第2話【水子堂】
菜月は、会社の後輩である安藤隼人を連れて村へ向かう車の中にいた。後ろの座席に座る隼人は、事前に調べてきた情報をノートにメモしできたようで、真剣な表情で読み上げている。
「久遠村…僕たちが向かう、その村では昔から永劫回帰の伝承が信じられてきたみたいで」
「人は永劫回帰を繰り返し、その人生における罪を全て償うと次の魂へ転生できる。そう信じられてきたみたいですね。神社裏にあるという儀式を行う場所は人が死んだ時にその永劫回帰する場所だとか」
「へぇ、そうなんだ。」菜月は少し驚いた。「罪を償わないと次の魂へ転生できないなんて、重いね。」
「まぁ、その伝承が今でも村の人たちに信じられているかは、まだ分からないですけど。」隼人はノートを閉じるとふぅーと息を吐く。
「その儀式を行うってとこ、どんなところなんだろう。」菜月は不安が胸に広がる。
途中休憩を挟みつつ、車を走らせ3時間ほど車を走らせると、ようやく村に到着した。静まり返った光景が広がっており、人の気配はほとんど感じられない。
とりあえず、空き地であろう場所に車を止め、外の空気を吸う。
「ここ、すごく静かだね。」菜月は小声で呟いた。
「本当ですね、ザ・過疎地って感じです。」隼人は周囲を見回し「例の神社はあっち方面みたいです。行きましょうか。」と道路の先を指さす。
二人が古い地図を頼りに神社までたどり着くと、そこには古びた木の鳥居が立ちはだかっていた。菜月は鳥居をくぐり、神社の境内に足を踏み入れる。
「ここが、その例の場所の入口がある神社なのかな?」菜月が呟く。
菜月は神社の裏に回ると、井戸のような入口を見つけた。周りには小さな地蔵がひしめき合っていた。
「へぇ…それっぽい雰囲気あるじゃん…」菜月は思わず声を漏らした。
後ろからついてきた隼人はその光景を見つめ、興味津々の表情でいう。「なんだか、不気味だけど、面白いですね。」
あちこちキョロキョロする隼人を尻目に菜月は隼人のいう神社裏の中心部にたどり着いた。
そこには、まるで井戸の様な見た目をした穴がり、上から覗くと、ハシゴが1.2メートルほど伸びている様だった。その先にはかなり急ではあるが階段が見える。
「じゃ、先に降りるわね」そう言うと菜月はハシゴを掴み足をかける。
「もう行くんですか?」と慌てた様子で隼人も後に続く。
ハシゴを降りると上で見たよりも急な階段が続いていた。少しでも踏み外したら下まで転がってしまいそうなくらい急なのにも関わらず、手すりすらなかった。
2人が階段を降り終えると、小さな御堂が目の前に現れた。周囲には千羽鶴や風車があり、カサカサと音を立てて揺れている。
「うっわ…」隼人はおもわず息を飲む
菜月は周囲を見回しながら、心臓が早鐘を打つのを感じた。なんだか、ここにいると空気が重い気がする。
隼人は儀式の道具を取り出しながら言った。「じゃあその儀式の準備しますね。」
菜月は頷き、儀式のためのお供え物を御堂の前に並べる。
ここへ向かう途中、スーパーで買っておいた。
その【儀式】もやり方は隼人が予め調べておいてくれたようだ。
「儀式なんてしても何もないとは思うけど…」しかし内心では不安が広がる。
「まぁ、何かしらの感覚が得られるといいでふね」隼人は儀式の流れを確認しながら、慎重に進めていった。
準備が整ったところで、隼人は改めて菜月を見た。「行きますよ。」
「うん。」菜月は膝を着いた瞬間、頭がズキンと痛む感覚が走った。菜月は思わず手を頭に当て、蹲る。
「菜月さん?!大丈夫ですか!」慌てる隼人の声が遠くに聞こえた。
「うん…でも、ちょっと頭が…」菜月は割れるような痛みを我慢しつつ体を起こす。
「無理はしないでください。」隼人の声が、さらに遠くなっていく。
痛みが強くなり、周囲の景色がゆらめいて見える。菜月は不安に駆られ、呟いた。「あ…これ、ヤバいやつ…」
「み、水とってきます!」隼人は今来た階段を駆け上がり、ハシゴをあがっていく。
菜月は少しでも痛みを和らげようと呼吸に集中しようとした。しかし、頭の痛みはますます強くなり、視界がぼやけ意識が遠のく。
何が原因なのかも分からない。日頃から心霊スポットやパワースポットなどは仕事で行くが、こんな事は初めてだ。
隼人がハシゴをのぼり終えたようで、御堂の屋根から雫が滴る音と菜月の心臓の音だけが聞こえる。その瞬間、これまでの痛みとは比にならない痛みが襲い菜月はその場に倒れ込むと、目の前が真っ暗になった。