01 集落からの旅立ち
朝になり、ダリンはいつものように家の裏に植えてある畑の植物の手入れをしていると、いつの間にか、起きてきたイヨツとトヒイヨが声をかけてきた。
「おはよう、昨日は大変世話になった。ありがとう」イヨツが声をかけるとほぼ同時にトヒイヨが畑を指さして
「おはよう、君は畑を作っているのか」と言ったが、
ダリンには畑が何のことだか分らなかった。
「畑というのは、何のことですか?この草はピチュと言います」
トヒイヨが「ピチュというのか・・・ってっきり菜の花だと思っていた、畑というのはだな・・・なんというか草花を育てるために世話をしている地面のことを言うんだ」
ダリンは、話を聞いているのかいないのかわからないが、ピチュを少し摘み取り袋に入れると家に戻っていった。
トヒイヨとイヨツは畑を眺めて
「こんなに立派に育っている畑は見たことがないな」
「領地で一番かもしれないな」
「我々の農民に指導してほしいな」
と頷きあっていた。
暫くすると、ダリンの家の方から、炒めものをしているような良い香りがしてきた。
昨日かくまうように、連れて来られたことを思い出した二人はダリンの家に戻ることにした。
薄暗い家の中に戻ると家の裏の方では焚火が焚かれていてエラが焼き立てのパンとピチュを炒めたものを用意してくれていた。
昨日も食べたのに、とても美味しかった。
楽しかった食事を済ませると、一行はダリンに一緒に旅に行かないかと誘ってみた。
「僕は狩猟下手です、ここに育てている草たちがいる、だから(この地を)離れない」
そう言って、断られてしまったのだが
家の外から大声がしてきた「おいダリン、てめえ余所者を入れたな、何やってるんだ」
直ぐに乱暴に扉が開かれて、ずかずかと若者たちが家の中に入ってきた。
一行へ手を伸ばそうとする若者たちの間にダリンがすぐに割って入った
「僕の家のお客さんです」
若者は、「おまえ何やってる、領主の奴らは俺たちから、税を取るやつらだぞ、税を取って何もしないのに、こんな奴ら助けてやることないだろ。それにお前は猟もできないのになんで偉そうに主人ぶってるんだ」
6歳のダリンはあまり狩猟が得意ではなかった。
ダリンの父親も狩猟は得意ではなかったが、植物の状態を見極めることが得意だった。そのため食べられる植物を家の裏の土地に植えて増やしていたのだった。ダリンは父親の見よう見まねで植物を増やし植物と対話をするようになっていた、ダリンの事を兄のように接していたエラもダリンといつも一緒にいることで自然と植物に詳しくなっていた。
若者の一人がエラに手を出そうとした。
「やめろ、エラに何をするんだ」ダリンが叫ぶが、4歳のエラは10代半ばの若者たちには、体格差は圧倒的でなすすべもなく家の外に連れていかれてしまった。
ダリンも外へ出て行き、しばらくの口論の後に小突かれて倒れた所で、イヨツとトヒイヨ達4人が慌てて家から出て駆け寄った。
「お前たち、この集落から出て行け」
若者が大声で怒鳴ったが
「私たちは、領主様の命で隣領地へ書簡を届けに行くのです。この使命を成功させるために私たちと一緒に旅をしませんか?
成功すれば、領主様から報酬を頂けますよ」
トヒイヨからの提案に対し
「テメエらだけで行けばいいだろ」若者たちは、トヒイヨ達一行が集落から出て行くのを待っていました。
「ダリン一緒に行かないか?」とトヒイヨが声を掛けましたが「僕が世話をしないと植物たちがダメになってしまいます」と良い返事は貰えませんでした。
「そうだ、お前たちどうせ狩猟も出来ないんだから、旅に行けばいい、領主様から褒美がもらえるぞ」
若者たちが大声で笑いながら言いました。
そして捕まえていたエラをイヨツの方へ放り投げました。
イヨツが慌ててエラを抱き留めました。
「ダリン、ここにいたくない、一緒に行きたい」
エラの言葉にダリンは悔しそうな表情を浮かべながらも、深くうなづきました。
「イヨツさんエラと二人で行っても良いですか?」
子供二人が一行に加わっても足手まといになるだけだろう、そう思った4人でしたが、それでも昨夜自分たちを助けてくれたこの2人への恩義、そしてダリンの植物に対する知識を考えると一緒に行くメリットはあるとも考えられた。
4人は特に話し合いをすることもなく、一緒に旅に立つことを決心したのでした。
一緒に行くことが決まると、ダリンは、畑を手伝ってくれていた木こりのジーさんに旅に出る事や畑の手入れについて伝えると、家にあるナイフや食料を纏めるのでした。
ジーさんも、一緒に行きたそうでしたが、年老いて長旅には耐えられそうにないと、諦めたのでした。
ダリンの家の中で4人はダリンに持たされた食料の多さにとても驚きました。肉は全くありませんでしたが、大量の麦・干したピチュなどが、こんなに運びきれないという程にあったのです。
森の中を荷車では通行できないので、仕方なく5人で運べる量だけを持って行くことにしました。
残りはジーさんに残して行くことにし、ジーさんとあいさつを交わすと、集落を出発したのでした。