リンリ。ぼくは母の顔を見たこともないのだ。話したこともない。父も多くは語らなかった。語りたくなかったのだろう。母の死因であるぼくには」


「違います。バハムは――」


 瞬間、通路の奥の闇から唸り声とともに獣がとびかかって来た。

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