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燃えよ!命よ、異世界よ!~俺だけチートスキルないけど頑張って魔王倒します~  作者: ユユノムラ
プロローグ・第一章:憧れに手を伸ばして
4/10

亜人の世界

 遭難十日目、何とか生きています。

 とりあえずこの状況を間接的にに引き起こしたあの三人組のことは末代まで呪うことに決めたが、だからと言って何か変わるかと言ったら俺の心の持ちようが若干変わるだけだ、まるで意味はない。

 サバイバル知識皆無なせいでなかなか苦労しているが、食料や水がない、という事態にはなっていない。なんせ森だし、腹は何回も壊したけど。

 それにこの森で遭難したことで得たメリットもある。それはスキル≪命燃≫の効果の詳細を確認できたことだ。

この森には先日の質量兵器クマのような猛獣が大量にいる。牙が剣みたいになっている虎とか、もはや魔物の部類に入るんじゃないかというやつもいた。

そんな奴らに対応するために、≪命燃≫を使いまくった。そしたら大まかな性質も分かってくるというものだ。

 ゲームのようにシステムウィンドウが説明してくれるわけではないため、結局は憶測にしかならないのだが、このスキルはエネルギーの()()のようなことをしているのだと思う。エネルギーを急速に燃焼、消費して身体能力を向上させる。そしてそのデメリットとして使用時間に比例して後から疲労感が襲ってくる、これが前借ということだ。

 この特性のせいで死にかけたことが一、二回あった。あの女神がこのスキルのことを教えてくれればこんな苦労をすることはなかった、やっぱり末代まで呪うか。

 現在地点はいまだにわかっていない。サーバリオは太陽や星の動きが前の世界と一緒だが、俺は星読みの技術なんてない、現在地が分かるはずがないのだ。

 とりあえずは太陽を背にして進む、いったんの方針だ。

 シャアア!と威嚇してくる巨大な緑一色の蛇と対峙しながら、俺は太陽の位置を見た。少々橙に染まっている、夕暮れ時だ。

 ≪命燃≫を発動、一瞬体全体に炎が走る。剣を抜き、構えながら蛇に向かって叫ぶ。

「今日の晩飯はおまえだッ!!」

 お前の体には毒がないうえに、燻すとめちゃくちゃうまいの、知っているからな!





「ええ……」

 全身の鱗が剛力から繰り出される斬撃によって傷つき、ついに力尽きた緑の巨大な蛇(今日の晩飯)が体内から吐き出したものは、それはそれは美しい胃液まみれの少女だった。

 捕食されてから時間がたっていないのか皮膚が特殊なのかわからないが、服が若干溶けているだけだ。だが大量の切り傷、擦り傷、牙が食い込んだような傷を持つ少女は、少なくともメトロンの人とは思えなかった。

 あそこはいわゆる「人」が住む町だったが、この少女は猫耳、ネコ科のしっぽ、鋭い爪を持つ。すなわち獣のような人間だ、あの町にはそんなのはいなかった。というか、この世界って亜人種いたんだな。


「って、困惑してる場合じゃない!」


 とりあえず治療をしよう。この森に生息する巨大な肉食植物(名前は不明)からとれるエキスは強力な治療薬になる。まさかの塗るタイプでありながら幻覚作用付きだけど、寝ているうちは問題はない。

 バッグから治療薬の入った革袋(町長用意)を取り出し、塗ろうとした瞬間、俺の脳裏に一つの懸念が浮かんだ。


──肌に触っていいのか?


