飼い主が死んだ、その後で(御堂)
文中に登場する店名やメニュー名は全て架空のものであり、実在の色々とは一切関係ありません。
「私の死因もコロシでした。貴方が亡くなって十五年後でしたね」
バダックから聞いている話を伝え、一体、前世のジルベルトの死後に何があったのかを問えば、説明のために感情を排除した声音と口調でネイサンが語り出した。
「貴方の死後、我々は茫然自失の状態となり、しばらくは生きる屍でした。そのために、貴方の死因の調査に出遅れてしまった。私が貴方に関する記録を整理する過程で違和感に気付いた時には、既に遺体も火葬され、納骨も済んでいました」
整理するほど記録があったのかと問い質したい気もするが、御堂はメモ魔だったなと思い出し、藪蛇も嫌だと、聞き手達は口を噤んだ。
「貴方の入院先では、一切の写真撮影が禁止されていたので、私は見舞う度に、貴方が経口または注射や点滴などで投与された薬の色と形状を聞き取り、摂取した時間や回数とともに記録していました。私が面会した時間と面会時の貴方の体温や脈拍、顔色なども当然記録しています」
当然なのか。というツッコミは置いておいて、前世のジルベルトが罹っていたのは、発見されて間もない、世界でも罹患者が十名も認知されていない、病名すら未だ無い未知の病の疑いがあると言われていた。
延命のために対症療法を行いながら研究を進め、根治の方法を探すことになり、研究に協力する代わりに治療費はほぼかからず、支払いが必要なのは入院費だけという話だった。その入院費も、情報漏洩を防ぐために、一般病棟の四人部屋の料金でVIP向けの特別病棟の個室に入ることになっていた。
そういう患者を受け入れるメリットは病院側でも大きく、政府から補助費も出るので金銭的な損は無いし、何より心証が良くなり後々とても助かるのだと説明された。
政府からの補助費については、省庁が刊行した冊子を見せられながらの説明で、心証がという話は前世のジルベルトの夫の友人から口頭で伝えられた話だ。
入院する際には、情報漏洩に関して細かい条件を定めた契約書にサインを求められた。
病気の解明のために莫大な研究費をかけて治療と同時進行で研究も進められているので、情報漏洩を避ける目的で、処方箋の持ち出しや複製、薬剤のパッケージの撮影なども厳禁となり、患者経由で外部にそれらの情報が漏れた場合は、相応の賠償金を支払わなければならないというものだ。
入院中の外部との接触を全てシャットアウトする場合、治療に関する資料は全て病室に置いて患者本人がいつでも閲覧出来るようにする、という方向性での契約書も作られていて、どちらを選びますかと訊かれたが、退院の期日が不確定であるのに面会どころか電話やメールも一切禁止というのは、未成年の子供を持つ身としては、一考の余地なく選択肢から外す条件だった。
面会や携帯電話の使用が許可される代わりに、摂取前に薬の名前と効果や副作用等の説明が済めば、医師が薬の説明資料も包材も退室時に一緒に引き上げていた。
一応、病院から出された条件におかしな部分が無いのか、専門家である御堂に前世のジルベルトは契約書の写しを持参して相談していた。
その時、御堂は「まあ、有る話」だと答えた。この時のことを、御堂は死ぬまで深く後悔し続けることになる。
向こうは、ターゲットの親しい友人に法律の専門家が居ることを知った上で、「ストーリー」と「契約内容」を用意していたのだと、全てが手遅れになった後から彼は気付いたのだ。
素人の方が、厳しすぎる束縛条件に対するストレートな嫌悪感から、早い段階で異常性に気付けたかもしれない。
当時は、知的財産権や情報漏洩を扱った訴訟が多岐に渡って一気に大幅増加していた時期でもあり、一般人が気軽にSNSに投稿した内容で巨額の賠償金が発生というニュースが、日々重ねて報じられていた。
