お命じください
ベルゼは政務に戻り、リンリたち料理人は厨房に戻った。
「本日の夕食の献立は、邪竜の竜田揚げと聖竜の骨のスープ、そして精霊の翅のサラダとします。よろしくお願いします」
「はいっ」
ガウス以外はみなやる気満々だったので、夕食の準備はいつも以上に滞りなく終わった。
食堂での料理出しは部下に任せ、リンリはベルゼのいる執務室へと向かった。扉をノックするのを一瞬ためらう。呼吸を整え、ノックして入室する。
「魔王様、夕食をお持ちしました」
「ありがとう」
夕食を並べたあと、本日のメニューについてかんたんに説明する。ベルゼのまぶたがわずかに閉じかけ、また開く。
「魔王様もお疲れのことだと思います。今日はそれを食べてもう休んでください」
「リンリこそさっきまで大変な傷を負っていたのに、すまないな、夕食まで作らせてしまった」
「私は、大丈夫です。ティア副料理長の料理により全快しましたので」
「うむ。ぼくは料理というものを見くびっていたよ。あんなに見事に火傷が治るとは」
「そのことなのですが、魔王様」
「ん? どうした?」
ベルゼの琥珀色の瞳がリンリに問いかける。
「いえ、なんでもありません。料理が冷めてしまいますので、お食べください」
「ああ、いただきます」
邪竜の竜田揚げをフォークに刺し、ぱくりと食べ、ほおばるベルゼ。しゃきしゃきの精霊の翅のサラダを噛むベルゼ。聖竜の骨のスープを音を立てずにしずかにのどに流しこむベルゼ。このお姿を見るべき人は、自分ではない。ベルゼだって、本当は会いたいはずだ。一度は飲み込んだ言葉を、リンリは吐いていた。
「魔王様、私にお命じください」
「え? 命令? いったい何をだ?」
「私は言いました。料理はすべてを凌駕すると。その言葉に嘘偽りはありません。治癒魔法で治らない火傷が料理で治ったように、料理は魔法以上に不可能を可能にします」
「話が見えないな」
「死者を生き返らせることも可能のはずです」
ベルゼが匙を床に落とした。リンリは新しい匙を差し出す。
「先代魔王と王妃様を生き返らせる料理を作れ。そうご命じください。魔王城筆頭料理人の名にかけて必ずやお二人を生き返らせる蘇生料理を作ってみせます」
ベルゼは表情をくしゃっとつぶし、それから、匙を受け取らずに器に口を直接つけ、聖竜の骨のスープを飲み干した。
「今日の夕食もおいしかった。ごちそうさま」
そう言って、ベルゼは執務室を出て行ってしまった。
リンリは悟った。ベルゼは命令しない。
出産前に王妃様が言った言葉を思い出す。
――リンリ、私が死んでも、私を生き返らそうとしてはダメよ。そんなことに囚われてしまってはダメ。あなたの料理はすばらしいわ。その力は、生きている目の前の人のためにふるうべきです。だからお願い。これから生まれてくるこの子に、ベルゼに、おいしい料理をたくさん作ってあげて。




