9.お部屋探しは悪役令嬢におまかせ
私は転入生なので、入学式はない。
今からセレスティアル学園、その学園長に挨拶をしに行く。……フランチェスカと一緒に。
「ふ、フランチェスカ……、?フランチェスカは在校生……だよね………?」
「えぇ、そうですわよ。………ふふふっ、お姉様と何処の馬の骨かもわからない輩が、相部屋になるのを避けたいだけですわ」
「………ええと、なんで……?」
私は頭の中にはてなマークを浮かべつつ理由を聞く。すると、フランチェスカは周りの目を気にしつつ、私の耳に頭を寄せて小さな声で言った。
「……だって、お姉様の任務が誰かにバレたら大変ではありませんか……それに正体も。この国にはヒーローは居ませんが、名声は広く伝わっているんですのよ?……しかも、セレスティアル学園はフロイツハイム公爵……つまり、シルヴァン殿下の祖父様の手の内なのですから、生徒に聞かれてしまいましたらあっ、と言う間に殿下の耳に届いてしまいますわ!」
「わ、分かったよ、分かったけど……フランチェスカ、声が大きい………」
私は慌ててフランチェスカに注意する。
……フランチェスカ、いい子なんだけど…、……声が標準で大きいんだよな……
周囲に聞こえて居なかっただろうか、人の気配は少ないが万が一の事もある。
私がキョロキョロと見渡していると、足元から草が動くようなガサッ、という音が響いた。
思わず視線を向ける。
「……あのさぁ〜、黙って見てたら前途多難すぎて不安になるよ。そんなんで本当に任務完遂出来るの、王子の卒業まで?」
「…ひゅ、ヒュー?寮の近くに居るって…、」
「心配だからついてきたの。声は届かないようにしたから安心してよ……じゃ、俺は帰って寝てるから。羽はしまってるから普通の猫のふりしとこ、キュートなメスは居ないかな〜!」
ヒューは、言いたいことだけを言って、颯爽と猫の姿で立ち去っていった。
仕事が出来るのは良いことだが、最初からそう言っていて欲しいものだ。
……余計な心配しちゃったじゃない……。
過ぎた事なのでしようがないのは分かるが、頭を抱えたい気分だ。
その点フランチェスカは、もう"悪役令嬢"の顔でしずしずと歩きだしているのだから流石である。
私は慌てて、その後に付いて行った。
◆
フランチェスカは、学園長の前で一芝居を打った。
「学園長様、このスメット家の恥晒しに部屋を与えるなんて冗談でしょう!?」
ヒステリックな声で叫んで詰め寄るフランチェスカに、学園長の気の弱そうな顔がさらに怖気づくように見えた。それはそうだろう、正直私も唖然としている。
……悪役令嬢の迫力が凄い。フランチェスカ……貴女、女優になれるんじゃ……?
「えぇ、わかっていますよ、スメット嬢……ヘッセン伯爵には多大なる寄付を頂いていますからね……」
「ですわよねぇ、……ならば、偉大なる学園長様が、相部屋なんて、お相手に可哀想過ぎる仕打ちをなさる訳が、有りませんわよね?この子には、屋根裏部屋で十分ですわ!!!」
と、いう訳である。
そうして私はめでたく一人部屋……綺麗に掃除はされているが少し天井が低い屋根裏を手に入れたのだった。