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ヤンデレショタ

ゲイを自認する人物が出てきますが、同性愛を揶揄する意図はありません。


 クリソプレーズ王国、国王の下にて暗部を司るコナー公爵家では数日前に第三子となる次男が生まれたばかりだった。

 赤ん坊の名前はクリストファー。まだ目は開かないが水色の髪の色白な男児である。

 クリストファーは目が開かないのを幸いに、脳裏を駆け巡る膨大な前世の記憶をこの身体に馴染ませるべく何度も反芻していた。


(何だコレ、異世界転生ってやつか? 魔法ありのファンタジー世界は心躍るが、周りから聞こえてくる話がヤバ過ぎるだろ。お貴族様とか大金持ちとかいらないから暗殺とか物騒な謀略を赤子の前で垂れ流さない家に生まれたかったよ! いくら前世の死因が物騒だからって転生先まで物騒要素引きずらないでくれ!)


 前世、現代日本で中年と呼べる年齢まで生きて死んだクリストファーの死因は殺人だった。

 某有名大企業の営業職で、三十代で課長、四十手前で部長と出世街道を走っていた彼は、「優良物件」として女性達に狙われつつも独身を貫いていたのだが、期待を持たせないよう分かりやすくお断りしても諦めないのがストーカーという犯罪者だ。ある日の出勤途中、駅のホームでストーカー女の一人に突き落とされて殺された。

 比較的平和な現代日本においては珍しい死因だろう。


(望んでない、こういう物語要素は望んでないぞ! 俺が何したって言うんだよ! 高給取りの男が独身なのがそんなに罪か⁉ しょうがないだろ、俺はゲイなんだから!)


 クリストファーは前世でゲイであることを母親と妹にはカミングアウトしていたが、大っぴらに公言していたわけではない。

 たまに同性の恋人がいることはあったが、恋人には素性は隠して付き合っていた。もし殺されるなら恋人から隠し事を恨まれての方がまだしも納得できた。

 だが前世の彼を殺したのは、付き合えないし結婚もできないと何度もお断りした女性だった。殺される直前に思ったことは、「母さんと妹以外の女は滅びろ! 二人とももう死んでるけどな!」だった。物騒な家に転生して、今生益々女性嫌いに拍車がかかっている。


 目が開くようになっても、クリストファーは赤ん坊の立場を利用して一日の大半を目を閉じて過ごし聞き耳を立てていた。

 そして冷や汗がダラダラと流れる。赤ん坊は汗をかくものだから怪しまれてはいないが、クリストファーは内心でそれはもう焦りまくっていた。


(ちょっと待てよ。一致部分が多すぎるぞ。俺、「妖精さんにおねがい♡〜みんな私を好きになる〜」とかいうフザけたタイトルの乙女ゲーの、よりによってヤンデレショタ枠のクリストファー・コナーじゃねぇか‼)


 記憶を辿れば結構鮮明に思い出せる、前世で唯一研究した乙女ゲーム。

 研究した理由は、入院中の母が攻略が進まないと相談してきたからだ。妹が見舞いで暇潰しとして母に渡したそのゲームは、フザけたタイトルとは別にゲーム性は高く全ルートのクリアは中々難しかったのだ。

 見舞いに行っては妹と三人で頭を突き合わせ、ああでもないこうでもないと条件クリアを目指し新たなルートを開いていった。

 そんなゲームの世界と、どうやら自分の転生先がピッタリ一致しているらしいことに気が付いてしまった。


 クリソプレーズ王国の暗部を司るコナー公爵家。その家の次男で兄と姉がいる。自分の名前はクリストファー。

 国王に忠誠を誓うコナー公爵は、次期国王として第一王子のエリオットを推している。理由は同盟国の王女と婚約しているから。ゲームには出てこないエピソードだが、王位を継ぐ者は必ず同盟国の王族の姫を妃にしなくてはならないらしい。

 第二王子のアンドレアには、エリオットと同盟国の王女との婚姻が無事に済むまで婚約者は定めないと大人達が話していた。この辺がゲームの状況に繋がるようだ。

 ゲームはヒロインが貴族学院に編入する時がスタートだが、当時17歳のアンドレア王子に婚約者は無く、アンドレアルートの悪役令嬢は婚約者候補でしかなかった。

 中途半端な設定だと前世のクリストファーは思っていたが、第一王子のスペアであることが一番の存在意義である第二王子は、第一王子に何かあった場合の同盟維持のために婚約者を持つわけにはいかなかったのだ。


(実情を知ると俺様王子キャラにも多少は同情するな。生まれた時から何もかもを第一王子優先で人生を決められ、スペアとしてしか扱われないんじゃ、ヒロインから貴方がナンバーワンだのオンリーワンだの擽られたらガキなら堕ちるかもなぁ。)


 多少の同情だけで、この先学院で会っても手を差し伸べるつもりは毛頭ないのだが。

 どっちにしろ、状況を分析する限り、クリストファーは前世で研究した乙女ゲームに酷似した世界で攻略対象の一人に転生しているのだ。画面の外から見ている傍観者の立場には戻れない。

 この世界を現実として生きるなら、物騒な家に生まれてしまった者として見合う力を身につけるべく努力しなければならない。

 そう結論づけ開き直ったクリストファーは、やや賢そうな赤ん坊に擬態すると開いた紺色の瞳を少し細めて自分を覗き込む兄に向かって笑った。

 水色の髪に空色の瞳の少年がビクリと顔を引き攣らせてのけ反った。


(怯えるなよ。失礼な。)


 そう言えば、ゲームの設定では兄より明らかに優れているのに跡継ぎになれないことで闇を抱えたヤンデレだったっけ。

 思い出してクリストファーは、こんな家に生まれながら軟弱そうな兄をどうやって鍛えてやろうかと策謀を巡らせた。

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