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図書館と辞典の調査結果・後

「実は、青い駒の位置についてですが、調査の結果、浮き上がって来た疑惑は『古代王国に特殊な由来を持つ植物』に関するものではないのです」


 バダックの淹れた辛味の強いスッキリとしたハーブティーで頭と気分をリフレッシュさせ、調査報告会を再開させて直ぐ、申し訳無さそうに眉を下げてネイサンが切り出した。


「古い不穏な謂れのある不毛の地に自生する稀少な植物、その条件に絞って調査の取っ掛かりとするならば、現在何れかの国の所有となっている土地ならば、法で縛られた禁足地となっている可能性が高いのではと考えたのが、禁足地をピックアップした理由です」


 ネイサンが先に、様々な国で国法によって禁足地となっている土地の位置を調べ出した理由を述べた後、モーリスが始めた調査の経緯を続ける。


「とは言え、石の名前を戴いた国が法で定めた禁足地の情報を集める行為は、障りがあります。敵対行為に見られかねませんからね。ですから、禁足地のピックアップ後、調査の手を付けたのは小国と、それと同等の国家的集団が所有を主張する地域の『禁足地』でした」


「禁足地と定められた土地ですが、その理由を、公表する法典に明示していない国も多いです。また、少なくとも建国から三百年から五百年は歴史のある石の名前を戴く国とは異なり、現存する小国やそれに類する集団は、歴史が百年を越えるものが無い」


「ですので、小国らの禁足地に関しては、古い資料を調べるだけで、現在それらが禁足地と定めている場所が、過去に別の国の領土だった時期、どのように扱われていた場所であるのか、時代と所有する国家による変遷を比較することが可能でした」


「その結果から、古代王国滅亡時期以降に『神々の怒りに触れた地』となったことが明確であり、それが、国が禁足地と定めた理由だと思われる位置の駒を地図上から外します。

 今以上の神の怒りを怖れ、妄りに人間が立ち入って土地を荒らさないよう国が禁足地と定めることは、国家君主として常識とも言えますから。

 理由が同様であると明確な、石の名前を戴く国の禁足地の駒も外します」


 青い色の駒が次々と地図上から外へ下げられ、数は最初の半分以下となった。

 それでも、石の名前を戴く国も含め、まだ多く残る。


「残った青い駒の位置、石の名前を戴く国以外の禁足地について調べる内に、妙な引っ掛かりを覚え、原因を詳細に探ってみたところ、禁足地と定められた場所同士のアクセスが、妙に良さそうな箇所が散見されることに気付きました」


「ほう」


 黙って耳を傾けていたアンドレアの双眸が、鋭く眇められた。

 どうにも、キナ臭い情報だ。


「気になったので、現在は滅びた小国達の禁足地の場所、禁足地であった時期も洗い直しました。すると、やはり重なる期間に『禁足地』同士が、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()に、非常に適した位置取りになっている箇所が複数見つかったのです」


「ある程度の物資とは?」


「一個小隊が自分達で運べる程度は。それも馬付きで、ですね。過去の戦で亡国の補給路として使用されていた道が在った場所、百年以上前に栄えていた小国同士を結ぶ、現在は廃されている筈の街道だった場所。そのような、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()使()()()()()()()()()で結ばれた『禁足地』が、現存する国以外の禁足地同士にも見当たりました」


 ネイサンの説明に合わせ、モーリスが、不審な点のある小国の禁足地の青い駒を、黒い駒に置き換える。


「これら黒い駒の場所は、国の名前や元首が変わっても『禁足地』であることが変わっていないのです」


「何だと⁉」


「この、()()()()()が、いつの時期からのことなのか、再度調べ直したところ」


 モーリスが、共に調査に当たったネイサンと視線を交わし、落ち着かせる間を置くように一拍の間、息を吸って吐き、重い事実を告げる。


「自称帝国が、帝国を自称するようになった時期と重なります」


 執務室内に息を飲む音が幾つか。

 けれど、声は発されない沈黙。


 空間の緊張感が、弥増す。


「とんでもない、()()が浮上したな」


 沈黙を破ったのは、執務室の主であるアンドレア。


「はい。まさか、そんな所に繋がるとは」


 応じるモーリス。


 浮上した疑惑に伴われ、嫌な感じの懸念も湧き出して来る。


 自称帝国が帝国を自称するまでに領土を広げ、国力を増したのは、元となる国が古代王国の王廟の真上に存在したことで、其処でしか採取出来ない特殊な植物を使い、古代王家の墳墓を暴いて『儀式に必要な材料』を入手し、(まじな)いを行使して周辺国に攻撃を仕掛け、併呑したからだ。


