5.第一声が高笑い
「サヤ、そろそろ行かないと間に合わないよ〜?」
「ちょっ、ちょっと待って……本当にスマホ持ってっちゃ駄目?」
「持っていっても使えないよ、電波が違うんだから……」
「その辺はどうにか……」
「なりません。未練がましいぞぉ〜、全く…」
私は渋々とスマホの電源を切り、机の上に置く。
ヒュー曰く、一週間に1回ぐらいは戻れる時間は有るとの事。
ただしヒューが居ないと(ワープ出来ないので)戻れない上に、バレないように慎重にしなければならない。
……はぁ、まあしょうが無いよね……海外旅行もそんなもんでしょ、多分。
こればかりは諦めるしか無いようだ。私は持っていく最低限の物を詰めたトランクを持つ。部屋を見渡して、最後の確認をした後、心の中で別れを告げた。
◆
ヒューが再び作り出した裂け目をくぐり抜け、目を瞑っていると、周りの状態が変わったのを感じ、同時に声が聞こえて来た。
「おーっほっほっほ!やっと来たわね、このスメット家の恥さらしが!!」
ゆっくりと目を開けると、ツインテールの髪を美しく巻いた少女が、扇子を口元に当てつつ漫画のような高笑いをしていた。
部屋は応接室のようで、高そうな絵画や壺が飾られている部屋の中心にソファと机が置いてある。
少女の言っている事の意味が一瞬分からずに首を傾げて、「ああ、自分に言っているのか」と遅れて理解した。
……いきなり罵倒!?
「……ふう、どうでしょう?この高笑い!サヤお姉様、採点をお願い致します!」
「おっ……お姉様!?!?」
私はトランクを取り落とした。
何を言い出すんだこの美少女、もう訳が分からない。
ヒューは「うわ」と言ってすいー、と何処かに飛んでいってしまった。こんの裏切り猫め……
いよいよ一人だ、もう仲間は居ない。
「お姉様、まずはお座り下さい!このお茶は私が淹れましたのよ、それにお茶請けのお菓子も作ったんですから!あぁ、こんなに可憐で可愛らしいお姉様が出来るなんて……!このフランチェスカ、誠心誠意サヤお姉様に尽くしてみせますからね!!」
半分ぐらい何を言っているか理解出来なかった。
一体いつお姉様になったっけ?あれ?尽くすって何?と目を回していると、フランチェスカと言うらしい少女がハッと姿勢を正し、美しい淑女の礼をする。
「失礼しました、取り乱しましたわ。………サヤお姉様、ヘッセン伯爵令嬢、フランチェスカ・ルイセ・スメットと申します。以後お見知りおきを、」
「フランチェスカ……さん、…………ええと、輪堂さや………サヤベル・スメット、です、宜しくお願いします」
そうして、気恥ずかしさを感じながらちょっと笑うと、フランチェスカは扇子をバッと広げて顔を覆ってしまった。
「お姉様………尊すぎますの……」
……大丈夫かなこの子……、
「あの、……さっきの高笑い?と言葉は、」
「あ、すいません……誤解させてしまうものでしたわね。………あれはですね、」
フランチェスカは勿体ぶるように口を止めて、息を吸って言った。
「……悪役令嬢の演技ですの!!!!」
……どうしよう、説明してくれてる筈なのに分からない。
私は本気で途方に暮れた。