表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
働け、魔法少女!  作者: 螺子
第一章「宝石王子と魔法少女」編
26/26

23.未知の遊びと未知の人

私が必死に言い訳を述べている間に考えていたのか、殿下はにこりと笑うと面白がるように話し始めた。


「それなら話が早いじゃないか。将棋や囲碁も盤上遊戯(ボードゲーム)なのだろう?異文化交流、別の国の物だと言うだけで興味は引くだろう」

「………そ、そうでしょうか」

「ああ。スメット嬢、君は将棋と囲碁、どちらが得意だい?」

「……と、得意…………?」


将棋を少しかじったことがある程度で、どちらも大して上手くない私は途方に暮れた。

囲碁に至ってはルールも曖昧だ。白い石と黒い石が有るのは覚えているがそれだけ。得意どころかパズルゲームは軒並み苦手である。


「……………あ、あんまりどっちも得意じゃない、かも、です………」

「そうかい、いいや、問題ない。道具は経費で、当日までには用意出来ると思うよ。ニイル、教えてやってくれるかい?」

「勿論です殿下!!」

「有り難う、……さて、これでどうかな?歓迎会はもう近い。君も編入とは言え、新しく入ったことに代わりはない。だから、空き時間にでも自分の好きなクラブを探してみてはどうかな?セレスティアル学園での君の日々が、君にとっても楽しいものになりますように。私はこれから用事がある、済まないが失礼するよ。君の役に立てたのならば幸いだ」


殿下はそう言うと優しく笑って、手を軽く振っては生徒会室から去っていった。

曖昧に笑って手を振り返しつつ見送っていると、ニイル先輩に睨まれた。


「……スメット、此処は私的な場だからそう長くは言わないが、殿下が去る時は腰を折り頭を下げるのが本来は正しい礼儀だ」

「そ、そうなんですか?思わず手振っちゃいましたけど、」

「それが悪い訳ではない。事実、殿下はこの学園では常々、此処では身分による差など無く、公平に学ぶ舎であるべきだと話している……だが、社会に出た時、王族で有らせられるかの方に礼節を弁えられないようでは困るのもまた事実だ。だから、公の場では切り替えられるようにしろ」

「確かに……はいっ、了解です!」


敬礼のポーズをしてみたところ、今度は呆れたような表情で見られた。今気が付いたことだが、ニイル先輩はクールなように見えて結構表情が分かりやすく出る。


……変人王子様とは大違いだね。殿下はいつも穏やかに笑ってるけど、日本人的意識としては何考えてるか分からなくてちょっとだけ怖いよ。でもすごく優しいことしかしてないよね、今現在は……


何となくそんな事を思いつつ、一つだけ気になった私はニイル先輩に質問した。


「あのぉ~……さっきまで嬢、が付いてたのに、今は名字呼び捨てなんですね」

「……………」


ニイル先輩は顔をしかめて頭を抱えた。

本当にコロコロと表情が変わる人のようだ。

そんなに思い悩むような事を言ったつもりでは無かった私は慌てる。


「あっその、気にしてはないって言うか気付いたから言ってみただけと言うか……ど、どっちでも大丈夫ですよ?」

「………そうか……いや、殿下の手前、呼び捨てにしづらいかと思っただけだ。どう呼べば良い?」

「えぇ……うーん、何でも良いんですけど。スメット、だと二人いるしサヤ…ベルで良いんじゃないですか?」

「………………良いのか?名前で呼んでも……」


ニイル先輩がどうにも歯切れの悪い返事を返す。


「問題無いですよ?」

「それなら良いんだが………いや、お前と同じ年頃のいもう………ごほん、知り合いが、名前で馴れ馴れしく呼ぶなと言ってきた事が有ってだな。それで少し考えてしまっただけだ、気にするな!」

「えっ、ニイル先輩妹さん居るんですか!?」

「おい、何故折角ぼかした部分をわざわざ言うのだ!?!?」

「あっすいません、つい」


……ごめんなさい先輩、確かにお兄ちゃん肌?って言うのかな、面倒見がいいから兄弟か何か居るのかなって思ってはいたけど、まさか反抗期真っ盛りの妹さんが居るなんて面白……ゲフンゲフン不思議だったんです。


私がニマニマ笑っているのと対照的に、ニイル先輩はますます顔が険しくなっていく。どちらかと言えば少し気を落としたような、いつも胸を張っているニイル先輩に珍しい雰囲気だ。


「………ハァ…、…………私から妹の情報を聞き出せると思わない方がいい。知りたいのなら自分で聞け、直接に」

「えっと……、? 会わせてくれる、んですか?」

「いや、偶然会う可能性があると言うだけだ」


私は更にはてなまーくをいっぱいに浮かべた。ニイル先輩の何度目かのため息が聞こえる。


「…………メルセデス·ルアン·ユリティス、セレスティアル学園二年生……確かAクラスだ」

「Aクラス……ってあれ?……クラスメイト………………??」

「………、何だと?」

「えっと……………、……私もAクラスです」

「…………………………」


気まずい沈黙が流れる。


……わかるよニイル先輩、もし会ったらちょっとやりにくいよね! 学校の姿じゃないプライベートとかバラされて恥ずかしくなるやつだよね!!