一般人も自衛のために、情報漏洩を「する側」にならないよう警戒することが求められ、弁護士だった御堂は、その頃、事務所で抱える複数の顧客からの依頼で、似たような案件の対策・対応に寝る間も無いほど飛び回っていた。
そういう時期だったから、日常的にその手の案件に多く接することで、御堂のような「法律屋」だからこそ、双方の利益を守るために「当たり前」な内容だと認識してしまった。
全ては後の祭りだが、あの契約書は、専門家であるほど引っ掛かりを覚えずすんなり受け入れ易い書き方だった。作成したのは、当時の御堂の上を行く「法律屋」だろう。
あの契約書が引っ掛けようと狙っていたのは「素良」ではない。「素良が信頼する法律屋」だった。気付いた時には、何もかもが遅かった。
契約書に署名するかどうかは本人の意思に委ねられていたし、契約内容に違法性は無かったことも事実であり、後から突ける瑕疵など「向こう」には存在しない。
だから、あの時、無様に誘導に引っ掛かっていなければ、自分が「御主人様」を護るチャンスがあった筈なのだ。
血を吐くような悔恨に苛まれても、何より大切な人は戻って来ない。
どの「犬」も、先に逝ってしまった「飼い主」との再会は渇望していた。そこは、皆、同じ。
だけどネイサンは、前世の後悔により、深淵でトグロを巻くように熟成された贖罪の想いが、入れちゃいけないスイッチをブチ抜いていて、多分、再会を果たした今、ジルベルトが知っている「前世の御堂」とは、少し違う人間性に変質している。
今は未だ、「そのまんまだよなぁ」と思わせているけれど。
ネイサンは説明を続ける。
「貴方の体調の変化の記録と、貴方が摂取したことになっている薬を対応表の形でまとめ、伝手を使って各製薬会社から取り寄せた資料を参考に比較したところ、貴方が摂取した薬は、実在する薬とは色や形状の異なるものが散見されました。念の為ジェネリックのものも調べましたが一致しませんでした。そのように実在の薬と異なる色や形状のものが摂取されたのは、貴方の体調が著しく変化する前のタイミングであることが多かった」
ニコルとクリストファーが息を飲み、ジルベルトは「そっちか」と内心で溜め息を吐く。
殺されるとは思わずに油断していたが、ジルベルトは前世の夫を出会った最初から死んだ最期まで信用したことが無い。
いよいよ体調が悪化して入院が必要になった時、夫の友人の病院を強固に勧められ、特別病棟の個室に隔離状態で入院することになったが、治療の中に外科手術が含まれるなら何が何でも断っていた。治療と偽って内臓の一つ二つ盗られるのではないか、くらいの疑いは夫とその友人に向けていたのだ。
社会的信用や世間一般で「普通」に見られることに拘りのある人間だったと思っていたから、「妻殺し」に手を染めることは無いだろうという予想は甘かったが、一応、気をつけてはいたつもりだった。
外科手術や全身麻酔を行う際には、夫以外に指定した本人の代理人の署名が無ければ行えないという、法的拘束力のある書類も作って病院側にも了承させたし、未知の病に罹患しているのだから死後も臓器提供は一切しない旨の遺言書も作成した。
摂取する薬は、眠気を起こす作用のものには特に神経を尖らせていた。一日に一度は信用出来る人間の中で成人している人物─結局、四人の「犬」の誰かだったが─に様子を見に来てもらうようにしていた。
警戒の方向を間違っていたことが敗因か。
ジルベルトは内心、悔しさに唇を噛む。
何年も入院させて、体調が悪化する度に実際に治療までしていたのだから、ただ毒を盛っていたという単純な話ではないだろう。
息を詰める前世の子供達を気にかけながらも、隠さないことに決めたジルベルトはネイサンに問うた。
「擬似的に病気の症状を引き起こす物質を摂取させられて、人体実験をされていたということか」
「私が殺された時は、まだ確実な証拠は手に入れられていませんでした。ですが、その可能性がかなり高い。ほぼ確実です」
