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働け、魔法少女!  作者: 螺子
第一章「宝石王子と魔法少女」編
2/26

1.これが私の(普通の)生活です

窓から覗く新緑の色。


教室に響く教師の声。



………駄目だ……眠い。ねむ……ねたい………寝ちゃおうかな…………



私は、退屈な授業の暇つぶしに窓の外をぼんやり眺めていた。


ゆるゆると目が閉じそうになるがなんとか堪える。流石に寝るのは不味い………

あぁでも駄目だ眠い。昨日夜更しするんじゃなかった、つい友達と話し込んでしまうのだ夜のテンションは……



飛行機が空に細くたなびく雲を描いている。

真っ青で雲ひとつないキャンパスに、線が痕を残して白で彩る。

4限目、あと10分耐えればお昼時。

そんな時に容赦なく日差しは、私の脳を溶かしていく。



……こんな日は…………飛びたい……空でお弁当だよ……



ゴンっ。


「いだァ!?」


いた、痛い、痛いッ!!!

居眠りをしていたら、窓ガラスにおでこを思い切りぶつけた。



そこそこ大きい音が響いたようで、教室中の視線が私に降り注がれる。いたたまれない。


「……輪堂〜、寝るなよ〜……ほーいじゃあ教科書139ページを開いて………」



先生がそっと私に注意する。もっといたたまれない、というか名前呼ばないで寝たって言わないで事実だけど。



……事実だけど、恥ずかしいモンは恥ずかしいんだぁぁぁあ!!!!!!


私は心の中で、頭を抱えて絶叫した。



先生にはちらちらと様子を伺われ、クラスメイトには薄く嘲笑される地獄の10分間がやっと終わった。



談笑している女子たちやじゃれている男子達を無視して、私はカバンから昼食の入ったバッグを持って教室を出る。


……あ〜、課題どっさり出されたなぁ………ぬぅ………、いいや、後で考えよ。……今日は空いてるかな?




私は、昇降口を出て、学校食堂や自動販売機に流れていく人たちに逆流して、ある場所へ向かう。

生け垣の隙間に身を滑らせて、ブロック塀と校舎、部活動塔の脇をするりと抜けて。



少し歩くと、学校の敷地内の林に、ぽっかりと光の射す場所が見えてきた。


……よし、誰もいない!


辺りが少し暗い分、綺麗に開放されたその空間はいっそ神秘的で。

私のお気に入りの場所である。名前を付けようとしているが、ネーミングセンスが壊滅的な私に素敵ネーミングを思い付けというのはいささか無理がある。


よって名前は無い、”綺麗な林”とだけ呼んでいるこの場所で、私は昼食をとる事にした。



二つ置いてあるベンチの右側に腰を下ろして、バッグの中身を広げる。

……うん、今日は作るやる気が無かったからね……、しょうがないしょうがない。



今日は登校途中で買ったパン二つとサラダである。少なめでは有るが健康と体重の為には致し方なし。



私は早速いただきますをして食べ始めた。




「……ふぅ、美味しかった、」


ごちそうさまでした、と手を合わせて完食。



しいんとした間を、空を見上げて埋めていく。本当に気持ちがいい天気だ。


……懐かしいなぁ、ヒーローに勧誘されたのここだったよね。もう一年前になるのか…



思い出に浸りつつ、「まぁ誰も来いとは言ってなかったけど、」と呟く。

今日のような快晴は、出動もなく平穏に、部活を終わらせて課題をして眠るのが良いと心底思う。


……無事に今日が終わりますように。


心の中で手を合わせてみる。神様、どうかこのささやか?な願いを叶えて……




「さーーーーやーーーーー!!!!」

「一瞬でフラグ回収すなぁぁぁぁぁああ!!!!!!」

「ヒェッ」


おっと、思わず大絶叫してしまった。


……いやそんな軽いもんじゃ無いよね。聞こえていませんように聞こえていませんように…


かなりのスピードで、ヒューがこちらへ突っ込んで来て、眼前で急停止する。


「いや違う、フラグ回収とか知らないし。サヤ、緊急事態だよ!」

「ヒューの緊急事態は大抵大したことないのよね、……まぁ聞くけど」



先程大声で私の名前を呼びやがった、今はブンブンと飛び回っている羽の生えた子猫をとっ捕まえる。



「痛い!動物虐待反対!」

「あんたそもそも動物なの?」

「うるへーー!!!」

「いいから本題入って、」



私はじと、とヒューを睨んで催促する。

子猫はきゃー怖い、などと安っぽい言葉を口にしながら暴れるのをやめて口を開いた。



「わかったわかった……、あのね、サヤに依頼が来たの!この乱暴粗忽脳筋娘に依頼だよ!!??やばくない?頼んだ人頭おかしいし人選終わってるよねいだぁ!?!?」



私は取り敢えず、口の減らないヒューの柔らかいお腹をつねった。


「いだいごめんなざい…………うぅ、…えっとねぇ、何処まで話したっけ?」


「…私に個人依頼が来たってとこでしょ、初めての」


ヒューは、猫の手で器用に手をぽん、と叩く。



「あっそうだったそうだった。ええとね、詳細言うから覚えててよ?

………ええと、確か、依頼者は……ノイエンアール王国?の王族………王族夫妻だって。え、王族!?凄いやつじゃん……あ、そこまで大きい国じゃないのかノイエンアール……」




ヒューは時々自分の意見を入れながら依頼内容を言った。

分かりにくかったのでまとめると、



いち、依頼主は外国の人。

に、依頼は「王族の一人である第二王子を気づかれないように護衛して欲しい」というものである。

さん、その王族はとある学園に通っているので、そこに入れる年齢のヒーローが必要。



「成程それで私かぁ…………、ってちょっと待て。何勝手に転校させようとしてんの」

「転校させようとしてるのは俺じゃない。休学するしか無いだろうね」


「うわぁマジかあ………、いくら任務だからって外国の学校に通うなんて………」


私は頭を抱えた。

流石に予想外すぎる、初めての指定任務だからって浮かれてはいられない。



……しかも、王族。王族からの直々の依頼………どうしようバレたら……ひ、ヒーローをクビになる?



そこまで考えてハッとした。

そう、ある可能性を思いついたのだ。


これ、わざと身分を明かして、第二王子から連絡してもらえれば…………



「合法的に……ヒーローを辞められる!!!私天才!!!???」

「使い魔の前で大声でヒーロー離職願望叫ばないでくれる?」


ヒューの猫パンチが、私の鼻っ面に飛んできた。

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