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燃えよ!命よ、異世界よ!~俺だけチートスキルないけど頑張って魔王倒します~  作者: ユユノムラ
プロローグ・第一章:憧れに手を伸ばして
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突撃(仮)!異世界さん!

 驚愕。感情円グラフというものがもしあれば、その99%を占めているのがこれになるだろう。あとの1%は頭の冷静な部分が出している疑問だ。


「なんで、ナンデ?なんで俺にはチートないの?」


 尋ねる俺の声は震えていた。たぶん、手も震えている。そんな俺に目の前の女神様、アルテーレは呆れたように答えた。


「当たり前じゃないですか。チートスキルで国家征服とか考えている人に、渡せるわけがありません」

「い、いや確かにここに来る直前に考えていたけれども!あれはあくまで想像であって、実際に手に入れたらそう使ってやろうと思っていたわけじゃなくて、そもそも手に入るとも思っていなかったわけで……」

「すでに決定事項です。あなたにチートスキルはありません、いいですね?」


 俺の言い訳を一蹴した女神さまが右手に振ると、俺の中に何かが入ってきた気がした。腰に硬貨のような重みが加わり、服を着させられるような感覚が……あれ、もしかして俺裸だった!?うそでしょ!?


「あなたにはスキル≪命燃(めいねん)≫を与えます。それと初期資金とサーバリオの文化に合った服もです。それではご武運を……スペリア バークポート!」


 俺の視界は白い光に包まれた。





 クリスタルが砕け散り、俺は地面に落下した。地上二メートルから。


「ヘブッ!」

「おいおい、大丈夫かよ。えーと……」


 胸を強打し、うめき声をあげている俺に一人の男が声をかけてきた。見覚えはある、だが名前は知らない。それは相手も同じらしく、「えーと」と唸っている。

 俺がいるのはザ・教会な装飾をした円形の大広間だった。この男の奥にも人影が見える、十数名ほどで、俺や、前の男と同じような服装をしている。あの教室にいた転移者たちだ。

 その中から、いかにも聖職者っぽい恰好をした老齢の男性と金髪の若い女性が現れた。


「これで全員ですな。ようこそお越しくださいました、魔王を穿つ可能性のある勇者の皆様。私はこの町の長であり、転移者の管理を女神様から任されている、ゼボルトです」

「補佐のアリシアです」


 二人が深々と頭を下げる。お辞儀をされたら、お辞儀を返す、日本人にしみこんだ習性により、俺たち転移者も頭を下げた。


「皆様方、女神様からすでに事情はうかがっておられるでしょう。今、このサーバリオは魔王の魔の手にかけられようとしているのです。どうか魔王を討ち、この世界を救ってください……」


 なんだこれ、ベタなRPGみたいだ、ただ悪い気はしない。だが俺が持っているのは彼らが期待しているようなチートスキルではなく、≪命燃≫という名の普通のスキルだ。能力はまだわかっていない。

 深く頭を下げるゼボルトさんとアリシアさんに一歩進み出る男がいた。眼鏡をかけた……確か学級委員の村本だ。


「顔を上げてください。必ず魔王は倒して見せます!」

「ヒュー、流石ガッツのあるガッキュイーンだぜ」


 囃し立てる男を皮切りにして、転移者の面々が次々と「任せてください!」とか「面白そう!」と意気込んでいく。さながら英雄気分だろう。


「おお、頼もしい!それではこちらへ、この村を案内しましょう」


 ゼボルトさんが扉のほうへ、俺たちもそれに続く。


「……してませんけど」


 後ろを歩くアリシアさんが、そうつぶやいた気がした。



 はぐれた、完全に。

 ゼボルトさんに村を案内されている最中、元の世界で見たことのないものに目移りしてしまい、意外と広いこの村で迷子になってしまったのだ。

 ゼボルトさん曰く、今俺が来ているこの薄手(サーバリオの季節は現在秋らしいので少し寒い)の服では冒険には耐えられないらしいので、丈夫な冒険者用の装備や武器は町が無償で用意してくれるらしい。何か裏があるのではないかと疑ってしまうほどの手厚いサポートなのだが、それだけ信頼されている証拠だろうか。

 だが、あの女神さまの話が本当なら、転移者には一部の例外を除いてチートスキルが与えられることになっているはずだ。それでもいまだ魔王は倒せないのだろうか、それとも代替わり的なのがあるのか、それとも……。

 いやそれはないだろう。高校生、特に男子が英雄になれるなんて言うワクワクする、特別になれるチャンスを棒に振るなんてそこそこないだろうし。

 そんなことを考えてながら道をぶらぶらと歩く。道のわきには露店が多数出ており、それなりに賑わっている。そこに並ぶ商品を軽く一目見て……ふと、何かに吸い寄せられる感覚がした。

 武器商人の露店に並んでいる武器のうちの、一本の剣。蝙蝠の羽のような黒い鍔がやけに目に付く。刀身には黒いラインが走っていた。


「それが気になるのかい」


 胡散臭そうな老人店主にそう問われ、俺は首を縦に振った。


「これは最近掘り出された一品物でねえ、性能がいいのは確かなんだけど……値は張るよ」


 俺はなぜか提示された値段に対して物怖じすることはなかった。女神さまから与えられた初期資金の八割を払ったその剣は、よく手になじんだ。


「毎度あり……」


 フードから少し見える店主のいびつな顔の口角が軽く上がった、ような気がした。

 そのあと、ゼボルトさんたちと合流することができ、今日は町の大きな屋敷に泊まることになった。諸々の準備は今日のうちに終わらせたが、終わらせたときには日が沈みかかっていたため、大事をとって出立は明日にすることになったらしい。

 そして俺はこの日の夜、サーバリオに来て一番初めの地獄を見る羽目になるのだった。


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