 別に俺は女子が苦手というわけでも、女子と話せないというわけでもない。だが、小学校時代に倒れた女子を心配して近寄ったら「さわんな!」と(周りの女子から)言われた思い出があるので女子と触れ合うのは精神的にストッパーがかかってしまうのだ。

 だがそのストッパーが今回は功を奏した。まず傷口を水で洗わなきゃこの治療薬は逆に毒にもなりうる、それで死にかけたカウントプラス一だ。

 幸運なことに近くに川が流れている、そこで傷口を洗おう。まあ当たり前だな、水を飲んでいた蛇を俺が襲撃したんだからな。

 傷口を洗い楽な体勢にする。ちょっと見えた下着らしき布は全集中力をもってスルーだ。治療薬をすくい取り、傷口塗り込み……あ、肌やわらかっ……いやいやいややましいことは考えるな、命の危機かもしれないんだぞ!

 少々苦労して治療していく俺であった。





    ***

 その亜人は夢を見た、死の恐怖ごとあの大口に飲み込まれた。

 その亜人は夢を見た、信頼できる人を……裏切らない人を……強い人を見つけなければ。

 その亜人は夢を見た、あ……いまい……れい……を……

 その亜人は光を見た、半ばあきらめていた、生の光。




    ***

 その子の目覚めは静かすぎて、俺は数十分ほどは起きたことに気づいていなかったらしい。

 俺は今尻もちをついている。あたりはすでに暗く、近くにおこした焚火だけが光源だ。そして俺の目の前には、ゆっくりと起き上がろうとしているネコ科の獣人の女の子。服がボロボロなので町長が用意してあった厚い布を毛布代わりにまとっている。

 俺は先ほどこの子の様子を見ようと顔を覗き込んだ際、ばっちり開いていたその子の目と、目を合わせてしまい俺は恐怖のあまり「びゃあ!」と変な奇声を上げてしりもちをついてしまったのだ。

 どうやらしばらく俺のことを観察していたらしい、獣人の少女は、一つ呆れたようなため息をつくと、一言。


「おはようございます。腰を上げてくれませんか?」

「アッハイ、オハヨウゴザイマス」

 

 今一度この少女の情報を整理してみよう、今から自己紹介に入るからな。

 この子はおそらく猫の獣人、明るく薄めのピンク色の髪を左側だけ三つ編みにした脇のあたりまでのロング。年の頃は14,5歳ほど、あとこれは必要ないかもしれないが、美少女だ。先ほどまで蛇に食われていた。これが今のところの俺が知っている情報だ。


「助けていただいたのですね?ありがとうございます……。傷まであらかた治っているなんて」

「即効性の特注治療薬があるので」

 幻覚作用あるけど。

「申し遅れましたね。私の名前はミリナ、猫の獣人族(ビーストマン)です」

 獣人改め獣人族のミリナはぺこりとお辞儀をした、丁寧な子だ。

「俺は……」


 と言ったところでふと考える。俺の名前は北島彼方だ。だがこの世界の住民は「ゼボルト」さんしかり目の前の「ミリナ」しかり、名前がカタカナだ。そこに「カナタ」というのも少し変だ。では……


「俺の名前はノースヨンだ。まあ人間だよ、ノースって呼んでくれてもいいよ」


 ははは、north(北)とbeyond(彼方)の合わせ名前……ハンドルネームかな?


「それはそれとしてなんであの蛇に食われていたの?」

「っ!そうです!あのドルマの眷属蛇はどこに……」

「あれ」


 俺はすぐ近くで残骸と化した蛇を指さす。ミリナはまずその蛇の残骸を見て目を見開いた。そして次に焚火で燻されているのが蛇の肉だと気づいたようだった。

 やめてくれ、わかっているから、この行動が若干異常なのは。分かっているからそのドン引きを隠そうともしない表情でこっちを見るのはやめてくれ……。


「本当に……あなたが倒したのですか……?」

「えっなんか駄目だった?」

「はい……でも、あの眷属蛇を倒せるほどの実力を持つのですから……いや、でも……」


 言ってもヒットアンドアウェイでちまちま切ってただけなんだけどな。あいつら突進と噛みつきしかしてこないから単純なんだ。だがミリナの言う「ドグマの眷属蛇」というのは結構危険な存在なんだということが分かる。