ジルベルトの表情も口調も他人事のように淡々とし、ネイサンも変わらず感情を排して応答する。
「貴方が入院していた病院は、当時の院長が病院経営を先代から受け継いだ頃から、癒着している政治家と共に裏金を作るための人体実験場だったのではないかという疑いを、過去にあの病院で亡くなった患者の調査から我々は持ちました。
辿れる限界まで遡り、遺族への聞き込みで確認したところ、『未知の病』ではなくとも、貴方とよく似たケースが二十二年の間に十三件出て来ました。どれも、多くの国で多くの研究者が根絶に尽力するような病ではなく、症例が少ないことで研究が進んでいないようなものばかりです。
珍しい病であるのに、同じ病で亡くなっている方達は同じ病院で同じ時期に集中し、ある時を境にパッタリと現れなくなる。そして、その数年後に、その病の治療法が確立されたと発表がされています。
白河が死んだのは、貴方が亡くなった七年後、この疑惑の調査は慎重に行わなければこちらが殺されると話し合った矢先でした。院長と癒着する政治家の息子である政治家が、若くして官房長官になった年です」
ニコルとクリストファーの脳裏には、当時の官房長官の顔が思い出されたが、ジルベルトには死後七年も経ってのことなので、誰のことやらサッパリである。
名前を聞けば思い出すのかもしれないが、今更その名前や顔が特に重要な情報とも思えないので、「院長と癒着していた政治家の息子政治家が官房長官にレベルアップ」とだけ覚えた。多分、「大物の黒幕」はソイツの親かソイツだ、と脳内備考欄に書き込む。
「我々は警戒を強め、表向きは諦めた振りをして密かに調査を進めることになりました。しかし、院長と癒着していた官房長官の父親が年齢を理由に政治家を引退し、表舞台から退場したことで情報が集め難くなり、天下り先が貴方の前世の夫の勤めていた製薬会社の理事という如何にも臭う所だったにも関わらず、簡単に尻尾を掴むことが出来なくなりました」
状況的には真っ黒でも、公人ではなくなった人物の個人情報を得るために大きく動くことは出来なかった。
しかし、相手側に調査の痕跡を気取らせない程度にしか嗅ぎ回れないのでは、遅々として真実への道行きは進まない。
仲間を一人失って慎重にならざるを得ない彼らは、疑惑を抱えながらも泣く泣く諦めた体を装いながら、情報を得やすい公人である息子の官房長官に的を絞った。
しかし、息子の力を削ぐようなネタは資金力に物を言わせて父親が徹底的に潰していく。「犬達」でなくとも、若くして官房長官の座に昇りつめた政治家の敵は、掃いて捨てるほど涌いて出て列を成していたのだ。それらから息子を守るだけで、「犬達」の欲しいネタも「無かったこと」として消えて行った。
ネイサンの報告は続く。
「最初から掴まれるのを警戒されているネタは、素人がコソコソ動く程度では掴める可能性が低いと判断し、各々で自分の仕事に没頭するように見せつつ、向こうが『どうせ掴める筈がない』と高を括っている『探られて痛い腹』を探る方向で動きました。
私は過去の膨大な判例の中から、貴方が入院していた病院と、貴方の前世の夫が勤めていた製薬会社に、僅かでも関わる部分があるものを抜き出し、それぞれの顛末、相似性、時代背景、社会背景などから繋がりを探して行きました。
時間はかかりましたが、一覧にまとめてみると、提出された証拠や証言に不審点が複数挙がりました。具体的には、幾つかの時期も地域も異なり類似の案件でもない裁判において、『医療や薬物の分野に携わる者でもなく、病院や製薬会社とも無関係の一般人』の身分である証言者が、三名ほどの同一人物である可能性が高いことです。
その三名は、裁判ごとに所在地や職業、そして苗字は違いますが、性別と名は同じで年齢も時期を追って重なります。名前は各人、意識しなければ目に留まらない、よくあるものです。
