表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王の愛した料理人  作者: 仙葉康大
第二章 ~精霊湖のフルーツパフェ~
15/69

奇想パスタと赤ワイン

「ノン。これは?」

「冷製パスタ? です?」


 ノンはそう言うが、とてもそうは見えない。パスタの麺は七色に光り、具は、爆弾トマト、流星オクラ、ユニコーンの角、といった扱いの難しい食材ばかり。才能だけで言えば、この子が一番かもしれない。そんなことを思いつつ、リンリは実食に移る。


「いただきます」


 七色のパスタは、色ごとに異なる味がした。酸味、辛味、甘味、苦味、塩味、旨味、無味。それらが混然一体となり、複雑な満足感を舌にもたらす。口の中では、爆弾トマトが弾け、流星オクラが飛び交う。ユニコーンの角をかじれば、神秘的な清涼感がもたらされた。


 リンリは不思議な食感と複雑な味に感心しつつ、冷製パスタを食べきった。


「ごちそうさまでした。なかなかの料理でしたよ」


 首を傾げるノン。


「火傷? 治ってない?」


 天才肌のノンが火傷のことを気にしてくれていたのが、リンリには意外だった。


「私、もう一品作る? 料理長の火傷治す料理?」

「一人一品というルールです」

「どうして? どうして私、このパスタで火傷治せなかった? 料理長痛いまま? 私が未熟なせい? どうすればよかった?」


 ノンの声が切実な響きを帯びてくる。年齢に見合わず子供っぽいところがある料理人だ。諭すようにリンリは話す。


「自分を責めることはありません。あなたの料理は、いつも私の想像を超えてくる。その発想力は天性のものでしょう。一方で、特殊食材を難なく扱うあなたの料理スキルは、日々の努力によるものであることを私は知っています。あなたの料理を食べている間、私は火傷の痛みを忘れることができました。これからも独自の発想で新しい料理を作り続けなさい。そうすれば、あなたはいずれ、この世界で最も自由な一皿を生み出すことができるでしょう」


 ノンはうなずくと、皿を持って駆け出した。


「こ、こら、走ったら危ないですぞ」


 治癒部隊隊長が注意したときには、ノンはっとくに部屋を出ていた。


 ほどなくして、ガウスがやって来た。


「よお」


 ガウスはブルゴとノンよりも年上の四十代前半の料理人。短い銀髪に灰色の瞳をしており、部下の中でもっともやる気がなく、労働意欲は最低。


「来てくれるとは、思っていませんでしたよ、ガウス」


「アイーラがうるせえからな、仕方なくだ。俺はみんなみたいに気合の入った料理なんて作ってねえぜ。あんたが火傷を負ったのは自業自得だし、副料理長になんてなりたくもねえ」


 無精ひげを触りながら、だるそうにグラスをベッドの上の座卓にのせ、ガウスは黒いワインボトルをリンリに見せた。


「地下の貯蔵庫から引っ張りだしてきたぜ。キレイラ魔王領産の赤ワイン。二十年ものだ」


 コルク栓をぬき、グラスに注ぐガウス。


「つまみもあるぜ」


 そう言って出された皿には薄切りにしたサラミが四枚ほど。リンリはワイングラスを持ち上げ、鼻の近くに持っていき、香りを確かめる。ブラックベリーの芳醇でコクのある香り。


「いただきます」


 一口飲んで、舌にワインを転がす。まろやかな甘味のなかに心地よい苦味。ワイングラスを回転させると、華やかさを増した香りが鼻まで届いた。二口目。何も考えずに飲む。サラミは旨味が凝縮していて辛味がワインを誘う。リンリは体に熱が回った状態で、西日を反射するワイングラスを眺め、しばらくぼおっとした。


「なあ、魔王様の言う通り、迷いの森の魔女に治療を依頼するって言うのも、ありだと俺は思うぜ」

「遺産を売り払ってまですることではありません」

「別にいいじゃねえか。遺産の一つや二つ。いい加減認めてやれよ。あの子にとってはあんたの方が大切なんだよ」


 リンリはワインをぐいっと一気飲みする。酔いたい気分だった。


「ガウス。あなたは何もわかっていません。あの二人がどれだけ魔王様を愛していたか」

「わかってないのはあんただろ。まったく」


 そう言ってガウスは酔いのまわったリンリに毛布をかけ、ワイングラスとサラミの皿を回収した。


「ガウス、なかなかの、料理、でしたよ」

「はいはい」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