蛇大戦、開戦
里はひどい有様だった。遠目からでもわかっていたことではあったが、やはり湿地帯であるにも関わらず炎が上がっている。家屋の多くは倒壊しており、そこに目を凝らすと逃げるのが間に合わなかったのだろう、がれきの下敷きとなりつぶれている人が見えた。
気分が悪くなる、見なかったことにしよう。
ミリナは走りながらもどうすればいいか迷っている雰囲気だった。一方のフックルは迷いなく橙の蛇のところへ走る。なんとか追いつきその横顔を見てみると、なんだかよくわからない顔をしていた。恐怖、焦り、そして……興奮?
何故、と考え、すぐに思い当たる。彼はヒーローになりたいのだ、そして明らかに被害の大部分を占めているのだろうあの蛇を倒すことで自分はヒーローになれる、そう思っているのだろう。
「あの蛇のところへ行くんだろ、怖いか?」
「怖い、けど、行く。それが英雄だろ……あんたは?」
俺か?ハハハ、怖いに決まってんだろ。だが、行く、それが特別な奴ということだから。
本質的にこいつと俺は似ている。英雄に憧れるこいつと、オンリーワン・ナンバーワンに憧れる俺、俺の場合、そこに正義感の割合は少なめだがな。だがまあ、ドグマの対処はミリナの頼みでもある、やったろうじゃないか。
さらにギアを上げて橙の蛇のところへ向かっていったフックルを見送り、路地裏から出てきたの蓬色の蛇に反射的にドロップキック。そろそろいったん解除しないとリバウンドがやばい、と≪命燃≫を解除する。
体が極端に重くなる、リバウンドの疲れだ。あの丘から発動しっぱなしだったから、やはり疲れがひどい。少し休憩してからあのデカ蛇のところへ行こう。
「きゃあ!」
女子の悲鳴を聞いて、振り向かない男子はいない。見ると、ミリナがブロンド色の蛇に引きに巻き付かれている。そしてそれを担ぎ、逃げようとするターバンを巻き、これまたグレーの蛇に乗った男。
ドグマは「蛇使い」だ。あんなよくわからん蛇を使役しているのは間違いなくスキルの効果だ。そして複数人に同じスキルが宿ることはない、というのはアリシアさんの言葉だ。そして人間で、蛇と仲良くしている男はおそらくこの里に一人しかいないだろう。
であれば、間違いない。あいつがドグマだ。
そう結論付けた俺の行動は早かった。まだ回復しきっていないにもかかわらず≪命燃≫を再起動、グレーの蛇に乗り路地裏に逃げ込んだドグマを追いかけるのだった。
***
ミリナはドグマに捕まっているこの状況に至るまでの自分の行動にひたすら後悔していた。ミリナは迷っていた、自分はどうするべきなのか、と。フックルとノースヨンは迷わす橙色の蛇のところへ向かおうとしてしていた。特にフックルは実践なんてほとんどしたことはない、きっと恐ろしかったはずだ。
そう考え、さらに自己嫌悪に陥る。ミリナは最後は空腹で倒れてしまったものの、故郷からこの里まで旅をしてきたのだ。もちろん実戦経験はある。
だがミリナはあの時動けなかった。雑兵である蓬色の蛇も放たれていたものの、被害の大部分は橙色の蛇だ。おそらく蜥蜴人族の戦士たちもあの巨大な蛇を一刻も早く打ち取ろうとしているだろう。
その戦士たちに加勢し、橙色の蛇の討伐を優先するか。被害を抑えるために救助を優先するか。これほど大規模な襲撃、おそらく戦場に来ているだろうドグマの捜索を優先するか。
刻一刻と被害が、死人が増えていくこの状況で、ミリナは何を優先するべきか、踏ん切りがつけられずにいた。これまで、多くの死線を潜り抜けてきたのにもかかわらず。
何より、恐ろしかった。この感情がミリナの決定をもっとも遅らせ、ミリナをもっとも自己嫌悪に陥らせているものだった。
あの蛇達と戦うのは怖い。緑の蛇になすすべもなく捕食された、ノースヨンに助けてもらわなければ、死んでいたかもしれない。その経験はミリナにトラウマを植え付けた。
それにミリナにとってこの里の人々は大恩ある存在だ。裏切れなかった、裏切っていいはずがなかった。
その罰だ、この状況は。ほかでもないドグマに隙をを突かれ、攫われた。何をされるかわからない、だがきっといい待遇はしないだろう。己の体に巻き付くブロンズの蛇がミリナのトラウマを刺激する。
「ごめんなさい……ごめんなさい……」
半ば泣きそうになりながら、謝罪を口にする。誰に?これまでかかわってきたすべての人に対してだ。
ふがいない自分でごめんなさい。ここまで生かしてもらったのに、簡単に死にかけてごめんなさい。裏切るようなことをして……。
「待てええええええええええええ!!」
「!?」
知ってる声だ、だがミリナの知らない声量、見たことのない感情のこもった声が、ミリナの耳に届く。
「ち、もう来たのか」
ドグマが低く、そうつぶやいた直後。
高速で跳んできた剣がグレーの蛇の頭に突き刺さり、動きを止める。そのまま慣性の法則によりミリナは宙に投げ出される。ブロンズの蛇ががっしりと己を縛っている、態勢を整えるどころか、受け身すら取れないだろう。
(これ、頭から落ちますね)
きたる死の衝撃に備えミリナは目をきつく瞑る。だがその衝撃いつまでたってもやってこない。恐る恐る目を開くと、ミリナは見た。
死にかけているような、なんとも閉まらない顔で自分のことを支えるノースヨンの姿を。
蓬色:プレーン グレー:乗り物
水色:索敵、潜入 赤色 :ミサイル
緑色:タンク 紫 :○○
橙色:質量兵器




