クリストファーの小部屋
休憩を挟んで史実を創り上げ、ハロルドと交代で仮眠を取って、ジルベルトは「クリストファー・コナーと繋ぎを取る」役目の為にコナー公爵家の屋敷を訪問していた。
クリストファーがジルベルトに懐いていることは有名なので表向きは不自然ではない訪問だが、コナー公爵邸は使用人から出入りの商人や職人まで、その息のかかった『属する者』。つまり、何らかの役目を負わされ訓練も受けた人間だ。
コナー家の裏の顔や、その事実を知る立場の者にとって、コナー公爵邸に招かれることは生きて帰られないことと同義だった。ちなみに、『表の顔』で開催される夜会はその為だけの別邸があり、そちらは生きて帰れる仕様だ。
だから今までクリストファーも、ジルベルトを別邸以外の屋敷に招待したことは無い。
今回は、第一王子の失脚により、コナー家が次代で仕えるのが実質的に第二王子になるので、第二王子側近ジルベルトへの家人の警戒が解け、先走る馬鹿が無礼を働くこともないだろうという当主の判断と、クリストファーが個人的にジルベルトから頼まれていた「完全に秘密を話せる場所」が他所には作れなかったことで、会合はコナー公爵邸となった。
邸内で外向きの仮面を外したクリストファーは、あどけない少年の顔立ちに厳しい表情を浮かべたまま威圧と殺気を放ちつつジルベルトを屋敷の一角まで自ら案内する。
仕掛けてくる馬鹿はいなくとも、珍しい『客人』の観察に集まって来る目と耳が鬱陶しい。どうせあの一角には入れないとしても、陰からジロジロ見られながら聞き耳をたてられ続けるのは不愉快だ。ジルベルトが「まぁ、コナー家だしな」と黙認していたとしても、クリストファーが嫌だったので、殺気は足を進めるごとに高まって行く。
「クリス、私は気にしていないぞ」
呆れ気味に前を歩くクリストファーに声をかけるジルベルトだが、クリストファーの殺気は益々高まった。
「ジル、あいつら今、ジルの声を生で聞いてザワッと悦びやがった。ここは特殊性癖の変態の巣窟だから気をつけてくれ」
ああ、そういう意味か。ジルベルトは口を噤む。不埒な妄想のネタにリアリティを追加する、オカズの生声と生姿の補給目的で張り付かれていたことを悟り、クリストファーの不機嫌の原因が分かった。
常に死が身近な仕事のせいか過酷な訓練のせいか、コナー家に属する人間にノーマルな性癖の者はいない。どんな妄想のネタにされるのか、特殊な性癖は持ち合わせないジルベルトには想像がつかないが、わざわざ生声や溜め息を供給してやる気は無かった。変態犬の変態は許せても、見知らぬ変態に慈悲をかけるのは普通に気持ち悪い。
「ここから先は『制裁の間』だから俺以外に入れないっつーか、俺以外は入ったら出れないようになってる。もう少し我慢してくれ」
無言のまま、仕掛けられている魔法を読み取ってジルベルトは頷いた。
クリストファーが『制裁の間』と呼んだ部屋は、小ホールくらいの広さで、部屋の中から更に先へ行く扉が幾つかある。元は、裏切り者や挽回出来ない失態を犯した配下に当主が手を下す目的で用意された部屋だが、現在はかなり手を加えて改装した上でクリストファーが使っている。
家具も無い殺風景な部屋を抜け、扉の一つを開いてクリストファーはジルベルトを招き入れた。
中は窓の無い小部屋。だが、落ち着いた調度品も設置され、清潔も保たれた空間だった。
「適当に座ってくれ。ここは全魔法攻撃無効でもなきゃ絶対生きて入れねぇから大丈夫だ」
なるほど、と長椅子に脚を組んで座り、ジルベルトは通過して来た凶悪な魔法の障壁や罠を思い返す。
クリストファー以外は「入ったら出られない」場所は、通過が一方通行になるように、小股の一歩間隔で内から外に向かおうとすれば即死レベルのダメージを食らう、見えないゲートが幾重にも重ねられていた。
