勇者パーティーの料理人
城の庭の片隅には、墓石が立ち並んでいる。リンリは、その中でもひときわ新しい墓石の前に屈み、カレーライスを盛った器を置いた。
「うまそうな匂いがすると思って来てみれば、カレーライスではないか」
庭園の茂みの中から現れた、炎髪魔眼のその人を見るやいなや、リンリは目を伏せひざまずく。
「魔王キレイラ様。聖竜の一件では大変お世話になりました」
「よいよい。そうかしこまるな。妾とそなたの仲ではないか。楽にするがよい」
リンリは言われた通り服従のポーズを解き、立ち上がる。
魔王キレイラは、山羊の毛皮を脱ぎ、木の枝にかけた。手足を蛇のようになめらかにうねらせ、カレーライスの器へと近づく。鼻先からカレーの匂いを吸い込むと、瞳孔を開き、口の端からよだれを垂らした。
「ああ、なんと甘美なる匂いじゃ。リンリ、のちほど妾にもこれをふるまうのじゃ」
「かしこまりました。ところで、会議はもう終わったのですか?」
今日はベルゼ領に隣接する地域を治めている魔王たちが集い、意見交換を行っている。キレイラもそのために来たはずだが。
「会議など文官たちに任せればよいのだ。妾の目当てはそなたの料理のみ。昼になるのが待ち遠しいのじゃ」
バハムの墓前に供えたカレーライスをじっと見つめるキレイラ。
「これはダメですよ」
「わかっておる。しかし、バハムが死ぬとはのう」
「私のせいです」
バハムの強さを信じすぎていた。きちんと対勇者用の料理を作り、備えておくべきだった。
「リンリ。そなたのせいではない。あのバハムが人間の勇者ごときと相打ちになるなど、誰にも想像できなかったことじゃ。それほどまでにバハムは強かったからのう」
「戦いはバハムが圧倒的に優勢でした。勇者セカイが茱萸を食べるまでは」
「茱萸?」
リンリはうなずく。
「勇者パーティーの料理人が作ったと言っていました。神の涙が注入されているというその茱萸を食べてから、勇者セカイは豹変し、強さが跳ね上がりました」
「神の涙の茱萸じゃと? そんなものを作れる料理人が存在するとは、驚きじゃ」
リンリも同感だった。神の涙などどうやって入手したのか。入手できたとして、下界の空気に触れた瞬間に蒸発すると言われるそれをどうやって茱萸にしたのか。
「バハムの死後、妾は勇者セカイに関する情報を集めたが、料理人に関する情報はでてこなかったぞよ」
「そうですか。それは、おかしな話です」
あの茱萸を作った料理人が必ずいるはずなのだ。勇者セカイ自身がはっきりとウチのパーティーの料理人に作ってもらったと明言していたのだから。
リンリは気を引き締める。
魔王と勇者は死んだ。けれど、料理人は、まだ生きている。




