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働け、魔法少女!  作者: 螺子
第一章「宝石王子と魔法少女」編
23/26

21.やっぱり変な人だった

「たのもー!!……んんっ、失礼します」


次の日の昼休み、私は生徒会室に駆け込んだ。

ついついお行儀悪く扉を開けてしまって、慌てて姿勢を伸ばして声のボリュームを下げ、ぺこりと頭を下げる。


「………全く貴様は、今回は直ぐに正せたから不問にしてやるが………」

「元気だね、スメット嬢。何か此処に用かな?それとも私達に用事があるのだろうか」


生徒会室内には、書類を整理しているニイル先輩と、奥の棚を眺めている殿下がいた。


「……く、来るの早いですね、こんにちは。殿下、ニイル先輩」

「三年生の教室が此処から近いだけであろう」


ニイル先輩は紙の束をぽん、と机に置くと、私に座るように促した。


「昼の食事は取ったか?」

「あ、……いいえ、まだです、その……食堂で、後で何か買えば良いだろうと思って………先輩たちも忙しいだろうし、…忙しいだろうと思ったんです」

「性急すぎるのは珠に傷だが、矢張お前は飲み込みが速いな。言葉使いも矯正されてきているようで何より」


ニイル先輩は少し笑って、棚からポットを取り出しつつ言った。


……えへへ、褒めてくれたよ、やったね。これでも結構頑張って気を付けてるもん、


「今日の紅茶は…彼女に合わせて、アッサムのCTCが良いだろう。ミルクも添えてね」

「了解しました」

「有り難う、副会長。………気になるかい、スメット嬢?」

「ふぇ、…………は、はい」


殿下が言った紅茶の名前らしき呪文に呆気に取られた上に、当たり前のようにニイル先輩が紅茶を入れられるのに驚いたのだ。


……貴族って、自分で紅茶も入れられるんだ。メイドさんとかにやらせると思ってたよ……


「さて、昼食を取ろうか。君の口に合うといいけれど、具は確かスモークサーモンとトレビスだったよ」


そう言って、殿下はどこからか紙袋を取り出す。

一つづつ取り出してめいめいに手渡したのは、油紙に包まれた物体。微かに香ばしい匂いと、ソースのような………


「あ、ぇ、ええと、これ……」

「どうぞ、召し上がれ」

「……殿下はお前が来ることを事前に予期して、スメットが何も食べずに昼を過ごしてはいけないからと用意をして下さったのだ。その御心遣いに感謝するように」

「おや、副会長?そんなことを言ってしまっては彼女が恐縮してしまうかもしれないよ。私はただ、念のため一つ余分に買っておいただけだ……うさぎさんが腹を空かせて悲しそうなのは見たくない」

「……殿下って預言者か何かですか………??」


余りにも準備が良すぎて呆然としてしまう。

確かに少し……いや、急ききって来たせいでかなり、空腹ではあるが。

殿下の用意周到さに目を丸くしていると、タイミングよくきゅる、と腹が鳴った。

慌ててそこを押さえる。


「あぅ、あーー、ちが、違うんです!!本当にその」

「ふふ、流石にかの〈預言者キプカマヨク〉のようなものではないけどね、ただの推測だよ……ああ、遠慮はしないでいい。私も食事を取らないと、落ち着いて話も出来ないだろう?」

「……紅茶が冷める。折角淹れたのだから最適な温度で飲んでほしい」

「は、はい……、…いただきます」


触ると少しひんやりしているそれを取り出し、少し眺める。

緑の瑞々しい色をしたサニーレタスとつややかなスライストマト、そして間に見えるのはサーモンピンクと白い筋がくっきりとした何かしらの野菜。これがトレビスだろうか。


……あーー、美味しそうすぎて食レポになっちゃう。早く食べないとなのに、


此処が日本であれば、スマホを取り出して写真を撮り、SNSにでも投稿している所である。

生憎そのスマホは、遠く離れた故郷の私の部屋で埃を被っているのだが……

私は、出来るだけお淑やかに__________モデルイメージは先日出来たばかりのヒーローの友人________心掛けつつ、バケットサンドにかじりついた。


「ん、………んー、!………………、」

「こら、口に物を含んでいる時は騒ぐのではない!」

「んん………、……………すごい美味しいですっ!!紅茶も、飲んだ事あるのと全然違う……!」

「ふふっ、そうか。お気に召したようで何よりだ、余分に買ってきていてよかったよ。ニイルの腕は確かだからね」

「で、殿下……お褒めに預かり至極光栄でございます…!!」


舌触りのよい野菜は新鮮なのだろう、味付けはシンプルだが薄味とは感じない。

素材の味を最大限生かしたような、だが素朴ではなく高級感のある……これが貴族の食事か、と改めて認識する。


……そういや、スメット家で食べたご飯も野菜が美味しかったなあ。確かノイエンアールって農業も盛んだったよね、


産地直送の味がする。北海道民である私をも唸らせるノイエンアール恐るべし。

私が笑顔で食べ進めていると、ふと食事の手を止めた殿下が私を見ているのに気がついた。

口の中のものをを紅茶で押し込んでから問いかける。


「…………ええと、殿下…私、何かお行儀悪かったですか?何かついてるとか」

「ああ、……………餌やりは成る程見ていて微笑ましいものだと思ってね。いや失礼、他意はないんだ」

「は………??…そ、そうですか」


真顔で言われても反応に困るのである。


……そういえばこの人、初対面の相手を動物に例える変人だった。私、ペットじゃないんだけど??


ニイル先輩が何を言うべきか分からないような顔で殿下を見ていることから察するにも、普通に普通ではないようだ。

私はもう気にしないことにした。

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