表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法使いに魔法を、怪物にナイフを  作者: 月光女神
第一章 勇者襲来編
24/32

第二十四話 レイン・フォレスター

 激しい剣術戦が続く。相手は二本、こっちは一本だ。分が悪いことこの上ない。

 レオナルドの恐ろしいところは、魔法の才に留まらず剣術にも長けているところである。驕り高ぶって体術オンチであれば可愛いものを、この少年は勇者としてあまりにもパーフェクト過ぎた。

「時間の問題ですよ、レインさん」

「まだ、まだだ!!」

 剣と剣が弾き合う。

 結界の押し合いも限界がきている。レオナルドの奴も、さすがに少し余裕のない顔をしていた。

「しぶといですね。でもジリ貧だ」

「君もな。しつこい奴だ」

「それはどうも」

 くすりと笑ったレオナルドは、突如、血走った目を向けてきた。

 何か来る。

 飛び出してきた。咄嗟に剣を横薙ぎに振るうと、レオナルドは剣を鞘に収めて身体のまま突っ込んでくる。

 意味が、わからない。

 振り切った剣は身体に直撃。上半身と下半身を真っ二つにした、はずだった。

「『ラムド』」

 ぐにゃりと、剣の軌道が曲がり、地面に突き刺さる。

 唖然。

 この少年、まさかここまでとは。

「冗談、だろう」

「いやあできました。やってみるものですね」

 結界魔法を発動しながら、同時にシンプルな『ラムド』−−−折り曲げる魔法を使ってきた。

 複数の魔法の同時使用。

 認めよう。単純な魔法の才であれば、この少年、僕をとうに超えている。

「それ」

 ツンと、指先で剣を握っていた右腕を突かれる。それだけで、腕が折り紙で遊んだようにグシャグシャにひしゃげてしまった。

 あまりの痛みに、少し舌を噛んで歯を食いしばる。

 ケラケラと笑うレオナルドが、ふらついて大木に背中を預けた僕に蹴りを入れた。大地に沈んでいく。深く座りこんでしまう。

 結界魔法が解けてしまった。

 レオナルドも限界だったのか、結界魔法が解けていく。

「魔力カラカラですよレインさん。本当にしつこかったなー」

 負けた。

 勝てなかった。ソラリスだけでも逃がさないといけない。立てない。腕が、使えないからだ。一本しかない腕が、見るも無残な有様である。

 どうする。

 どうする。どうする。どうする。

「じゃあ、レインさん。私は油断とかしないので」

「が、あああああああっ!!」

 剣が僕の右肩を突き刺した。背中の木と結び付けられ、全く身動きが取れなくなる。

 窮地。

 認めざるを得ない、危機的状況。

 だが、それ以上の疑問を口にする。

「なぜだ」

「はいー?」

「なぜそこまでして、エデニスト商会に加担する。光の勇者に従う。君ほどの力があれば、遠くに逃げて生きていくことだって叶うはずだ」

 レオナルドは沈黙し、少し眉根を寄せた。

 その反応だけで、十分だった。理解した。

「気づいているでしょう。エデニスト商会は末端のまとめ役に過ぎないですよ」

「……やはり、裏に『何か』がいるんだな」

「そりゃそうでしょう」

 人間族最強と謳われる『光の勇者』をはじめ、『血の勇者』、『時の勇者』、『影の勇者』、『屈折の勇者』、いずれも最高峰の魔法使いたちが駒にならざるを得ない、それだけの力を持った『何か』がいる。

 確かに、戦争や紛争状態を作り上げて需要を生み出したい気持ちは、前線で戦ってきた魔法使いたちが抱いても仕方ないものだろう。しかし、今回の件、あまりにもレオナルドたちは無謀すぎる強行に出たと言えよう。

「ここ一年近い間は何もしなかったくせに、突然ジーンを狙って動き出した。『何か』に逆らえないから、以外にはありえない」

「……」

「君たちは全員が凄腕だ。個人で好きに生きていけるだけの、つわもの揃い。それが一致団結でジーンを捕らえようと必死になる。奇妙だとは思っていたよ」

「冥土の土産に教えてあげましょう。エデニスト商会の裏にいる『何か』、それは『光の勇者』しか知らないですよ。僕も、ソフィアさんも、『血の勇者』も恐らく分かっていない。ただ、従わなければ殺すと言われているだけです。まあ、『血』は完全に個人的趣味で協力してますがね、あの人はイカれてるので」

