6.新しい家族
「お姉様、今回の作戦において、お姉様がスメット家としてセレスティアル学園に転入する……という事は、ご存知ですわよね?」
「そ、それは勿論……というか、フランチェスカさんは何で知って、」
そこまで言って、私の言葉は途切れた。よくよく考えれば当たり前だったが………今更ながら確認する。
「ふっ……フランチェスカ…さん、?………協力者って、事は、……私の正体、知ってるんですよね?」
「ええ、勿論!逆にサヤお姉様……〈魔法少女〉様の事はよく存じ上げておりますわ」
……まさかの把握済み。……よ、よく考えたらそんなに意外じゃない、のか………普通に説明するだろうしなあ。………って事は、イアンさんかヒューが勝手に漏らしたって事になるよね……?
全く私に配慮する気がない二人に心の中で溜息を付きつつ、フランチェスカさんと会話する。
「な、成程、……ええと、フランチェスカさんは私より年下、なんですかね」
「そうですね、一つ下ですわ。あぁ、お姉様の転入を支えられる年齢で有ることを心から感謝致します、神よ……!私、悪役令嬢として、サヤベルお姉様を影より支えながらやりきって見せますわ!」
今度は神様に祈り始めた。なにこの子怖い、魔物と初めて戦ったときより怖い。
フランチェスカと会話がまともに成立しない……というよりは、脱線しまくる。主に私への賛美によって。
……ひぇぇぇぇ、もう良いよ!そんなに凄いことなんてなんにもしてないから〜!
「……あ、あのぉ……、それで、この後は、」
「…まぁ、私としたことが、客人と応接間で話し込んでしまって。すみません、サヤベルお姉様…、すぐに部屋に連れさせましょう………大丈夫ですよ、後の事は。侍従達が言うとおりにすれば良いのです。今日はもう、お夕食を食べて寝るだけですわ」
「……お、お夕食……ご飯?…ですか、」
「ふふ、まあ、サヤベルお姉様!急に元気になられて」
「え、………やっぱり分かりやすい…、?かな、」
私は自分の頬をむにむにと摘まむ。勿論夢では無かった。
少し力が籠もった口角を頑張って下げようとするが、指でどれだけ動かそうとしても表情筋は嬉しそうな笑みを形作ってしまう。
「で、でも、嬉しいのはご飯だけじゃないので!フランチェスカさんとお話出来たのも嬉しいです……!」
「まぁ!…………お姉様は本当に、私の欲しい言葉を下さるのね」
「?」
「なんでもありませんわ、さぁ、行きましょうお姉様」
フランチェスカが、こちらに手を差し出して来た。
恐る恐る握ると、ぎゅっと握り返される。
フランチェスカの白い、レースの手袋越しに伝わる温度が、私の緊張した心を少し溶かした。
……久しぶりに、誰かと手を繋いだなぁ………あったかいや、
私は小さく微笑んだ。
フランチェスカも幸せそうに笑っていた。