 しばらくミリナは一人でブツブツと呟いていたが何か決心がついたのか立ち上がると、俺に問いかけてきた。


「あなた、スキルを持ってますか?」

「え、うん」

「なら、協力していただけませんか、ドグマを倒すのを」

「そのドグマって誰なの?」

「説明は後、まずは"里″に着いてからです。すぐ出発しましょう」


 そう言って出発をせかすミリナだが、それもぐ~という音でいったん止まった。


「回復には結構体力使うんだよね。蛇肉食う?」

「……仕方がありませんね。いただきましょう」





「いや里って……蜥蜴人族(リザードマン)のかよ!」

「そうですが……獣人族の里だと思ったんですか?」


 思うに決まってるだろ!

 結局一夜明かしたうえでかなりの距離を移動して着いたところは湿地帯だった。そしてそこの石でできた家の集団……ミリナの言う里についたのだった。

 そしてそこに住むのは蜥蜴だ。だがでかい、立つ、喋る、すなわち蜥蜴の亜人である。

 俺たちはいま里の大通りを歩いている、遠くに見える一回り大きい建物に用があるそうだ。周りの蜥蜴人族の目は様々だ。好奇心、懸念、敵対心、だがミリナのほうは信用されているようで、話しかけてきた蜥蜴人族たちも友好的な感じだった。


「そういえば、どうしてこんな簡単についてきたのですか?」

「え?ああ……迷子だったから。あの森から出れるんだったら、何でもいいさ」

「……そうですか」


 自分からついてきてとか頼んだわりに、俺のことはあまり信用していないようだ。

 俺は歩きながら例の「ドグマ」について考えた。と言っても蛇を従えているというのと、俺があの緑の巨大な蛇(昨夜の晩飯)を倒したからには、無関係ではなくなったということだ。ミリナが俺はスキル持ちかどうかを確認したということは、それほどの強敵ということになる。協力するって言っちゃったけど、大丈夫かな。

 

 ミリナ曰く、サーバリオでスキルを持つ人は案外珍しいらしい。なるほど、それではチートスキルというのはだいぶ強力な兵器になるということか。じゃあそこまでして魔王を倒しきれない理由ってなんだ……?


──魔物はスキルを持たない、スキルを持つように見えてもそういう生態なだけ。魔法を使う者もあれど(この世界には魔法があるらしい)、それが得意な知能のある魔物でない限り、脅威ではない。そしてそういう知能のある魔物はたいていは亜人として認識される。


 これはアリシアさんが説明してくれたものだ。今思ったらこの時すでに亜人について説明を受けていたな、いろいろありすぎて忘れていた。

 それと話は変わるが、なんとなくこの里には元気がn「着きましたよ」


 ふと前を見ると、里に入ったときに遠くから見えていた比較的大きく豪華な建物のすぐ近くまで来ていた。大きな門がついており、そのわきには胸鎧をつけ、槍を地面に突き立てた状態で警備をしている様子の蜥蜴人族がいた。

 ミリナはその門番と何か話していたが、どうやら中に入る許可が下りたようで、俺を手招きで呼び寄せ、中へと入っていった。俺も入ろうとしたとき、その門番にギョッという顔をされた。

 中にいた蜥蜴人族に最上階の一番奥の部屋に案内され、部屋へと入る。

 その部屋の空気感に俺は気圧され一歩引いてしまった。ミリナも俺ほどではないもののその威圧感に気圧されているようだ

 なんとなく事務室的な雰囲気のある部屋の椅子に座り、机で頬杖をしているそのおそらく老人と思われる蜥蜴人族には、()()があり、爪はさらに鋭かった。

 その黒き鱗を持つ竜人族(ドラゴニュート)は、まっすぐと俺たちを見定めるように、視線を向けていたのだった。

 




・イートコピー=フラワー

巨大な食肉植物。捕食した生物の魔力の参照し、エキスを生み出してそれを使用して繁殖、防衛をするという。

治療薬の成分元はトカゲみたいな猛獣。

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