「……『光の勇者』すら従わせる『何か』がエデニスト商会の上にいる。それを察したから、君は従っていると」

「ざっくりはそうです。が、しかし−−−」

 もう一本。

 僕を逃がさないように串刺しにする剣ではない、もう一方の残っていた剣をレオナルドは振り上げた。

「−−−僕には魔法しかないんですよ。僕が僕である為に、僕は命を奪わなくちゃいけないんです」

「どういうことだ」

「お土産はほどほどにって、お母さんに言われませんでした?」

 殺意が降りる。

 その振り下ろされる腕を、僕はローブの中に隠していた左腕で掴み取った。

「……なるほど。ならば問うまいよ、レオナルド」

「…………は? …………なんで、……左腕……」

 気づいていた。

 気づいていたんだ。戦いの最中、左腕の違和感に。本来なかったはずの腕が、もとに戻っていることに。

 レオナルドは魔力切れだ。結界魔法と同時並行で別の屈折魔法も使用した為だろう。

 僕は視界の端のソラリスを見つける。

 ひどい汗をかきながら、両手を僕に突き出している。淡い光が、掌から漏れている。

 僕は、複雑な感情だった。

「ソラリス。なぜだ。治すなと、前も言ったのに」

「ヘレ、ナが」

「え?」

 ソラリスは、僕が夢で見ることも許されないほどの事実を告げた。




「ヘレナが、腕を治していいって。レインが危なかったら、勝手に治してあげなさいって」




 息が止まる。

 胸が熱くなる。

「レインは、ジーンの友達だから、もう許すって言ってた。レインに言っても贖罪だって聞かないから、私の判断で治していいって」

「……」 

「ごめんなさい。襲われてからすぐにやっていたんだけど、遠距離からの回復は時間がかかった」

「……」

 ヘレナが、僕を許した。

 腕を治していい。それは、僕の罪を許したのか。いいや、それはおこがましい話だ。きっとジーンのためだろう。僕がジーンにできること、ヘレナはそれに期待してくれたのだ。

 過去の罪は置いていけ。

 未来に、前へ。ジーンとヘレナのために、成すべきを成せ。

 僕は、僕は。

「は、なせ!! くそ、どうなって−−−」

「はは、はははっ」

「……は?」

 笑ってしまう。

 笑ってしまうさ。あのヘレナが、僕を認めた。全てジーンのためだと知っていても尚、どうしてもおかしくてたまらなくなる。

 裏切り者の僕を認めるか。

 ジーンを裏切った僕を受け入れるか。

 僕を許すのか。

「全うする」

 ならば僕が、僕を許してはならない。僕が僕を糾弾し、断罪し、約束せねばならない。

「僕は友達を全うする」

 ぐぐぐっと、レオナルドの細い腕を久々の左手で握り締める。悲鳴を上げて剣を落としたレオナルドも、僕同様に地面へ膝をついた。

 ようやく同じ目線になる。

「君は強い。天才だ。認めるよ。だが、残念だったね。僕は負けられないんだ」

「な、に言ってるんですか、さっきか−−−」

「友達は負けちゃいけないんだよ」

「友達友達って、あなた本当に頭おかし−−−」

 レオナルドを引き寄せる。同時に、額を鼻っ柱に叩き込んでやった。一度じゃない。何度も何度も、何度も何度も、その整った幼い顔が血で見えなくなるまで頭を叩き込んだ。

 ずるずると、レオナルドは倒れていく。

 僕の足元で完全に気を失った。

「ジーンの友達だから、君には負けない。負けられないんだ。すまないね、レオナルド」

「……友達、友達って……うるっせえなあああああああああああっっ!!」

 意識をすぐに取り戻す。

 瞬時に地面に落ちていた剣を拾って振り上げてくる。

 見事だ。土壇場の根性、底力、強者としてのプライド。紛れもない戦士であり、優秀な魔法使いだと言える。

 だが、残念だ。

「やめるといい、レオナルド」

「っ!!」

 僕も左手で拾い上げた自分の剣を使い、刃を受け止める。

 鍔迫り合いの中、ギラつく瞳が眼前に迫る。

「無意味だよ。やめるんだ」

「まだ勝負はついていないでしょう!!」

「ついているよ」

 剣先を踊らせる。

 レオナルドの剣が吹き飛ぶ。呆然と立ち尽くした少年を前に、僕は淡々と事実を口にした。

「僕は、左利きだ」

「−−−っ!!」

 血飛沫。

 胸、腹部、太もも、全てを一斉に斬り裂いた。僕を見つめたまま今度こそ崩れていくレオナルドは、薄笑いを浮かべていた。

「裏切り者の、くせに……」

「……」

「友達な……わけ……ないで……しょう……」

「……」

 地面にうつ伏せで倒れた少年から、怨嗟のような言葉が這い上がってくる。

 血が溢れていく。真っ赤な鮮血が溜まっていき、僕の靴先に触れた。

 大人しく聞き入れる。



「神城仁と、ヘレナ姫の……村を、エレストヤ国に……密告……した…………くせに……」




 間違ってはいないさ。

 無抵抗に、その事実を口に含む。

「村を……滅ぼ……した……くせ………に……」

「そうだね」

 噛み砕く。

 味わい、飲み下す。

「裏切り……………者…………が……ぁ……」

「そうだよ」

 ついに動かなくなった若き魔法使いから視線を外す。

 揺れる血溜まりを見つめながら、僕は口にしてみせる。

「−−−裏切り者だから守るんだ。今度こそ、全て」

 



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