7.家族代わり
食卓の場は騒然と……と言うより、混沌とした。
フランチェスカはひたすらに私、及びヒーローについて語る語る。
どうやら普通にヒーローオタクのようなものでも有るらしい。
……あれだけ知識が有るんなら、将来はヒーロー支援系の職業につけるよなぁ……跡取りとかは有るだろうけどさ。
ヒーローの仕事は、ヒーローのみで成り立っている訳ではない。
彼らが普段使う道具などは、ある特殊なヒーローを支える特殊団体によって製造されているらしい。
間接的にでも、ヒーローを支えたいという人は数多くいる。
ましてや自分たちの作った道具がヒーローに使われ、彼らから直接感謝されるのだ。
毎回不定期に開催される採用試験には、三次選抜まであると言うのにかなりの人数が志願しているらしい。
私もよくお世話になっているその人達には、私はまだ会ったことはない。
……いつか挨拶しに行かないとな……。
綺羅びやかさもあれば、何処か親しみやすさもある美味しい食事が終わり、会話の時間となる。
フランチェスカの大袈裟な賛美とそれに相槌をうち、時々こちらにも話を振ってくれるヘッセン伯爵夫妻。
温かい団らんは久しぶりだな、とふと思った。
私は一人暮らしだ。
両親は二人とも外国で働いており、もう2年程は会っていないと思う。
何時も会話は電話越しで、顔を見ることすら叶わない。
少し前までは激しい寂しさに襲われる事もあったが、丁度両親が外国にまた行ってしまった時に、丁度私はヒーローになった為、忙しさや仲間が居ることもあって、今はそれほどでもない。
……あー、人が居る食卓ってこんなに良かったかなぁ。懐かしいな………
遠くの記憶に思いを馳せる。
両親と祖母の家で、母の手料理を食べながら、美味しいと笑い会った思い出。
お母さんは私に学校はどうかと尋ねる。お父さんは私に何処に出かけたいか聞く。
当時から各地を飛び回っていた両親と、その数カ月後に亡くなってしまった祖母との、皆での最後の団らんだった。
「……様、お姉様?………どうされましたか、?お食事はお口に合いませんでしたか、それとも私が何か気に触ることを……」
「ん…?……そんな事無いですよ、?いきなり何で、」
隣に座るフランチェスカは、暫く視線を彷徨わせたあと、躊躇いがちに私の頬に触れた。
「お姉様……少し前から、泣いていらして……大丈夫かと思ったのです。私、お姉様を気遣えて居なくて済みません……」
「……泣いてた、?」
全く気が付かなかった。
自覚すると、途端に頬に熱が上がってくる。
……恥ずかしい。私、ヒーローとして此処に来てるのに……ちょっと家族が恋しくなったからって、こんな……
私が俯いていると、ヘッセン伯爵夫人……確か紹介された時はルイーゼさん、だと言っていた人が、静かに立ち上がって私の元へとゆっくりと歩いてきた。
ルイーゼさんは、見た目はおっとりとしていて美しい感じなのに、話してみると芯のある強い女性だということが分かる人だ。
彼女の、フランチェスカと同じ色の瞳が私を映した。
「サヤベルさん……いえ、サヤさん。……遠く離れた異国まで来て下さりありがとうございます。ヘッセン伯爵夫人として、貴方を全力でサポートさせて頂きますわ。…………ですが、サヤさん。貴方は一人の少女でもあります。親元を離れ、故郷を離れて戦う事の寂しさ………言葉では表せない思いが沢山有ることでしょう。……私達は、私は、貴方を支える一人です。どうぞ、母だと思って接して下さいませ」
「ルイーゼ、さん……」
「もちろん私も!サヤお姉様を愛する気持ちはお母様に負けておりませんわ!!」
「こらこら、フランチェスカ。……あぁ、勿論私、ロナルトの事も、父親代わりだと思って甘えて下され。ヒーローを支えるには力不足の我々でも、一人の少女の家族代わりになるのでしたら何とかこなせます故」
私は言葉に詰まった。
嬉しさが溢れてつっかえそうだ。感謝を伝えたいのに、出てくるのは嗚咽と涙だけだった。
ルイーゼさんが、優しく私の身体に手を回して、背中を赤子をあやすように優しく叩いてくれた。
私が泣き止むまで、誰も何も言わなかった。