この小部屋は、通って来た側しか確認していないが、多分確認できたものと同じ、肉片も残さないくらい丹念に抹殺出来る威力の魔法で全方位を包まれているのだろう。
確かに、こんな物騒な部屋は他の場所には作れない。
「仕事中だけど酒でいいか? 毒入りのいいヤツがあるから」
「構わないが、ソレ、全部毒入りだったのか」
キャビネットには、一本で酒の展覧会でも開催出来そうな幻の銘酒と呼ばれる年代物の希少な高級酒が詰め込まれている。
クリストファーが言うには、仕事柄勝手に集まって来るモノらしいが、コナー家の人間への暗殺目的で贈られて来た品もあるのだろう。
「効かないと分かっていても、よく飲もうと思ったな」
「ジルだって毒の味見はやるだろ?」
呆れて問えば、飄々とした返事が戻る。
「まぁな。折角この身体になったから、手に入るモノは全種類致死量まで確かめてみた」
「ジルが個人で入手出来るってぇと、この辺は未確認だろうな。ここで飲んで行けよ」
アンドレアに心配をかけないよう、公の立場を使わなければ手に入らないような毒は試していない。それを見透かされて、コナー家の支配者だから手に入れられる毒が入った酒を勧められた。
これだから、守ろうと思いながらも頼ってしまうのだ。
ジルベルトは、息を緩めて苦笑すると、頷いた。
「いただこう」
ジルベルトの返事にニヤリと唇を歪め、クリストファーは種類の異なるショットグラスを複数用意して、お勧めをそれぞれ注いでいく。
「コレが『蠍の誘惑』入り。酒に混ぜると特徴のある匂いが変化するんだよ。ついでに酒も美味くなる」
精製が難しい猛毒だが、死に至るまでの数刻は媚薬の作用があるので、機密を引き出して殺したい相手へのハニートラップで使われる毒だ。入手に特別なコネが必要なため、ジルベルト個人では探すことも出来なかった。
「王宮に保管されるサンプルを嗅いだことはあるが、トイレの洗剤みたいな臭いだったぞ。それが熟成酒の芳香に似た匂いに変化して、酒の味に深みまで加わるということか」
ジルベルトが味わって目を瞠ると、クリストファーが楽しそうに目を細める。
「こっちが『山林の王者』入りな。強い蒸留酒に入れると色が無色透明になる。だから、わざと透明な蒸留酒に混入するんだ」
鉱物毒だが、毒自体が鮮やかな緑色なので『山林の王者』の名が付けられた猛毒は、致死量は多いが、口にしてしまえば口内の粘膜から吸収が始まり、吐いても胃洗浄をしても対策にならない。解毒剤との相性も悪く、致死量を摂取してしまえば解毒剤の効果が現れる前に大抵は死ぬ。致死量に至っていなくても、失明や半身不随になる場合が多い。
材料に稀少性の高い鉱物を用いた非常に高価で珍しい毒であり、普通は貴族でも図入りの資料で特徴を学ぶ程度だ。
ジルベルトは、立場上、王宮に保管されるサンプルで実物を目にしたことはあるが、実物を目にしたが故に、無色透明に変化するという発想を持てなかった。
「毒薬学の講師としてクリスを第二王子執務室に招きたいな」
嘆息して言うジルベルト。
アンドレアは現在のクリソプレーズ王国で、最も暗殺を狙われる王族だ。
その側近として、アンドレアと共に毒に関しては相当学んだ自負があった。だが、本職に比べれば、その知識は絵本しか読めない子供レベルだった。
「それは、情勢が変わった辺りで俺も考えてた。この先、この国の実権を握るのは第二王子だろ。商業の活発化で今までこの国まで入って来なかった色んなブツが、カネさえ積めば手に入るようになってる。教科書レベルじゃ命を守れねぇぞ」
「ああ。痛感している」
