表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/3

第二楽章 kazamiko model

 好きな人の見ている世界を、のぞけたら?

 恋を諦める?



(きゃあああああああ!! リン様あああああああ!!)

 俺の頭に、鶏よりも甲高い声が駆けてゆく。風見子(かざみこ)によく似ている。

「キヨちゃん、は、や、く! タ、オ、ル!」

 目を三角にしたリンに、正座してお求めの物を捧げた。

(わたくしは、リン様に早く嫁ぎとうございます!!)

 うそーん。風見子だったのか。眼鏡をかけてから、変になったのだ。背徳の眼鏡が、偽の風見子を作り出しているに違いない、外せ!

「え、それミコちゃんのじゃない。うーわ、キモい」

 なぜか外れない。眼鏡が俺を離れることを抵抗しているかのようだ。

「リン、手伝ってくれ。力いっぱい、引っ張ってほしい」

「は!? 壊れちゃうでしょう!」

 仕方ない、聞きたくない声から解放できるのならば!

(わたくしの王子様! あなたとお近づきになりとうて、夕食を吐くほど勉強してまいりました)

 なんだって。俺を追いかけて、ではなかったのか。

「ちょっとー、全然抜けないじゃない!」

(去年の文化祭、母様(かあさま)に付き添って演奏を聞いておりました。正直なところ、(あに)……いいえ、ミニ豚メガネに興味はなかったのですが、豚の隣でトランペットを吹いている王子様に一目惚れしたのです! また『ディスコ・キッド』でしたっけ、イントロ後の掛け声「ディスコ!」がハンサムで、さらに、指揮棒も振られて……!! まるで音楽の女神が化身したよう! 風見子、運命の出会いです!)

 うそーん……ミニ豚メガネ……。

(わたくし、母様がそちら側にいってしまわれたのに、がっかりしています。どうして父様(とうさま)と別れて、パンチパーマ破戒僧と一緒になったのですか。男性は汚らわしい豚です。母様にわたくしを身ごもらせて別の人に走った、実父が典型例です。わたくしにとって、母様と父様はどちらも女性なのです。わたくしの旦那様になる人も、もちろん女性でなければなりません。リン様、あと二年しましたら、あなたのお嫁さんになります。キャ♡)

 メキメキ、ぴしりぴしり、眼鏡じゃないものが折れて、砕けていく。親父よ、養女にかなり嫌われているぞ。

「よし、外れたわ!」

 妹の大事な物は、()()()によって無傷で外れたとさ。めでたし……いや、めでたくない。

「キヨちゃん、ハイ、あんたの」

 リンにシルバーフレームの四角眼鏡を渡され、おとなしくかけた。

「どうしたの? この世の終わりみたいな顔して」

「……どうもしない」

 赤い眼鏡とシルバー眼鏡が近づいていても、避ける気は起きなかった。この際、間接メガネになってくれたら救済されるのではないかと、莫迦げた思考になる。

「さっきのは黙っててあげるから、立ちなさいよ」


 イギリスの哲学者、アイ=スペクタクルスは言った。


   "壊れた眼鏡は買い替えられるが、

   壊れたハートは買い替えられない"



 レンズを通した快晴の空が、青さを失っていった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