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魔法使いに魔法を、怪物にナイフを  作者: 月光女神
第一章 勇者襲来編
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第十七話 王都へ

「だから絶対話さないよ。殺るなら殺りなー」

 ヘレナと共に外へ戻ると、雪原の上にあぐらをかいている金髪の少女がいた。レインとソラリスが難しい顔をして少女を挟んでいる。 

 戻ってきた俺たちに気づいた少女−−−時の勇者ソフィア・アヴァルトは、俺ではなくヘレナを見た瞬間に表情が凍りついた。

 ヘレナを横目に確認する。

 先ほどまでとは一転、今にも三枚に卸してしまいそうな目をしている。

 その赤い瞳から目を背けたソフィアは、逃げるようにレインに顔を向ける。

「あのねレイン、そもそも私が全部バラしたらさ、エデニスト商会は私も許さないよ。他の勇者や闇ギルド連中も。裏切ったら殺される、ここで喋ってもレインたちに殺される、もう言う事聞く意味がないのさ」

「話してくれたら、僕たちは手を出さないよ。大体、君を倒せる魔法使いなんて、一握りしかいないだろう。なにをそこまで怯えるんだい」

 ヘレナを一瞥し、レインは問いかける。レインに任せると言ったからか、ヘレナは腕を組んで静観に徹していた。

「ここで私が全部げろって、逃がしてもらったとしよう。レインの言う、一握りの魔法使いは私を許さないね」

「……そうか。光の勇者がいたね」

「そ。あいつが事実上、エデニスト商会と闇ギルド連中のトップ」

「……最強の勇者。なるほどね」

 最強の勇者。つまり人類の中で最も強い魔法使いということだ。

 光の勇者、名称だけならいい奴そうだけど……。

「なあ、レイン。その光の勇者ってのは、ソフィアさんやお前と比べて、どれだけ強いんだ」

「魔王と互角にやり合い、生還している。間違いなく人間族最強の魔法使いだ」

 レインの説明に、ソフィアが訝しげな顔をする。意地悪でも挑発でもない、ただの指摘が割って入る。

「いや、生還っていうか、魔王を倒したのが光の勇者でしょ。それで戦争が終わったんだよ」

「……いや、うん。そうだったね」

 レインが謎の沈黙の後、チラリとヘレナの顔を盗み見る。俺も釣られて様子を確認するが、感情の伺えない瞳で俯いていた。

 触れないほうが良い、直感で悟る。

 俺はレインに話題を振った。

「魔王って、ヘレナの父親か」

「そうさ。はっきり言うが、ヘレナ同様に別格だ」

「……やばいじゃんか」

「ああ、やばいよジーン」

 ちらり、ともう一度ヘレナの様子を伺う。表情は変わらず、じいっとソフィアを見つめたままだった。

 恐る恐る、ヘレナに問いかけてみる。

「ヘレナは、その光の勇者と会ったことあるのか」

「ないわね。ただ、お父様から話は聞いたことがある。お父様が認めていたような口ぶりだったから、少し覚えているわ。……お父様は嬉しかったんじゃないかしら。自分と対等に戦える存在がいて」

「ヘレナでも、勝てないのか」

「勝てるわよ」

 さらりと、まったく淀みのない即答だった。レインもソフィアも、光の勇者の実力をよく知っているのだろう。だが、同時にヘレナの力も思い知らされている。光の勇者を相手に、ヘレナが負けるとも思えていない様子だった。

 レインは、ソフィアの肩を掴んだ。真っ直ぐにぶつかっていく。

「エデニスト商会と闇ギルド、その本拠地を教えてくれ。総大将の光の勇者を叩き、エレストヤ国王に突き出してやる。今回の計画を頓挫させる」

「ヘレナ姫が、光の勇者に勝てると思っているみたいだね、レイン」

「君はどう思うんだ」

「……」

 ソフィアは、ようやくヘレナを見た。

 その目に宿るのは、なんだろう、単なる恐怖ではなかった。畏怖、だろうか。

「……分からない。どうせ光の勇者も、ヘレナ姫も、本気で戦ったことなんてない連中だろう。だが」

 ソフィアはニヤリと、口の端を釣り上げた。

「ヘレナ姫、あんた人魔大戦の時、全く前線には出なかったが、なんでなのかな」

「……」

「もし、もしもだ。あんたが実は、魔王よりも強く、その存在を隠そうと魔王の配慮で隠遁していたというなら、私はあんたに賭けてもいい」

「なにをかけるのかしら」

「命。全部ゲロってあげるよ。拠点も、人数も、関わっているお偉方も。だが、それはあんたが絶対に光の勇者に勝てる出来レースだったらの話だ」

「しつこいわね。私より強い魔法使いはいないわよ」

「ふうん。なぜ、そう言えるのかな」

「根拠や理屈なんて弱者のすがる概念、私は知らないわ。事実以外になにを語るの。私が言っている−−−私以上は存在しないと。理解できないのなら今ここで死になさい」

「……」

 じっとヘレナを見つめるソフィアは、自分の命をかけるに値する取引たるか、熟考しているようだ。

 しかし、やがて失笑すると呟いた。

「確かに、あんたが負けるイメージが湧かないや」

「ソフィア。なら」

「うんうん、分かったよレイン。言うさ、言うから助けてくれ。死ぬのだけはごめんだからね」

「なら答えてくれ。連中は、どこにいる」

 ソフィアは断言する。

 俺を狙い、利用して、再び他種族へ戦争を仕掛けて戦いの場を設けようとする魔法使いと勇者。それに乗じて奴隷商売に勤しもうとするエデニスト商会。

 全ての巣窟が、どこにあるかを。

「王都、エデニスタート。連中はそこにいる」

 


 












 旅支度を済ませた。俺はリュックを背負ったソラリスの首元にマフラーを巻いてやる。手をつないで外に出ると、そこには馬車を用意してくれたレインがいた。

 馬の状態を確認していたレインは、ログハウスから出てきた俺とソラリスに笑いかける。

「ソラリスは、残っても良かったんだよ。ジーンは狙われているから、一緒に来るべきだけど」

「私は、お兄さんと一緒にいるから」

 ぎゅっと、手を強く握られる。

 俺はレインと目を合わせ、くすりと笑い合った。

「で、レイン。私、あんたらにつくって言ったわけだけど、なにこれ」

「ソフィア。念には念をというやつさ」

「魔法使えないままなんだけど。仲間じゃないの私」

「仲間、には早すぎないか。無理があるよ」

「……あっそ」

 氷の手枷がはまっているソフィアは、頬を膨らませて馬車の荷台に座っていた。どうやら、裏切り防止のためにヘレナの魔法による魔法不使用状態が続いているようだ。

「文句があるなら、私に言いなさい」

 最後にログハウスから出てきたヘレナが、カバンを肩に背負い直して淡々と告げる。ソフィアはふいっとそっぽを向いてしまう。

 しっかり上下関係が出来ているようで、何よりである。

 静かになった俺たちに苦笑して、レインが言った。

「それじゃあ行こうか」

 王都、エデニスタートへ向かう。

 初めての俺の旅が始まった。勇者二人、魔王の娘、エルフの少女、そして魔力のない異端者の俺。

 奇怪なパーティーを乗せて、馬が走り出す。また、全て解決してこの村に戻って来ることを、ただ願った。

 俺達の家が、遠く離れていく。

 またすぐに、戻って来られますように。皆、全員で。



 

 

 


 


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