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言い訳

 アンドレアを呼び出す言伝を携えて来た国王の侍従長に案内されたのは、国王執務室ではなくジュリアンの私室だった。

 アンドレアが伴う護衛はジルベルトのみ。


 これから聞かされる話を想像すれば、アンドレアへの友情や忠誠心から反射で感情を表出しかねないハロルドではなく、老獪な狐狸共をして、「何を考えているか分からん」と言わしめる静かな微笑を貼り付けたジルベルトの方が適している。

 それに、もし『最悪の万が一』があった場合でも、ハロルドよりジルベルトの方が攻撃においても防御においても上だ。


「忙しい中、呼び出して済まなかったな」


 リビングスペースのソファで寛いだ風のジュリアンが、視界に入った息子(アンドレア)を親しげに手招きする。

 執務室ではなく私室に案内されたことから予想は付いていたが、()()()()()()()()()()と、内心嘆息してアンドレアは招かれるままにソファに近付く。


()()()の耳に入れておきたい話があるんですね?」


 この場の会話は私的なもの。

 アンドレアがそれを受け入れた態度を取れば、ジュリアンは嬉しそうに、そして面白そうに笑って座るよう手で示した。

 アンドレアがジュリアンの向かいのソファに座り、ジルベルトがその斜め後ろに立つのを見て鷹揚に頷く。


「ああ。私が公の立場のまま()()()などするわけにはいかないだろう?」


「父上は()()()がなさりたいと?」


「有能な息子に胸の内で失望されたくはないからね。それに、『王子が国王に』は訊けなくても、『息子が父親に』ならば、ぶつけて解消しておける不安や不審点もあるんじゃないかなと思ってね。今回の件は、少々事が大きくなり過ぎている。王太子教育を受けていない学生王子に、教育の一環だと小出しの情報で丸投げする範疇を超えてしまった」


 教育の一環で、小出しの情報で丸投げ。

 ハロルドを連れて来なくて良かった。アンドレアは顔が引き攣りそうになる心情を綺麗に隠し、「なるほど」と爽やかに微笑むに留めた。


 ジュリアンは手ずから新しくワインを開栓してグラスに注ぎ、アンドレアに一つ差し出して先に口を付ける。

 側に控える侍従に毒見さえさせないその態度に、アンドレアは、また手のひらの上で転がされる予感と敗北感と諦念を複雑に混ぜながら、腹を括った。

 差し出されたワインは、当然躊躇う態度など微塵も無く口に含んで飲み込む。


 ジュリアンは、アンドレアを害する心積もりで私室に呼び出したのではない。

 本より、それは『最悪の万が一』であり、可能性はほぼ無いものと考えていた。


 執務室ではなく私室に招き、寛いだ態度を取って私的な言葉遣いで話しかけ、侍従の手を介さず持て成す意向を見せ、身分が上の自分から毒見を外して酒を酌み交わすことで、「互いに腹を割り本音で語る」場とすることを言外に示してこちら(アンドレア)にも要求したジュリアンの本気は、受けて立つ以外の選択肢が存在しない。

 これから聞かされる話は、頭痛と胃痛を増強して激務に拍車をかけるものだと、内容は分からずとも聞く前から断定出来ているが。


 毒見無しでワインを飲み込んだアンドレアを満足そうに見遣って、ジュリアンは侍従長を部屋から下がらせた。

 部屋の中には、ジュリアンとジュリアンの専属護衛の一人、アンドレアとジルベルトのみとなる。

 グラスをテーブルに置いて、ジュリアンは口を開く。


「先に言っておく。モスアゲート以外の同盟各国の最終結論が出た」


「早いですね。彼の国は元から疑われていたのでしょうか」


 モスアゲートが国ぐるみで同盟を裏切っている、としか言えない状況である。

 その情報をジュリアンへ上げたのは、リオの報告書を手に入れてからだ。まだ一両日経過していない。


「いや。どの国も戦後は期間の差はあれど動乱期が続き、自国の問題処理と復興で手一杯だった。自国の裏切り者には目を光らせたが、裏切りの制裁が抑止力になる筈の他国までは人員を割く余裕など無かった。まさか、同盟締結の最初から三人も王が代わっていながら一貴族が裏切り続けていられるとは、()()()()()考えてもいなかったよ」


 皮肉だ。

 モスアゲート以外の同盟国の王は、「有り得ないことだから」考えていなかった。

 モスアゲートの王は、当時から現代まで、自分で考えることをしない王が血を繋いでいる。


「どうも、自称帝国はモスアゲートを玄関口として()に稼ぎに出ていても、同盟国への入国は最低限に絞っていたらしい。モスアゲートは、うち(クリソプレーズ)とパイライト、自称帝国の他に、複数の小国とも接地している。恐らく、人や物の流れはそちらが主流だろう。

 十年前、騎士団長だったランディを奸臣が自称帝国と密通して陥れようとしただろう? あの時の熾烈を極めた自称帝国工作員狩りが尾を引いて、未だに我が国、特に王都とその周辺は、奴らにとって鬼門扱いだったしね。

 自称帝国に潜伏させた我が国の間諜にも動きが見えぬほど、情報は制限され、人員も限られていたようだ」


「小国の先は同盟とも関わり無く、先の自称帝国との戦にも参戦していない王国へ抜けられますね。小国の先がクンツァイト王国、クンツァイト王国を抜ければ同盟国を外側から迂回してプレナイト王国。また小国が点在する地域と山を超えればブロンザイト王国。地図上は近隣国でも、対自称帝国同盟国以外で自称帝国を特別に警戒する国はありません。人員を制限しても、()()は、しやすかったでしょう」