「第一王子失脚の噂が国外まで流出する前に、そっちに毒の出前講師に行くわ。表向きは『一件落着後に遊びに来たお気楽次男』てことで」
「感謝する」
そこから更に五種類ほどの毒を味わい、ジルベルトは切り出した。
「エリカの脳の中身を抜き取った」
「報告は来てる」
簡潔に答えるクリストファー。
ジルベルトが、第二王子執務室で口にした内容は、既にクリストファーも把握しているということだ。
ここでジルベルトがクリストファーに伝えようとしているのは、主にも言えない内容──転生と一度目に関するものだと、互いに理解していた。
「エリカの中身は日本からの転生者だった」
「は?」
予想とは違う情報を齎され、クリストファーの眉根が思わず寄った。
「ゲーム知識だけじゃ呪いはヤれねぇだろ」
「ああ。こちらに転生する前に、今のエリカの中身は一度目のエリカから記憶を与えられている」
「どういう・・・あぁ、そうか。そういうことか」
クリストファーが苦い顔をして頭を抱える。
エリカが『巻き戻り』ではなく『転生者』だと知った時、ジルベルトも思い至った可能性に気がついたのだ。
「俺らもそうだってことか?」
転生した魂は、一度目とは違うモノ。
「確定ではないが、私は腑に落ちた」
「まぁな。本質は確かに同じだが、それを活かしたり伸ばしたりする強かさは、本物には無かっただろうと思うぜ。俺達三人は、原作と違い過ぎる」
アンドレアやモーリスは、元から本人のやる気だけで環境の改善が容易だった。それは、原作からも感じていたし、ジルベルトと出会う以前の暮らしを知っても同じことが言える。
ハロルドは、一度目で『剣聖』だったことが妖精の言葉で確定された。原作で勉強が苦手な脳筋扱いだったのは、まともな学習ができる家庭環境に無かったせいだろう。
アンドレアとモーリスとハロルドが原作から変わった点は、ほんの小さな切っ掛けで変わるものだ。
だが、ジルベルトやクリストファー、ニコルの変化は、それこそ中身が別人にでもならなければ成し得ないものだったと、長じるに連れ感じるようになっていた。
いくら憧れを持っていても、目指す前に身を穢されれば『剣聖』への道は絶たれていた。
今のジルベルトがそれを可能にしたのは、前世でも幼少期から性犯罪者に追われることに慣れる特異な経験の記憶を持っていたことで、今生で怯えより怒りを感じながら狂った大人の性犯罪者達を出し抜いて逃げ回ることが出来て、独学で知識や教養を増やして身体を鍛える術を知っていて、それらを実行する気力もあり、本から得た情報で早々に権力者である親を巻き込んで『天地への誓い』を立てて自衛が出来たからだ。
本物の意識や記憶のままでは不可能だっただろう。
クリストファーは、原作の描写では、出来が良かった為に兄と姉から虐待を受け恨みを募らせていた。
実際にコナー家の人間になれば分かるが、この家の直系の人間が行う『虐待』は、一般人が想像するそれとは次元が異なる。
基本スペックがどれだけ高かろうが、幼い時分から8歳も上の兄と5歳上の姉に二人がかりで『コナー家の虐待』を受けていたら、本来の才能は潰されて伸ばせない。
原作のバッドエンドで暗殺メイドごときに始末されたのが、その証拠だ。直系が配下に始末されるなど、コナー家の記録を掘り返しても、まず見当たらない。その程度の能力までしか成長出来なかったから、才能はあるのに価値を見出してもらえず、親から庇護されることも無かった。
今のクリストファーがあるのは、生後数日のファーストコンタクトで、兄のウォルターをビビらせることに成功していたからだ。
前世の職業的に立ち回りも上手く、性格的には分析や研究が好きで攻撃性が高かったのもあり、「コナー家にたまに生まれる天才」として親や家人に期待と庇護をされ、邪魔される事無く本来の才能を伸ばし、兄と姉を調教しながらメキメキと頭角を現すことが出来た。
