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それは気になる

 今回は短めです。


「それは気になるな」


 クリソプレーズ王城、第二王子執務室。ジルベルトの報告を聞いて、アンドレアは「ふむ」と顎に右手を添えながら言った。


 クリストファーからの呼び出しでジルベルトが聞かされた話は、要するに「古代王国由来の特殊な植物が、現代の世に於いては世界の理から逸脱した何らかの効果を齎す可能性の示唆」である。


 現在、(まじな)い関連の案件は殆どが第二王子執務室へ回されて来ている。


 (まじな)いも、加護を得た妖精の力を借りて行う『魔法』という「世界の理の内」で現せる事象とは異なるモノでありながら、まるで『未知の魔法』のように、人間の分限を超えた事象を起こす力だ。

 そして、クリソプレーズ王家が保管する禁書にて把握している呪いの儀式には、どれもメジャーとは言えない植物が必須である。


 アンドレアとしては、非常に気になるし、全力で掘り下げるべきネタだと感じられる。


「モーリス、ネイサン、調べろ」


「「御意」」


 明言が「調べろ」の一言だけでも、第二王子執務室には主君の指示を読み違えるメンバーなど在籍していない。


 次代の実権者として、国王から更に権限を増やして与えられたアンドレアは、今後自身と側近達が当たらねばならないであろう案件の種類を予測し、側近達にはクリソプレーズ王家が把握する(まじな)いについて、所蔵する禁書と同等の内容を開示して共有している。


 アンドレアがモーリスとネイサンに求めたのは、それらの知識を元に、膨大な書籍や資料等から、各儀式に使用される植物の由来と古代王国との関係を調べることだ。

 この二人を組ませれば、その手の作業は最速で最高のレポートが上がって来ることを、アンドレアは経験上知っている。


「ハロルド、軍部からの報告は?」


「はっ。他国からの式典の来賓は、同盟各国の方々については現在全員が出国。入国から出国まで不審点無し」


「まぁ、この時期に同盟国の名でこの式典に来て、不審点を晒す無能をを連れ込むような愚王が()()()()()幸いだったよな。で?」


「ニコル・ミレット嬢と単純な接触を試みようとした者達のリストがこちら。ニコル・ミレット嬢の拉致または暗殺、または既成事実作成を企図した者達のリストがこちらです。それぞれ、出身国、所属する国または組織、()()()()()()を記載しています」


「ああ、やはり二重スパイも居たか」


「半分以上が()()でした」


 国外から招いた来賓も大勢入国し、大規模な慶事の式典とあって、経済効果の大きな機運に乗ろうと来国する商人も激増し、通常時に比べ観光客の数も膨れ上がった今回のクリソプレーズ王国第一王子エリオットの成婚と立太子の祝典は、テロリストや工作員や間諜にとっても()()()だった。


 それを見越し、本人の承諾を得て、各国の間諜共に「ニコル・ミレットがお忍びで店舗視察に訪れる日時」の情報を流していたのだ。

 当然、流した情報はガセだ。本人は厳重に、王宮以上のセキュリティを誇る自邸にて護られていた。


 これ以上は無いほど最高の囮であるニコルは、その名前だけで、ガッポガッポとクリソプレーズ王国へ喧嘩を売る輩どもを釣り上げた。

 騎士団と兵団に専用チームを作って事に当たっておいて正解だったと、アンドレアは心から思う。

 ハロルドが渡して来たリストは、どちらも相当に分厚い。


「二重以上も結構居るな」


「リストに挙げられた小国は全てですね。どれも国内に問題を抱える金欠国家なんで、間諜への報酬をケチった結果、何股も掛けられてるという印象です」


「ミレット嬢を手に入れたら国の問題が全て解決、なんて事は有り得ないのにな。他は」


「これは、ニコル・ミレット嬢狙い以外で不審な動きが見られた、他国からの参列者のリストです。こちらは同様の国内からの参列者リストですが、このリストに関しては騎士団で抱える案件となりますので、うちは目を通すだけで。コナー家が対応していた方面は、レアンドロ団長も未確認だそうです」


「分かった。バダック、祭儀部からは?」


「本日夕刻以降に、祭儀部まで()()()を取りに来て欲しいとのことでした。日没を確認後、行って参ります」


 祭儀部の『案内状』は、「死罪相当の容疑者の自白を記載した報告書」の隠語である。

 時間指定があると言うことは、既に自白は取れているが報告書は未完成なのだろう。


 コナー家の対応範囲は広く、城下の一般人に紛れたプロの捜索、発見後は監視、または捕獲か殲滅の任務に当たっていた。

 『案内状』の量と内容は未だ分からないが、死罪相当の犯罪者が網に掛かっていたことまでは確定だ。

 通常時とは比べるべくも無く治安が悪い。


 祭りの灯火で炙り出された『潜在敵国』の数は、想定を超える。


 頭の痛い話だが、これも、クリソプレーズ王国が飛躍的に国力を増進する強大国として多くの国々から注目を浴びているからである。

 ならば、アンドレアはクリソプレーズ王国の王族として、自国を誇りつつ、鮮やかに事を収める技量をも、目を向けられた諸外国へ見せつけなければならない。


「ハロルドは、そのまま軍部との連携を任せる。バダックは『案内状』の受け取り時に『葬花カタログの返還』も頼む」


「「御意」」


 祭儀部への『葬花カタログの返還』も、隠語だ。

 葬式花のカタログのように装丁された大型書籍は、中に通常の書類サイズにくり抜かれた空間がある。そこに、祭儀部へ回すには不自然な書類を収納して「返還」するのだ。


 原始的な手法だが、細工したカタログを奪われずに届けられる人物が持ち運ぶならば、原始的だからこそ便利で使い勝手が良い。

 バダックならば、実力行使の相手でも身分を盾に奪わんとする相手でも、往なすなり排除するなりで無事に届けられる。


 本人は、それらを可能にしている自身の技術と才覚を「執事の嗜み」だと思い込んでいるが、確実に違うだろ、と毎度アンドレアは胸の中で思っている。


「ジル、外務部からは」


「今回の来国を機に、()()()()()()()があった国のリストが本日中に当執務室に届けられるそうです。リストの作成は外務大臣自らが手掛けているそうなので、実際の交渉内容の他、()()()()の推察、推察の裏付けや根拠となる明確な資料、くらいまでは記載か添付があるものと思われます」


「『毒針』自ら手掛けたリストか。お宝だな。祭儀部の『案内状』と外務部からのリストが揃ったら全メンバーでのミーティングを行う」


「「「「「御意」」」」」


「各自、職務遂行。俺は()()()()()()を陛下に報告に行く。ジルベルト、国王執務室へ護衛」


「御意」





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