私が心の中でうんうんと共感を示している間にも沈黙は続き、それを破ったのも矢張ニイル先輩だ。

本日特大のため息を付いては頭を抱えてしまった。そんなに深刻な問題なのだろうか。

私が大丈夫かと顔をちらっと見やった瞬間、ニイル先輩はガッと私の肩を掴んで必死の形相で言ってきた。


「いいかサヤベルッ、絶対に私の情報を彼女に易々と渡してはならんし相手の口から出た私の評価も間に受けるなっ!!いいか、良いな?嗚呼私も情けないとは思うが、頼む、本ッ当に…………!!!」


思わず仰け反る私である。勢いと必死さがすごい。

……そんなに恥ずかしいのかぁ、そっかそっか。ニイル先輩も男子高校生って事だね。

にやにや笑いがさらに加速してしまいそうだ。ここはどーんと彼を安心させるようなことを言った方が良いかもしれない、妹さんと私、ニイル先輩のために。

私はぽんぽん、と自分の胸を叩いた。


「ふっふっふ、分かってますよ!大丈夫です、ちゃーんと情報の真否は確かめますって!誤解されるのは沽券に関わりますもんね」

「………そうだが、そうではないんだ……………嗚呼、会えば解る。出来れば余り出会わない事をお勧めするが……」


もういい、とでも言いたげに頭を振ったニイル先輩があまりにも疲れて見えて、私は疑問符を浮かべる。


「妹さんにそんなこと言って良いんです?どう聞いても避けてるじゃないですか」

「……………うむ、いや、あぁ………そうかもしれない。…………はぁ、何れ話す。兎に角今は関係ない、私から聞き出すのは無駄と言ったろうが」

「……分かりました」


不完全燃焼である。

ぷすっ、と思わず頬を膨らませた。


……これはなんとか妹さんに自然に会って話したいね。共通の話題であるニイル先輩のことだったら多少は話しやすいかな?


メルセデス、と言ったか、同じクラスであるし、何かの拍子に誰か分かる可能性は高い。

未だに先日、ニイル先輩に連行される前に声を掛けてくれた子ともほとんど喋っておらず、クラスメイトと仲良く……だなんて夢のまた夢な私は、新たな出会いに少しだけ胸を膨らませた。





その後は、昼休みが終わり授業に出た後の放課後、やたら疲れた様子のニイル先輩と生徒会室のパソコンを使いつつ、当日使うものを………主に碁盤や碁石、駒などをネットショッピングで購入した。検索して並べられたその碁盤の値段には、二人して驚いたりもした。


……結構高いんだなって……経費で落ちてよかったね。ニイル先輩なんて「卵何パック分だ……?」って呟いてたし。時々思うけどさ、殿下もニイル先輩も案外………庶民的な感覚が分かるんだなって……


ザ・産まれも育ちも庶民の一般ピープルな私にとっては、ありがたい限りである。

その日は買う品を吟味するのに、あっという間に時間が過ぎていった。

久し振りにちかちかする画面を見続けた私は、寮に戻った後疲れ果てて、直ぐに寝てしまった。

だから気が付かなかったのだ。


私の部屋のある屋根裏部屋から見下ろせる、セレスティアル学園を囲む茂みと高い塀。

その本来出られない筈の場所を、フードで顔を隠した誰かがするりと抜けて出ていくのを。







男は夜の喧騒の中を歩く。

体を布で覆った彼の事を、道行く人々は気にも留めない。

視線の合間を縫うように、静かに進んでいた男は、ある路地に入り右へ曲がった。

そして其処から更に左へ、右へ、右へ、と、どんどん入り組んでいく路地裏を迷い無く進んでいく。

ようやっとたどり着いたのは古ぼけたバーである。何処か浮世離れしたその店のドアを迷い無く開け、男は入っていった。


日の落ちた宵の店内は、多数のランプで照らされている。

見るものが見れば興奮して写真を撮るだろうが、男は見渡しもせず店の奥まで進んでいき、漸く声を出した。


「…………マダム、居る?」

「久し振りだね、坊主。何だい?今日も作ってくのかい、それともようやくウチで酒を飲む気になった?」

「当分、此処では飲めないと思うよ、……今日来たのは別件でね。前に東洋の遊びをやってたろう?」


フードを払った男は、黒い髪を払いつつ一人掛けソファに座る。

バーの女主人は興味深そうに問い返した。


「ほぉん、あれが気になるなんて珍しいじゃないか。あんたの事だ、大層な理由でもあんだろうけどねぇ」

「からかうのは止してくれよ、マダム。ただ……興味が湧いた、それだけだ」

「相変わらずだねぇ。どうせ何も言ってないんだろう?で、何をしたいんだい」

「………囲碁と、将棋を。ルールは知っている、一時間此処で貸してくれ」

「あいよ、全くな坊主だねぇ。詰碁とかの本は此処に置いとくよ」

「…有り難う、………」


置かれた本を一冊手に取って、ページをめくる青年。

その端正な横顔を見ながら、女主人は小さく、彼に聞こえない程の溜め息をついた。



「…………ったく、本当に融通の聞かない坊主だよ、あんたは」



夜は更けていく。

お久し振りです。

またもや前回の投稿から間が空いてしまって………申し訳ない…………

今年は忙しい年になりそうなので、更に投稿頻度は落ちると思います。

気長にお付き合い下さると幸いです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