13.手のひらドリルとはこの事か。(現実逃避)
手錠を引かれて、お互い一言も発さずに(というより、私が喋ろうとすると睨まれて暗に黙れ、と言われた)歩いていると、男の人はそれまでずっとしかめっ面だった顔をすん、と真顔に戻して、ある部屋のドアの前で止まった。
「いいかサヤベル・スメット、これから会う御方の前で騒いだり叫んだり暴れたりしようものならば、直ちに拘束しつまみ出すからな。貴族らしいしとやかな態度を保つように」
「あ、は、はぁい……そのぉ、因みに貴女は誰さん何でしょうか……?っていうか今から何を、」
「後で教える。…………全く、何故こんな小娘を。時々あの方の考えは慮れない方向にあるのだ……」
ぶつぶつと呟きながら、赤い目の男性はドアをノックする。
「失礼します、ニイル・ユリティス、只今戻りました」
「……あぁ、ニイル、おかえり。入っていいよ」
ニイル、と名乗った白髪赤目のその人は、ギィと静かにきしんだドアを開け、私が入ったのを確認すると閉めてその返答した人の近くに控えた。
部屋の執務机に座って、にっこりと微笑んでいる金髪の男性。その笑顔と瞳に、声を聞いた時から小さな疑問を抱いていた私は完全に納得した。
……あぁ、この間の変人うっかりイケメンさんじゃない!なんだか偉そうだなあ、部屋のど真ん中で一人だけ座って。………っていうか、この人たち誰?
部屋をぐるりと見渡すと、気の弱そうな少年、怜悧な美貌を持った女性、さっきのニイルさん、金髪さんとは別種の怪しげな笑みを浮かべたチャラめの男性が、私を検分するように見ていた。
……ぁうあ、見ないでぇぇえ…………何、これから尋問されるの私??えっ??人助けしたのにそれは無いでしょうイケメンさん!
私が内心悶えていると、奥に座ったその人は立ち上がり、殊更にこりと微笑んだ。
「こんにちは、サヤベル・スメット嬢……私は生徒会長のシルヴァン・アンレ・ノイエンアールだ。宜しくね、うさぎさん?」
「あぁ、えっと、宜しくお願いしま……………、……今なんて?」
「こんにちは、という挨拶、それに、私の名前はシルヴァンだ、って言ったよ」
「………しるばん、なにさんですか?」
私が呆然として再度問いかけると、ニイルさんが我慢できない、と私に噛みつくように叫んだ。
「おいっ……貴様、さっきから聞いていれば殿下に何という口の聞き方を!殿下は二度も!!二度も言って下さったのだぞ!?」
「ニイル、誰にでも間違いはあるよ。少し聞き取れなかっただけじゃないか」
変人うっかりイケメンさんことシルヴァンさん………改め、ノイエンアール王国第二王子様は、笑顔を崩さないままニイルさんに声を掛けた。
「はっ、出過ぎた真似を致しました」
……はっや!!!手のひら返すのはっっっっや!!!!
これが鶴の一声というやつか。
私が唖然としている近くで、けらけらと笑っているのはチャラっぽい男の人。その向かいでは少年が眉を下げて困ったように、隣では美しい女の人が呆れたように目を細めていて。
皆聞いているようなのに何も言わないのは、きっとこんな光景を良く見ているからなのだろう。
そう、シルヴァンさんは生徒会長。
つまり、ニイルさんや他の人達は、生徒会ということで………
……それ以上に、変人うっかりイケメンさんは、私の護衛対象だったらしい。