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つきのひとみ  作者: 高橋 耶那
零のカイ 曰くつきの地学教室
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 ━━━ * ━━ * ━━ * ━━━




 それで、話はいったん変わるけど、裏山に関する興味深い伝承があってね。ふたりは知っているかな? ……その様子じゃあ知らないみたいだね。まあふたりともまだ1年生だから、耳に入らなかったんだろう。


 その伝承って言うのがね、僕もこの部の先輩から聞いた話なんだけれど……。


 ──「須頭(すず)山には神がいる」。


 そう、まことしやかに囁かれているらしい。その話をしてくれた先輩は、妙にその噂を信じているようだった。そんなに信心深いような人じゃあなかったんだけれど。「私は感じたの。──あの山に、神の存在を」って。


 なんでも、一度あの山で遭難したことがあって、長い時間彷徨っていたら一瞬なにかが歪んだ感覚と一緒に、放り出されていたらしい。山の麓の道に。先輩がその直前まで立っていたのは、麓の町の音も届かない、木々深い場所だったにも関わらず、だ。


 意識がない間に自分で歩いてそこまで辿り着いたなんて、信じられないだろう? まあ世間一般からしたら、神によって放り出された、という方が信じられないんだろうけど。それに、先輩がそう思った理由は他にもいくつかあってね。


 ひとつは、先輩が最後に時計を確認してから麓で確認するまで、3分も経っていなかったこと。遭難してたのに3分以内に山を下りるなんて、考えるまでもなく不可能だ。


 そしてもうひとつは、先輩が放り出された直後、とても近くに真っ黒な猪がいたこと。両手を広げたくらいに大きな猪だったらしいよ。鼻先が触れるほど近かったって言うんだから、恐ろしいよね。確実に目が合った筈なのに、その猪は攻撃してくるでもなく、静かに背後の山に戻っていったらしい。先輩曰く、「その真っ黒な瞳には、確かな理性があるように感じた。私は猪に、恐怖とは違うひどい畏怖を覚えて、去っていった後でも座り込んだまましばらく動けなかった」んだそうだよ。


 人間の本能というのは存外侮れないものだとぼくは思うんだ。きっとその猪は「神のつかわしめ」、つまり神使だったんじゃないかな。こじつけかもしれないけれどね。


 とまあこんな風に、裏山には神がおわすらしい。そこからさっきの昔話に繋がっていくんだけど……。


 ところで、この地学教室には、とある石があってね。ほら、あそこの両手を広げたくらいの大きさの木箱。あれに入れられているんだ。別に宝石だとかの価値が高いものでもない、ただの花崗岩の一部なんだけれど、ちょっと扱いが難しいものでね。


 ()()んだよ。昼も夜も関係なく、ね。


 ぼくも入部したばかりの頃は、よくそれの声を耳にしたよ。流石に手に持とうとは思わなかったけど、顔を近づけて何を言っているのか聞き取ろうとしたことがあるんだ。なにせずぅっとなにやらぶつぶつ言うものだから、気になってしまって。そうしたら、なんだかとっても長々と文句を言っているみたいでね。まとめるとだいたいこんな感じかな。


──親には死ぬまでこき使われ、孫息子には山奥に捨てられて、世を恨んで恨んで幽鬼になった。周りにも同じ類いのものが多くいて、それらと交わり力を得た。本当は自分たちを捨てた里のものたちに報復してやりたかったが、しかし自由に動き回れるほどの力ではない。しかたなくその地に根を下ろし地縛霊となり毎日呪詛を破棄散らしていたところ、あるとき『大きなお方』がやってきた。そいつは「五月蝿い」と言ってあの岩の欠片に自分達を封じ込めて、ぽいと山の下まで放った。それから随分長い年月が経ったとき、そこを当時地学を受け持っていたこの高校の教師が通りがかって自分たちを拾い、この地学教室まで持ってきてしまった──


 断片を拾い集めてぼくが勝手に補填したところが多いから、これが正しいかはわからないけれど。恐らくだいたいはこんな流れだったんじゃないかな。で、あの石は己を捨てたもの──孫息子と、『大きなお方』──を恨んで、ずっと呪詛を吐いている、っていうわけだ。


 この『大きなお方』っていうのは、石が言っていた単語をそのまま引用したものだよ。ぼくが思うに、この『大きなお方』こそが、須頭山におわす神なんじゃないかな。『大きい』というのがその身体の大きさを指すのか、存在感の大きさを指すのか、はたまた神気の大きさを指すのかはわからないけれど。


 ──それは兎も角、結局文研がここを獲得できた理由は、「石が喋るという怪現象が起こっている地学教室は、奇人変人である文研部員以外の誰も欲しがらなかったから」、だ。


 当時の文研部員たちは──今のもだけど──変人でね。特にこういった怪異譚が大好物だったらしい。そこで、是非にと勢い込んで担当の教師に直談判して、ここを獲得したそうだよ。それ以来、代々文研部員はあの石の呪詛をBGMに活動したとかしないとか……。


 ああ、今はもうあの木箱のお陰で全く聞こえてこないよ。ぼくが専門家に依頼したんだ。体質的にっていうのも理由としてあったんだけど、それより静かに過ごしたいってのが大きかったかな。ほらここ、廊下の一番端にあるから、ちょっとした隠れ家みたいでしょう。しかも去年は先輩が皆卒業しちゃってひとりだったから、静かにのんびり過ごすには良い穴場だったんだ。誰だって読書してる間じゅうずっと、呪詛のBGM流したくないでしょう?




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