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魔王の愛した料理人  作者: 仙葉康大
第二章 ~精霊湖のフルーツパフェ~
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特盛チャーハンと冷製サラダ

「やはり一番はあなたでしたか、ジャン」

「へへ。副料理長の座はいただくぜっ」


 ジャンは勢いよく宣言した。七人の部下のうち、最年少の十九歳の男性料理人。逆立った金髪。耳にはピアス。ジャンは、いつも元気で厨房のムードーメーカ―でもある。


 リンリはベッドの上に座卓を置いてもらい、その上にジャンの一皿が置かれた。まばゆいばかりに輝くのは、卵でコーティングされたお米。具は厚切りのベーコン、長ネギ、茸。


「栄養満点特盛チャーハンだ。さあ、召し上がれ」

「いただきます」


 リンリは匙ですくい、チャーハンを口に運んだ。噛むと旨味があふれ、全身の細胞が活性化する。ジャンは治癒部隊にもチャーハンをふるまった。隊員たちはがつがつとチャーハンをかっこみ、大皿に盛られていたチャーハンはあっという間になくなってしまった。


「ごちそうさまでした」


 完食したリンリは手を合わせた。その手を凝視しているジャン。


「なかなかの料理でしたよ」


 ジャンが拳を握る。


「火傷が、治ってない。どうしてだ? リンリ料理長、教えてくれ。俺の料理のどこがダメだった?」


 リンリはまだ十代の若き料理人の目を見据えて言う。


「あなたの長所は、速さです。現に今日も誰よりも速く料理を提供した」

「でも、火傷は治せてない。もっと治癒に直接かかわる食材を吟味すべきだったんだ」

「そんなことをすれば、あなたの良さは死んでしまいます」


 ジャンが壁に拳を打ち付ける。それを見て、治癒部隊が次々に口を開く。


「ジャン殿、チャーハンおいしかったですぞ」

「お腹いっぱいになりました」

「魔力もいくらか回復しまし、何よりこんなに旨いチャーハンは初めてだ」

「てめえらの魔力を回復させても意味ないんだよっ。ああっ、まったくもうっ」

「ジャン」

「はい」


 リンリに向き直るジャン。


「あなたを副料理長に任命することは、まだできません。ですから、もっと長所を磨きなさい。速さと勢いと思い切りの良さ。それらを極めた先にあなたの料理があるはずです。期待してます」

「はいっ」


 気持ちのいい返事をしたあと、ジャンは皿を回収し、部屋を出て行った。


 それから三十分後、現れたのはミレイだった。ジャンより年齢は一つ上。肩の上で切りそろえられた黒髪のショートヘアに利発そうな黒目の彼女は、視野が広く常に全体を見て自分のすべきことをする。


「どうぞお召し上がりください」


 ミレイの一皿は、トマトと豚しゃぶの冷製サラダ。リンリは浅くうなずくと、フォークでトマトとレタスを刺して口へ運んだ。ソースはポン酢ベースで、ニンニクもかすかに入っているようだ。豚しゃぶはとても薄く、難なく食すことができる。


 ミレイもまたジャンと同じく、治癒部隊の分の料理も作って来ていた。


「いやー、おいしい。すっきりとした味で食べやすい」

「量もちょうどいいですな」

「うまいいうまい」


 好き勝手に感想を言う隊員たちにもミレイはお礼を言って微笑む。しかしその表情が少しだけ硬い。


「ごちそうさまでした。なかなかの料理でしたよ、ミレイ」


 ミレイの瞳が揺れた。


「なかなかの料理、だなんて、嘘、ですよね?」

「どうしてそう思うのですか?」

「だって」


 ミレイは華奢な肩を震わせて言う。


「トマトとレタスのサラダなんて凡庸だし、火傷には冷たいものがいいっていう発想も安直だし、ソースに工夫も見られない。治癒を促す食材が入っているわけでもない」


 さらに続ける。


「料理を提供する順番だって、このサラダはジャンのチャーハンよりも先に前菜として提供すべきだったのに、結局、ジャンより速く完成させることができなかった」


「ミレイ」


「はい」


「あなたを副料理長に任命することは、まだできません。ですが、この料理はなかなかのものです。私は料理に対して嘘はつきません。料理に工夫をこらすことは大事です。ですが、あなたの強みはそこではない。厨房全体の状況を把握し、他の料理との兼ね合いを考えることのできる視野の広さをあなたは持っています。そこを伸ばしていけば、あなたの料理が見つかるはずです」


「私の、料理。はいっ、がんばります」

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