奇想パスタと赤ワイン
「ノン。これは?」
「冷製パスタ? です?」
ノンはそう言うが、とてもそうは見えない。パスタの麺は七色に光り、具は、爆弾トマト、流星オクラ、ユニコーンの角、といった扱いの難しい食材ばかり。才能だけで言えば、この子が一番かもしれない。そんなことを思いつつ、リンリは実食に移る。
「いただきます」
七色のパスタは、色ごとに異なる味がした。酸味、辛味、甘味、苦味、塩味、旨味、無味。それらが混然一体となり、複雑な満足感を舌にもたらす。口の中では、爆弾トマトが弾け、流星オクラが飛び交う。ユニコーンの角をかじれば、神秘的な清涼感がもたらされた。
リンリは不思議な食感と複雑な味に感心しつつ、冷製パスタを食べきった。
「ごちそうさまでした。なかなかの料理でしたよ」
首を傾げるノン。
「火傷? 治ってない?」
天才肌のノンが火傷のことを気にしてくれていたのが、リンリには意外だった。
「私、もう一品作る? 料理長の火傷治す料理?」
「一人一品というルールです」
「どうして? どうして私、このパスタで火傷治せなかった? 料理長痛いまま? 私が未熟なせい? どうすればよかった?」
ノンの声が切実な響きを帯びてくる。年齢に見合わず子供っぽいところがある料理人だ。諭すようにリンリは話す。
「自分を責めることはありません。あなたの料理は、いつも私の想像を超えてくる。その発想力は天性のものでしょう。一方で、特殊食材を難なく扱うあなたの料理スキルは、日々の努力によるものであることを私は知っています。あなたの料理を食べている間、私は火傷の痛みを忘れることができました。これからも独自の発想で新しい料理を作り続けなさい。そうすれば、あなたはいずれ、この世界で最も自由な一皿を生み出すことができるでしょう」
ノンはうなずくと、皿を持って駆け出した。
「こ、こら、走ったら危ないですぞ」
治癒部隊隊長が注意したときには、ノンはっとくに部屋を出ていた。
ほどなくして、ガウスがやって来た。
「よお」
ガウスはブルゴとノンよりも年上の四十代前半の料理人。短い銀髪に灰色の瞳をしており、部下の中でもっともやる気がなく、労働意欲は最低。
「来てくれるとは、思っていませんでしたよ、ガウス」
「アイーラがうるせえからな、仕方なくだ。俺はみんなみたいに気合の入った料理なんて作ってねえぜ。あんたが火傷を負ったのは自業自得だし、副料理長になんてなりたくもねえ」
無精ひげを触りながら、だるそうにグラスをベッドの上の座卓にのせ、ガウスは黒いワインボトルをリンリに見せた。
「地下の貯蔵庫から引っ張りだしてきたぜ。キレイラ魔王領産の赤ワイン。二十年ものだ」
コルク栓をぬき、グラスに注ぐガウス。
「つまみもあるぜ」
そう言って出された皿には薄切りにしたサラミが四枚ほど。リンリはワイングラスを持ち上げ、鼻の近くに持っていき、香りを確かめる。ブラックベリーの芳醇でコクのある香り。
「いただきます」
一口飲んで、舌にワインを転がす。まろやかな甘味のなかに心地よい苦味。ワイングラスを回転させると、華やかさを増した香りが鼻まで届いた。二口目。何も考えずに飲む。サラミは旨味が凝縮していて辛味がワインを誘う。リンリは体に熱が回った状態で、西日を反射するワイングラスを眺め、しばらくぼおっとした。
「なあ、魔王様の言う通り、迷いの森の魔女に治療を依頼するって言うのも、ありだと俺は思うぜ」
「遺産を売り払ってまですることではありません」
「別にいいじゃねえか。遺産の一つや二つ。いい加減認めてやれよ。あの子にとってはあんたの方が大切なんだよ」
リンリはワインをぐいっと一気飲みする。酔いたい気分だった。
「ガウス。あなたは何もわかっていません。あの二人がどれだけ魔王様を愛していたか」
「わかってないのはあんただろ。まったく」
そう言ってガウスは酔いのまわったリンリに毛布をかけ、ワイングラスとサラミの皿を回収した。
「ガウス、なかなかの、料理、でしたよ」
「はいはい」




