城門の再建費について
バアル城大会議室に財務文官の声が響く。
「本日の議題は他でもない。先日、聖竜に破壊された城門、その再建費用についてである」
各部門を統括する高位文官、軍幹部、そしてバアル城料理長のリンリ。城の主要人物が勢ぞろいの会議である。
「端的に言うと、予算がない。よって、城門再建費を捻出するため、各部門の予算を二十パーセント削減することにする」
軍幹部が机をなぐりつけた。
「勝手に決めるな。二十パーセントもカットされては、かなわん」
「軍部の言う通りだ。急に言われても困る。外交費を削り、他の魔王との関係が悪くなった時、財務部門は責任を取ってくれるのか?」
外交文官につづいて他の高位文官も口々に反対を唱え始める。会議室は沸騰したように反対意見でいっぱいになった。
「料理長殿はどう考える?」
治癒部隊隊長が、静観していたリンリに話をふった。
「魔王様の命であれば、従います」
みんなが一斉に魔王ベルゼの方を向く。
「うむ。わかった。各部門の予算のカットがむずかしいのであれば、城門の再建費は、ぼくが別途用意しよう」
「しかし、そんなお金をどうやって」
「内から捻出できないのであれば、外から持ってくればよい」
「ま、まさか略奪を?」
「いや、そういったことはしない。お金をたくさん持っている者から正式に依頼を受け、報酬をもらうのだ」
財務文官がうろたえる。
「じょ、城門の再建費は莫大な額ですぞ。わが領内の金持ちからの依頼報酬ぐらいでは、とても足りません」
「いや」
治癒部隊隊長が声をあげた。
「一人いるではないか。城門の再建費どころか、国家予算なみの資産を有している金持ちが。迷いの森に」
その場に出席していた全員がある人物を思い浮かべた。
「そうか。迷いの森の魔女だ。あの女の依頼をこなせば、再建費ぐらい優にもらえるだろう」
「それがいい。しかし、魔王様みずから働かれることはないかと?」
「そうです。我々にお任せください」
ベルゼは首をふる。
「再建費とは別件で、迷いの森の魔女に確認しておきたいこともあるし、ぼくが直接動く。ロスと行くから警護も要らない。君たちは通常業務を滞りなく行ってくれ」
「しかし、そういうわけにはいきません。軍部から警護の人員を出します」
「司書部からは秘書及び書記官を同行させていただきたい」
軍も文官もこぞってベルゼについて行こうとする。
「困ったなあ。過去の記録を見るに、迷いの森の魔女は、大人数での来訪を嫌う傾向がある。あまり大勢で押しかけては、彼女の機嫌を損ねるだろう。同伴者は一人か二人以内に収めたいところだが」
リンリが手を挙げる。
「わたしが同行します。警護も秘書も書記官も不要です」
リンリがただの料理長であれば、こんな物言いは許されない。しかし、リンリはバアル城の料理長であり、そして魔王城筆頭料理人でもある。彼女の実力は軍幹部も文官も承知していた。なによりリンリには聖竜の一件の功績がある。
「うむ。リンリがついてきてくれるならぼくも心強い。出発は本日の正午とする。急ぎの案件がある場合は、それまでに報告、相談するように。以上、解散」
ベルゼがそう言ったときには、リンリは昼食の献立のことを考えていた。




