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第3話【教室】

気がつくと、菜月は教室の机にうつ伏せになりながら寝ていた。先程までの痛みはまるでない。

周囲は騒がしく、誰かが自分を呼ぶ声がする。


「菜月?また寝てるの?そろそろお昼は終わりでしてよ!」


声の主は橘 真理子。笑顔が良く似合う、お嬢様気質の女の子だ。

幼い頃からの親友だが、なぜか高校の制服をつけている。


「また夢…?」と真理子をボーッと眺めていると、次の瞬間真理子が菜月のツインテールを引っ張った。


「痛っ!何するの、真理子!」


「夢じゃなくてよ?」真理子は楽しそうに笑っている。


だが、その感覚で、菜月はここが夢ではないことを実感した。そもそも高校を卒業してからはツインテールをやめ、髪もミディアムに切っている。

周囲を見回すと、懐かしい教室の景色が広がっていた。壁には文化祭のポスターが貼られ、制服をつけた学生がわいわいと話している。


さっきまで神社の地下にある、御堂で記事を書くために儀式をしていたはず。それなのに気がつくと学校の教室にいる。状況が掴めないまま困惑していると、校舎内に鐘が鳴り響き、ガラガラと音を立てながら教師が入室してきた。これから授業が始まる様子だ。


菜月は戸惑いつつも受け身に徹し授業を受けることにした。

机にかかっていた自分の(と思われる)スクールバッグを開くと今の自分は高校2年生であることはすぐに分かった。教科書を開き、先生の話を聞く。異常事態であるにも関わらず懐かしさが心を満たしていく。


「これってタイムリープしたってこと…?」心の中で思いながら、いつの間にか授業に集中していた。


放課後になるとまた教室は賑やかになった。実感がわかないまま友人たち同士笑い合うクラスメイトを眺めながめていると、真理子が声をかけてくる。


「菜月、帰りましょうか」と真理子が声をかけてきた。

昔はよく一緒に放課後遊んだものだが、菜月はその誘いを軽く流し、1人で家に帰ることにした。


自宅に着くと、菜月は自分の置かれている状況について考えていた。自分はどうしてここにいるのか、何が起こったのか。意味がわからなかった。


リビングに入ると、母親は買い物に出ている様子だった。菜月はその隙を見計らい、台所の棚にあるタバコを手に取る。


「まあ、中身は大人だし。」そう思いながら、タバコに火をつける。煙が肺に流れ込む感覚が広がった。

銘柄は同じはずだが、心做しか、いつもとは違う感覚がする。


フゥーっと煙を吐き、現在置かれている状況について考える。


「あの儀式は本物だったって事だよね」夢かまぼろしとしか考えられない状況だが、そうとしか考えられない。


しかし不思議と恐怖や焦りは感じない。

それどころかワクワクしており、摩訶不思議な状況を少し楽しいと感じていた。


高校を卒業して9年ほどだろうか。タイムリープした今が高校2年という事はおよそ10年前に来たことになる。つまりここ10年をやり直せる。


今まで大きな失敗はした事がないが、小さな後悔ややり直したい過去は沢山ある。それらをやり直せるのならば現代に戻る必要なんてない。むしろ戻りたくない。


「ん〜、まずは…色々思い出しますか!」


菜月はスクールバックに入っていた自分のガラケーを取り出すとメール履歴や写真フォルダを漁り始める。写真や真理子とのやり取りを眺めていると、懐かしさからか、すぐに周りの音も聞こえないほど夢中になっていった。


リビングでは、もはや誰も聞いていないテレビが流れ、画面にはニュースキャスターが真剣な表情で話している姿が写っている。「昨晩23時頃、○○市△△町で、男性が人に噛み付く事件が発生しました。現場にいた住民によりますと犯人は錯乱していた様子で━━━━━━━━━━━」


どれほどの時間が経っただろうか。


「ただいまーっ」母親の声で菜月は我にかえった。

ふと手元に目をやると、先程まで吸っていたタバコの吸殻が灰皿に転がっている。菜月は反射的に灰皿を手に取ると、窓を開け、庭に灰皿ごと投げ捨てた。


その日の夜は、久しぶりに見る若い母親との夕食を楽しみ、食べ終わると、庭へ駆けつけ灰皿と吸殻を片付けた。その後は早々にシャワーを浴びて、数年ぶりの実家のベットに入る。

久しぶりの学校だった疲れもあり、しばらく携帯のメールのやり取りを見ているうちに菜月は眠りに落ちていた。

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