17.そうだ、宇宙に行こう
「そ・れ・で、すごすご帰ってきたと。……………え、どうするよ?」
「私が聞きたいわよぉぉぉぉお…………、……どうすれば良いの?」
「知るかっ、自分で持ってきた仕事は自分で片付けてよ!っていうか俺も分かんねぇし」
呆然としつつ寮に戻った私は、屋根裏部屋のベットの上でヒューと作戦会議を広げていた。
議題は勿論、先の歓迎会についてである。
部屋に入るなり絶叫した私に、ヒューが驚いて窓辺から落ち、その拍子に小指を窓際の出っ張りに打ち付けたというクレームを頂いた。子猫のくせに器用なところをぶつけるものだ。
「うーん、そうよね……………ううぅ、うぅぅぅうぅ」
「歓迎会ねぇ………出し物ねぇ、ものを売る系は間に合わないし一発芸とか?」
「嘘、それ私がやるの?一生黒歴史よそんなことしたら」
「何も思い浮かばないんじゃそういうのしか出来ないでしょ。最終手段だね」
「あ〜〜………絶対回避しないとだわ、…………………って言っても何も思いつかないわよ!」
私はうがーっ、と頭を抱えて咆哮する。あまりにもいきなり突きつけられた無理難題に頭がパンクしそうだ。誰かに協力を頼めればまだ良いのだろうが、生憎今近くにいるのは羽の生えた白猫一匹。非力である。
「協力、助け、協力……………あ、」
「えっ何、なにか良いの思いついた?」
「ううん全く。だから、宇宙に行こう」
一拍、間が空いた。
「……………えーっと?」
「宇宙に行きましょ」
「すみませんよく分かりません」
「このポンコツSi○iが」
「ちょちょちょちょっ著作権!!!!!」
見ている人も居ないのに著作権もクソもないと思うが、そういうネタなのかもしれないと思い直した。
宇宙と言っても、宇宙空間に放り出されに行く訳ではない。頑丈さが売りのヒーローでも、呼吸が出来なければ流石に死んでしまうと思う。多分。
何故宇宙に行こう、と言ったかと言うと…………一言で言えば現実逃避だ。身も蓋もない。
……だって本当になにも思いつかないし切羽詰まってるんだもん。一回切り替えるには最適だよね、お出かけは。
宇宙空間には、私達ヒーローの組織本部……もとい、ヒーローやその弟子の為の数多くの施設が揃っている。例えるならば高級ホテルである。ホテルに武道場はないだろうが。
その場所を思い出し、気分転換に思い立ったが吉日、すぐ行こう、とそういう訳だ。
私はヒューに声を掛ける。
「ほら、さっさと開きなさいよポータルを」
「ポータル………あ、そういう事?」
「ポータル、宇宙と来て他に何処があるの?」
「それが人に頼む態度か ワレ」
「私はヒーローだから使い魔を使役するのは当然なんです〜!………お願いヒュー、」
偉そうな事をついつい言ってしまうが、やっぱり少し後ろめたくなり後から懇願を付け足してしまった。
ヒューはやれやれ、と子猫の体で器用に肩を竦めてから、前足を振る。
「全くサヤは俺が居ないとまともにヒーロー活動すら出来ないって言うのにねぇ。ヒーローが使い魔を使役するんじゃないんだよ?使い魔がヒーローを導いてるんだよ?」
呆れたように、私に言い聞かせるヒューだが、尻尾がゆらゆらと上機嫌そうに揺れている所を見ると私にお願いされたのが嬉しいのかもしれない。可愛いやつめ。
子猫の白い前足が振られると、その場所から、まるで空間が裂けるように"割れる"。
何度見ても不思議なものだ、ポータルというものは………
……確か、テレポートする為の扉みたいなものだったわよね。時空の歪みを利用したなんちゃらかんちゃらって………違ったかなぁ、
どうせ詳しく説明されても理解できる気はしない、ヒーローたちが使用している技術はヒーロー自身よく分かっていない事が多いのだ。ファンタジーじみているの一言で済ませる他ない。
「開いたぞー、」
「ナイス。じゃあ行きますか、プラントへ」
奥の見えない不思議に渦巻くポータルの中へ足を進める。
踏み入れた瞬間、体が浮くような心地がして、視界が暗転した。
◆
真っ暗な視界に、瞼越しに光が差す。
静かだが密かに聞こえる何かの音、機械の音だろうか。そして宇宙にあるとは思えない清潔感漂う空気を吸い込んで、私はポータルから飛び出した。
「ていっ、………ぇわ??」
「……ッちょっと!?うわっ、」
「い………っ、たくない、?……………って誰!?」
踏み出した一歩を力みすぎたのか、立てずにふらついて前へ倒れる。身体に伝わるのは以外にも柔らかい感触で混乱した。
そして、驚いたような誰かの声に目を開けると、そこには見知らぬ少年が此方を目を丸くして見つめて来ていた。
「誰って、こっちが聞きたいんだけど?いきなり自分に向かって倒れられればそりゃ驚くさ、」
その少年は少し苛ついたように私を目を細めて見、ばささっ、と音を立てつつ立ち上がる。
どうやら、私がポータルを飛び出した丁度その前にこの子が居て、私がバランスを崩したため避けようにも避けられなかったのだろう。それにしては平気そうだし、何より思いっきり倒れた筈の私の身体には何処にも支障なんて無くて。
……ん?ばさばさ、?…………って、
「うわぁああああああああああ翼ぁ!?え、もしかしてこれあなたの!?…………、天使か何か………?」
改めてその少年の全身を見て、私は思わず仰天して叫び声を上げた。
艷やかな長い黒髪に、よく見ると二色が混ざっている不思議なつりがちの瞳。極めつけは背中に生えている大きな翼である。どう考えても人間ではないだろう、ヒーローだろうか。それにしては年齢が幼いと思うが……
「…………誰が天使だ、次言ったら強制的に黙らせるよ」
「あっゴメンナサイ!!!」
「あとあんまりじろじろ見ないで欲しいんだけど。視線が煩い」
「分かりましたっ」
その少年から慌てて顔ごと逸らす。美しい顔と声で微妙に口が悪い気がする……いきなりぶつかって来られれば苛つくのも無理はないが、それにしても。
……なんか、ちょっとヒューと似てるかも。羽生えてるしつんつんしてるし、
そんな事を心の中で思ったが、口に出してしまえばヒューにもこの子にも怒られるに違いない。私は口をきゅっと結んだ。