どれも、世間を震撼させるような大事件ではなく、マスコミにしろ専門家にしろ、比較的注目度が低いであろうものに限られているところに玄人の意図が感じられました」
どんな分野の「玄人」なのやら。
どうやら前世において、想像以上に大掛かりな犯罪に巻き込まれていたようで、ジルベルトの秀麗な眉が顰められる。
お抱えの「一般人風」の人間を、居住地や職業で上辺の身分を変えさせて、結婚や離婚や養子縁組などで書類上の名前を別人のように見せかけて使う「玄人」。
まるで工作員じゃないか。
善良な一般市民に擬態して潜伏し、必要に応じて「本物の名前と身分」で裁判の証言まで出来る。平和ボケ大国と呼ばれた世の中で暮らす、一般庶民を自負する人間が、己の隣人を、そんな工作員じみた存在だと考えたりはしないだろう。
入院に際して自分の夫に内臓を盗られるんじゃないかと警戒していた、「普通」より幾許か物騒で殺伐とした人間関係に身を置いていた、前世のジルベルトでも想像さえしていなかった。
そんなものは小説か映画の中の話だと、あの国の大半の人間は思っているだろう。
だから、実際に自分の身に、小説か映画の中みたいな悪意が降りかかると避けることもままならない。
ジルベルトは前世、そうやって死に、バダックもネイサンも、気付いた時には手遅れだった。
「発見した不審点から調べを進めていましたが、あちらの裏社会へのコネクションを見くびっていたようで、24時間体制で私費でボディガードを雇っていたのですが、海外から呼ばれたらしきプロ集団の前では、日本の民間の警備会社ではトップクラスだった経験豊富なボディガードが赤子扱いでしたね」
「お前の死因は、敗訴した原告の逆恨みということになっていたらしいが」
「ああ、なるほど。だから『くたびれた中年の日本人男性』のコスプレをしていたんですね。中年でも日本人でもありませんでしたが、私が住んでいたマンションの監視カメラは上方にしか設置されていませんでしたから、俯いてそれらしい挙動をしていれば証拠の出来上がりですか。舐められたものです。その程度でツッコミの入らない証拠になるということは、警察組織や法曹界の上層部にも手が回っていたんでしょうね」
「お前の死は、『敗訴した原告の逆恨みによる刺殺』で滞り無く処理されたらしいからな。ボディガードは監視カメラの無い郊外の道路で轢き逃げされ事故死とされたらしい」
クリストファーやニコルから聞いていた「御堂の死後の話」を伝えれば、ネイサンは刹那だけ目を伏せて嘆息した。
「あぁ、巻き込みましたか。まぁ、侵入時に居合わせたのだから口封じはされたでしょうね。私は意識を失って倒れたところまでしか見ていませんから」
だが、ネイサンは感傷など持たない。直ぐに上げた視線で至上の主に報告の締めを行う。
「私が伝えられるのは、ここまでです。我々は調査結果を全て共有していました。残った二人が成し遂げていることを願います」
「その『残った二人』だが、可能性の域を出ない話だが、近々モスアゲート王国から来訪する留学生を、お前に見極めて欲しい」
ジルベルトの命令であれば、どのようなものであれ引き受ける以外の選択肢は無いが、ネイサンはその内容に思わず瞠目した。
「あの二人の、どちらかである可能性が?」
「あくまで可能性だがな。二学年に編入予定の男子生徒だ。名をカリム・ソーンという」
「承知致しました。何故かバダックとは目を合わせた瞬間に互いの正体を認知しましたから、もしもソーン殿が『どちらか』であれば、また仲間との再会を果たせるのかもしれません。国交の無い国の貴族同士となれば、友誼を結ぶにも慎重を期する必要がありますが」
「そうだな」
カリム・ソーンは偽名であり、その立場は非常に難しいものである。
それを伝えることは無いが、ネイサンならば何も知らずとも不用意な真似はしないだろうと、素で考えているジルベルトの相槌は自然で冷静だ。