兄とのファーストコンタクトの瞬間に、クリストファーが本物だったら、手遅れになっていただろう。通常、目が開いたばかりの生後間もない赤ん坊は、天才になるスペックを持って生まれていても、目を合わせただけで8歳児を心が折れるほど脅すことは出来ない。
原作のニコルは、成金新興男爵の娘で、裕福だがコンプレックスが強く卑屈だ。将来、商人として成功したいと夢を語りながら、目立つのが怖くて地味に装う臆病者でもあった。
今のニコルを見れば、土台の容姿が実はハイレベルだったことは明白だ。それを磨く勇気が無いから本物は、他の貴族令嬢にもエリカにも舐められた。
貴族の地位を持つ裕福な商家に生まれた自分を、夢を叶えるために最大限に活用する気概とセルフプロデュース能力を、今のニコルは持っている。
そして、気が強くて前向きで、他者を利用して切り捨てることに躊躇を持たない。
「ジルベルト・ダーガの本質は、人を狂わせ惑わせること。クリストファー・コナーの本質は、破滅させる力への悦び。ニコル・ミレットの本質は、商いによる影響力を持つこと。原作から読み取れるこの三人の本質は、確かに俺達とも重なる。だが、」
「本質が同じでも、能力は同じではない」
今のエリカに自白剤を使った時に抱いた感想を、ジルベルトは口にした。
「一度目のエリカも、おそらく同じ自白剤を使われている。それで警戒したのか、今のエリカに与えた一度目の記憶は都合良く編集されたものだった」
受けた筈の拷問や処刑の記憶は与えず、幼少期から周囲の男達にチヤホヤされた記憶や、クーク男爵の養女になる件、学院での身分の高い令息らの籠絡の仕方など、光と影があって当然の人生の、光ばかりを見せるような記憶の与え方だ。
更に、ジルベルトが気になった点を挙げれば、クリストファーも難しい顔で唸った。
「なんか、一度目のエリカってマジもんの工作員臭くねぇか? いや、工作員の手先、か。工作員そのものにしてはお粗末だ。けど、やり方は仕込まれた臭ぇな」
郊外の林で人目を避けた程度で、第一王子を対象にした呪いを、誰にも妨害されずに成就していたと聞いて、クリストファーが顔を顰める。
「私もそう感じた。本当にプロだと言うには足りな過ぎるが、今のエリカがクーク男爵の養女になれたのは、与えられた一度目の記憶の中に、『クーク男爵は護衛も連れず単身徒歩で貴族街を散策する』という情報があったからだ。ほとんどがモテ自慢の武勇伝のような記憶の中では浮いている」
「思っくそ誘導じゃねぇか」
「だろうな」
猛毒入りの酒をショットグラスの中で揺らしながら、クリストファーは不愉快な結論に到達した。
「今のエリカは一度目のエリカに利用されていた。自白剤を使っても一度目の黒幕までは届かなかった。黒幕は、今回も黒幕として現れる可能性があるってことか」
「ああ」
「どうする? ジル」
問われているのが、未報告である内容を主に報告するのかだと分かるから、ジルベルトは首を横に振った。
「エリカが転生者ではなく一度目の記憶を全て持っている『巻き戻り』だとしたら、自白剤で一度目の黒幕への手掛かりも掴めると考えていた。コナー家の仕事ぶりを知るようになり、一度目でも監視はあった筈のエリカが第一王子を呪いで攻略出来たことに納得が出来なくなっていたからな。一度目のエリカの背後には、我が国を脅かそうとする何者かの狙いがあったと疑った。それを掴めれば、要注意の存在として報告に混ぜ込むつもりだったが、今のエリカと一度目のエリカが別人と知れば、言う訳にはいかない」
「余程やべぇ方法で転生してんのか」
疑問形ではなく断定の口調のクリストファーに、ジルベルトは髪を掻き上げて頷く。