 通説では「自称帝国が生み出した」とされる、『(まじな)い』という邪法の原初は、実のところ、開発者も開発された時代も真実は解明されていない。

 ただ、彼の国が帝国を自称するまでに領土を拡大した方法が『呪い』だった為に、『呪い=自称帝国』の図式が出来上がっている。


 (まじな)いの儀式と古代王国との関係は、儀式に必要な材料の中に「古代王家の墓を暴かなければ手に入らないモノ」が有るのだから、当然のものとして認められる。


 古代王国には、数々の()()から、現代人の知る『(まじな)い』ではない、現代までは伝わらず消失している何らかの『邪法』の存在が疑われている。


 何故ならば、禁術ではあるが現代まで残っている『(まじな)い』には、個人を対象とした「魅了」や「精神操作」、「死」や「病」を与えるモノまであるが、広域支配のような効果を齎すモノが見当たらないからだ。


 古代王国の王家や王族による「如何に人民を消費出来るかで権力と威光を示す」行為の回数と犠牲者の人数を数えれば、()()()()()のみで臣民を抑え続けられたとは信じ難い。


「『魔導兵器』と『カギグルマ草』と『シオミチ草』の話だけでも、古代王家が革命やらクーデターで、とっとと滅しなかった事情が怪しいんだよなぁ。『魔導具』でアホみたいに()()しても揺らがない人口の規模を考えても」


「信仰を説くような形で洗脳教育を広く国民に敷いたとしても、人の感情は自意識を保っている限りは完全には縛れません。(まじな)いには存在しない、『範囲内の全対象を隷属』のような邪法が、国全体に効果を及ぼしていたなら、とは思いますが」


「尤も、そんな邪法が残っていたら、とっくに自称帝国は行使しているだろうからな。古代王国時代には存在していたのでは、という疑念はあるが、今ソレが使える形で残っているかどうかは、・・・どうだろうな」


 現時点で、自称帝国が『効果範囲が広く効果が強力な邪法』を使用している気配は無い。

 対象が個別であり、しかも互いに個人を認識している必要もある『(まじな)い』の多用は確認されているが、他の『人智を超えた未知の力』を使った形跡は無いのだ。


 だが、古代王国の『魔導具』の()()()()を考えれば、自称帝国が古代王国の『邪法』を既に手にしていても、()()が足りずに行使出来ていないだけなのでは・・・。


 そんな懸念が、アンドレアの眉間のシワを深くする。


「情報の揃わない今、これ以上この話を掘り下げても空論だ。話を黒い駒に戻そう」


「はい」


 一度軽く頭を下げて、モーリスがネイサンに目配せをした。

 頷いてネイサンが、地図上の青い駒の幾つか──石の名前を戴く国の、比較的黒い駒と近い位置に置かれていた物を、灰色の駒と置き換える。


「今、灰色の駒に置き換えた、石の名前を戴く国の禁足地は、禁足地と定められた発令が為されたのが、これら各国の王が現在王位についている人物になってから。

 そして、黒い駒の『禁足地』と、現在は廃された古い街道や、放棄された廃坑道、危険だからと封鎖されている()()()()()()などを通り、それなりの物資付きの一個小隊が往来可能な場所になります」


「また、とんでもない疑惑が追加されたな」


 同盟国ではないが、石の名前を戴く国は、『神の御業』の奇跡で正しい血統を繋ぐ王家の王国だ。


 そんな、『神の奇跡』によって血を守られている国の王が、神を畏れず、人の身でありながら「我を神として崇めよ」などと宣う自称皇族の統治する国である、自称帝国へ利益供与を行っている疑い。


 吐く息は苦く、重い溜め息になる。


「金か。まぁ、金だろうな。国家主導で犯罪行為に躊躇の無い自称帝国は、『玄関口』から出入りして大陸中に散らばり、様々な犯罪行為で荒稼ぎしていたという話だ。

 我が国の急激な経済成長に焦りを覚えた、同規模の国力だった国々の中には、対抗心や臣下の煽りから、後ろ暗い金策に走っている国家もあるという情報も掴んでいる」


「出処の怪しい金でも、金は金ですからね。

 人手が足りず、裏は取れていませんから、疑惑の域を出ていませんが、『禁足地』について調べた結果は今のところ以上となります」


「ああ、ご苦労だった。少し考えを纏める。一旦解散」


「「「「「御意」」」」」





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