二人の対話を眺めていたクリストファーは、片方が女性口調だっただけで前世と変わりない互いの態度に内心で呆れの溜め息を零す。
本当に、一度懐に入れた犬達への信用度が半端ない。好意や大切といった甘い感情は入り込まないくせに、能力を認め、信頼を置き、利用することを躊躇わず、忠誠を疑わない。
思えば、クリストファーにとって前世の母は、「母親」だから女性であるのが当たり前だと思い込んでいただけで、儚げな如何にも女性らしい外見ではあったが、実は生まれる世界も性別も間違っていたんじゃないかという感想が擡げてくる。
今生、男で、武人で、部下を従えて、当たり前のように権力も武力も行使しているジルベルトの姿は、クリストファーにとって前世よりもずっと自然に見えているのだ。
ジルベルトの方も、クリストファーに対して「前世よりも生きやすそうだな」と微笑ましく見守っているのだが、当人は気付いていない。
コナー家の役割を知りながら、コナー家の支配者であるクリストファーを「生きやすそうで良かった」と微笑ましく見守っている辺りも、知ればクリストファーの方こそ「やっぱり前世より今生の方が自然だな」とジルベルトに頷きそうだ。
クリストファーの視線の先では、ジルベルトとネイサンが、カリム・ソーンが仲間であった場合の打ち合わせを済ませ、転生に関する話の口止めを命じている。
クリストファーも、前世で母の死の真相など知らぬまま死んでいる。
ジルベルトの「前世からの犬」が勢揃いすれば、復讐は出来なくとも、何があったのか、真実を知ることだけは出来るような気がする。
(しっかし、前世の犬達と変態犬、相性は悪そうだが、どっちが強いんだろうな?)
紺色の垂れ目を細めて思案するクリストファーは、ソレがフラグだと気付いていない。
マウントを取り合う犬どもに、振り回されて苦労するのは飼い主だけとは限らないのだが。
「ミレット嬢、このマンゴープリンは『南国道場』の会員限定隠しメニュー、『ラッキープリプリマンゴープリン』ですね」
ネイサンの口から出た、優雅な貴公子然とした彼に似つかわしくないインパクトの大きなメニュー名にジルベルトが若干引いた顔になり、ニコルが笑顔で明後日の方向に目を逸らす。
『南国道場』は、前世でニコルが働き始めた頃に開店した高級志向のフルーツパーラーで、主力商品は店名通り南国フルーツを使用したものだ。
ジルベルトは既に鬼籍に入っていたので知らないが、クリストファーは名前だけは知っていた。女性客の多さに入る気になれない店だったのだが、ネイサンがメニュー名や味を記憶しているくらい通っていたことに驚きを覚える。前世のネイサンの姿を思い浮かべると、店と客層のイメージからかけ離れているのだ。
だが、問題はそこではない。
「ニコル?」
呆れた溜め息を吐いてクリストファーに視線で「任せた」と告げるジルベルトに頷いて、クリストファーは輝くような笑顔を前世の妹へと向ける。
「ひぃっ」
意地悪であっても基本、妹に甘い兄が「本気で叱らなければならない」と判断した時に見せるレアな笑顔だ。
思わず悲鳴が洩れるニコルに一足で迫って捕獲するクリストファー。
「私はネイサン殿を送って帰るぞ。そろそろ時間だからな。ニコル、お前の自由はこれ以上奪いたくないが、クリスにしっかり叱られておけ」
「うぅ。はーい。お土産受け取って帰ってください。またね」
ニコルの無茶や危機意識の低そうな行動は、信じたり甘えたり出来る人間が極端に少ないが故の一種の試し行動でもあるのだと、ジルベルトは知っているので、「見捨てることは無い」という意思表示をして今生では「叱る役」はクリストファーに一任している。
ネイサンの視線が、「変わりませんね」と懐かしそうに緩むのを横顔に感じ、いつものように執事からニコット商会の美味しい軽食セットが入ったバスケットを受け取って、ジルベルトは自分の馬車に乗り込んだ。
御堂さんは甘党です。