「一度目のエリカは、己の魂を代償に『やり直し』を願い、魂の同期が可能なほど同質の魂を異世界で探し当て、自分の器に転生させた。罪人一人の魂で世界が簡単に巻き戻ることは考え難いが、他に条件が必要だとしても、『魂を捧げれば世界の時を戻してやり直せる』という事実を表に出すことは出来ない」
「王族には絶対に知られちゃなんねぇ類のネタだな。『王家の秘文』みたいに受け継がれちゃ堪んねぇ」
ジルベルトも、主が王族だからこそ、チラリとも相談さえ出来ないと判断した。
アンドレアの為人を信頼していないからではない。王族は、国と王家の利益に繋がる情報は、どれだけ危険な内容でも破棄せず秘匿して残すのだ。
王族とは、その国においては絶対的な権力者である。魂を代償に世界の時を戻してやり直せる、後世のクリソプレーズ王国の王族が、誰一人その甘美な誘惑に手を伸ばさずに、欲望を退けられるとは思えなかった。その気になれば、生贄として百や二百の人間の魂を捧げられる力が彼らには有る。
「俺らもそうだとすれば、一度目の三人は魂を対価にやり直そうとしたってことか」
「願いは、そうだったと思う。ただ、私は魂を捧げた先がエリカとは異なるのではと考えている」
「エリカが魂を捧げたのは、『ナニか』って奴か。呪いで生贄やら捧げる先のアレ」
「おそらく。『ナニか』は、偶像崇拝が禁じられていないタイプの世界では、『邪神』や『魔王』と呼ばれる類のものではないかと想像している」
「ぽいよなー」
怠そうに相槌を打ってショットグラスの中身を呷り、クリストファーはジルベルトに新しく酒を満たしたグラスと続きを促す。
「私達三人は、本物がスカウトしに来た訳ではない。彼らは願い、委ねただろうが、クリストファー・コナーはともかく、ジルベルト・ダーガとニコル・ミレットは呪いの儀式も知らない。少なくとも、その二人が魂を対価にしても叶えたい『願い』を聞き届けたのは、『ナニか』ではないだろう」
「うわ、俺だけヤバそうな転生してるかも?」
「いや、お前もさっき言ってただろう。クリストファーの本質は、破滅させる力への悦びだ。他人が呪いで破滅するよう誘導して見物しても、自分の魂をヤバそうな相手に捧げたと思うか?」
「あー。その辺は俺と同質だろうから絶対ねぇな」
「私もそう思うぞ」
力強く同意され、クリストファーは複雑な面持ちでショットグラスを空にした。性格の悪さを、「よく知っているぞ!」と前世の母親に肯定的に宣言されたようなものだ。
「偶然にしては、エリカも含めて四人とも『本質はよく似ている』魂が転生させられている。転生、もしくは『やり直し』では、器に合う魂を入れることも条件なのかもしれない」
「本人の魂そのままでやり直すなら、最初から器には適合するだろうが、魂を対価で払っちまえば、空の器に同じ世界から他人の魂を引っ張って来るのはアウトだよな。過不足があれば同じ世界の同じ時間には戻れねぇだろうし」
「身代わりにする魂は、異世界から連れて来る必要があるのかもな。エリカは自分で探し当てたようだが、我々を選んだのは別口だろう。どちらの存在が願いを叶えて巻き戻りを成功させたのかは分からないが、我々が選ばれた理由は、何となく分かった」
クリストファーと話してみれば、漠然とした輪郭だった『彼らの願い』が、はっきりと見えるようになった。
ジルベルトは、手の中の空のグラスを指でくるりと弄ぶと、濃紫を紺色の瞳にひたりと合わせた。
「我々は、彼らが『なりたかった自分』だ。その願いを叶えたのは、妖精だと思う」
ふわりと、緑の長い髪がジルベルトの手元で翻った。
妖精が、ジルベルトの膝の上で微笑んでいた。
登場する毒薬の名称や効果等は架空のものです。