第三楽章 karin model
好きな人の見ている世界をのぞけたら?
恋を諦める?
いいえ、私は諦めないわ。
「キヨ、籐椅子で文豪みたいなポーズしてる」「ほんとだ、哀愁漂ってるわ」「絶望感すごく来ているんですけど、県予選前だってのに」「こいついたら金は金でもダメ金になりそー」「リン、キヨくんに何かあったの?」
先輩達には、ふわっとした返事をしておいた。分かっているのは私だけでいいの。
「兄様のことは、わたくしに。リン姉様は、ソロの練習に専念くださいな」
「ミコちゃんは、優しいわね」
この私を振り向かせようだなんて、100万回生まれ変わっても、その先もずっとムリなのよ。誰のせいでキヨちゃんがヘコんでいると思うの。だから、意地悪してやるわ。
「さっきくれたお茶、とても苦かった。ブヒィって三回鳴いてくれたら、許してあげる」
耳打ちされて青ざめたあの子ったら。逃げられちゃった。残念、鳴き声聞きたかったわ。いいの、勝ち星はこっちのものよ。
夏休み前のパート練に、好きな人の眼鏡を取って、かけてみた。雑誌のコラムに載っていた「両思いになるおまじない」を実行したってわけ。そしたら、向かいに座っていたあの子にぞっこんな世界が見えてしまったの。
「風見子……南無阿弥陀仏……」
キヨちゃんが一気にハゲそうになってる。家庭の事情は、あの子がはにかんでいっぱいしゃべってくれたから、把握済みよ。ラノベかギャルゲーじゃないんだから。ひとつ屋根の下で暮らす義妹は、そんなに萌えるの?
ごめんね、キヨちゃん。ミコちゃんの眼鏡を手にしやすい所に置いたの、私よ。仕返しじゃないからね。キヨちゃんなら、ミコちゃんの世界を見た後、どう思うのかなって。
くじけるわよね。私もそうだった。でも、次の日になると、前より胸が熱くなっていたの。ライバルなんか、いないにこしたことないけど、いたらいたらで勝ち取った時の喜びが大きくならない?
「諦めないわよ」
コンクールの間は、戦友でいてあげる。二回目の文化祭からは、ガンガン攻めていくからね! 理想は、来年の三年生によるファイナルコンサートの後に告白よ。ビッグカップル誕生、見てなさい!
あとがき(めいたもの)ではなく、ソラ・ヤソジマのすべる話
改めまして、ソラ・ヤソジマです。いきなりですが、昔の思い出をば。
夏休み中に部活の合宿がありました。芸術系は女子率が高くてですね、けっこうな事件に遭わされました。
①私服が丸かぶりして、笑い合っているが精神世界ではすさまじい争いが起きていた!
→僕は馬鹿真面目な人間ですので、体操服しか持ってきていませんでした。女性陣は、お泊まりだから、と気合いを入れてきて土日練習よりおしゃれな私服を着ていました。行きのバス待ちで、僕と同パートの女子二人が、恐ろしいくらい笑顔で向かい合っていたのです。全身同じ服装であることに「あはは、偶然!」「あはは、私達仲良しだね」など甘ったるい言葉を交わしていたのですが、目がどちらも笑っていませんでした(実話です)。体型も一緒なら、もう少し平和だったのかもしれません。ぽっちゃりさんとスリムさんだったから、龍と虎が見えたのでしょうか。
②明らかに「出そう」な間で、集団ヒステリー!
→仮に「B里の間」としましょうか。旅館の構造上、変に付け足したようなお部屋が、木管・打楽器パート女子に割り当てられていました。他の部屋と比べて、粗末な造りといいますか、急ぎで組み立てたといいますか、霊感皆無の僕でさえ「怪しい、何かいそう」と思うほど、空気が違っていました。部屋で写真を撮ったら、部員の後ろに誰も立っていないのに指が……、霊感のある別の部員がそこで荷物を整理したら、足をつかまれた感覚がして過呼吸になり、中にいた人達が次々と騒ぎ、泣き出しました。あまりにも怖かったとのことで、夜は女子部員全員、金管パート女子の部屋にてすし詰め状態で寝ました。狭かったでしょうに。僕の隣、空いていましたよ? いけませんね。
③合奏中に寝る人が続出して、意義の無い合宿に!
→小見出しの通りです。これが一番恐ろしかったかもしれません。ホールに睡眠電波が飛んでいるのではないかと疑うほどです。朝も、夕方も、生き残った人はわずか。目の下に虫さされ薬を塗って耐え抜こうとした者もいましたが、撃沈していましたね。僕は……大きい楽器を抱き枕にして、いませんよ? 決してコーチに対して無礼など……ZZZ
金賞ゴールド(次大会進出の方)目指している、全国の吹奏楽部の皆様、今年もお疲れ様です。