「我が国を含む同盟国内で発見される自称帝国の人間は、()()()()()()()()()()()()の存在を疑うような数では無かった。そして、其れらは何も知らされていなかった。完全に裏をかかれていたよ。国ぐるみの裏切りでもなければ不可能な状態でありながら、モスアゲートが国として()()()している気配も全く無かったしね」


「アルロ公爵は国益のために動いてる貴族ではなかったようですから」


「そこなんだよねぇ」


 頭が痛い、と言うように、ジュリアンが片手で額を押さえて溜め息を吐く。

 アンドレアはここがタイミングと見て、意を決してジュリアンに問いかけた。


「父上は、モスアゲートに留学なさっていましたよね」


「ああ。そうだね」


「父上は、・・・()()()()になりませんでしたか?」


 問いかける相手が『国王』ならば、この国の誰もが問えない内容である。

 そして、アンドレアの胸の内に良くない感情の種を発芽させる『疑問』だった。

 おそらくジュリアンは、リオの報告書を得て直ぐに、()()()()アンドレアにどう思われるのかを察し、この場を設けた。本当に、敵わない。


「そうだね。じゃあ、私の『言い訳』を聞いてもらおうかな」


 我が意を得たりとばかりに語られた『言い訳』は、「そのツケをこちらに回さないでくれ」と心底思うが、内容自体は「まぁ、そうだろうな」と納得せざるを得ないものだった。


 ジュリアンのモスアゲート留学は、「最長三ヶ月」と期間が決められていた。立太子確実な第一王子なのだから、当然とも言える。

 戦後動乱期が安定して間もないような時代に、次期国王を他国に数ヶ月も出した決断に驚いたくらいなのだ。


 しかし、ジュリアンは先王の『課題』をクリアする為モスアゲートへ赴いた。

 最長三ヶ月と決められた期間で、自分(ジュリアン)と同じ時代に王となるニコラスを見極め、対策を講じなければならなかった。


 クリソプレーズ王国の抱える『負の遺産』を理解して、ニコラスの資質を見極めたジュリアンが講じた策は、「自国(クリソプレーズ)に『負の遺産』を清算する好機が来るまで、次代の王(ニコラス)に紐を付けて、貸しのある隣国(クリソプレーズ)に寄り掛からねばならなくなるような問題を起こさせないよう、監視と操作をすること」だった。

 物理的に接近出来た僅か三ヶ月の間で、よくもあれだけ完璧に操縦を許すほど誑し込めたものだと、寧ろ感心する。


 三ヶ月の期間いっぱい、ジュリアンは能う限りニコラスと共に過ごした。

 その為、留学中のジュリアンは、モスアゲートの学院と王宮の馬車での往復以外の景色をほぼ見ていない。

 自称帝国の工作員が「目に付くほどの数で普通に紛れいていた」のは、通常、王侯貴族が通るようなルート上ではない。

 長く王都に滞在したとしても、お忍びで下町や平民街にでも出入りしなければ、目に付くことは無い地区の話だ。


 まず一つ。

 モスアゲート王国の王都に在る貴族学院に留学していたジュリアンが、王都に目に付くほど紛れ込んでいた自称帝国の工作員の存在に気付かなかったことは、責められることではないのだと、アンドレアはスッキリと消化した。


 尤も、この点については最初から、ジュリアンが当時気付かなかったことに不満を持つ気持ちは、殆ど無かった。

 何故なら、モスアゲート王都の自称帝国工作員潜伏にクリソプレーズ王国の要人が気付かなかったのは、ジュリアン留学の時だけではないのだ。


 恐ろしく観察眼の鋭い『毒針』外務大臣ダーガ侯爵も、外交官時代から何度もモスアゲート王都を仕事で訪れているが、「暗部の人間だろうね」と感じる者が彷徨いていることに勘付いていても、自称帝国工作員と疑わしき者は見かけた事が無いそうだ。


 今まで、クリソプレーズから()()()()()()()()()使()()が、モスアゲート王都で自称帝国工作員と疑わしき人物を目撃した記録が一度も無い。


 これは、流石におかしいだろう。


 イェルトの感想だけでなく、()()に交代したコナー家の『仮面』の実感でも、モスアゲート王都には、現在も多くの自称帝国工作員が住民に紛れて生活しているのだ。

 同盟締結から現代まで、クリソプレーズ王国からモスアゲート王国の王都を訪れた全ての王族や貴族が、「節穴の目を持つ無能」であったとは考えられない。

 意図的に隠されていた、と見るべきだろう。であれば、「意図的に隠していた」ことを知らずには、気付きようが無い。


 自称帝国工作員の後ろには、アルロ公爵が居た。同盟国の王族貴族の公式な訪問予定など、公爵から筒抜けだっただろう。

 予定が分かれば、その間は身を隠すなり、モスアゲートから離れるなりすれば良い。

 アルロ公爵が予定を把握していない私的な来訪だったとしても、国境を超える時には身分証を提示するのだから、奴らにとっての『要注意人物』が入国したら即、王都に伝令を飛ばせば、それに応じて()()()()、自称帝国工作員が身を隠すのは難しくないだろう。


 この自称帝国工作員の王都潜伏という事実の隠蔽は、『国ぐるみ』の状態だからこそ可能な遣り口である。

 隠蔽に気付くには、『国ぐるみで同盟を裏切っている』状態であることに、先ずは気付く必要があった。


 こちらにとっては、そこが思考の落とし穴だった。


 ()()()()()同盟を裏切り敵国と通じている状態。

 モスアゲート王国の現状は、そうとしか言えない。

 だが、その手の事を起こしている()に現れる状況が、モスアゲートからは見出せていなかった。


 注意を引くほどの国力の増強も衰退も無く、同盟切り崩し工作をするでもなく、同盟国への水面下での経済・武力による攻撃も無く、介入が必要なほどの治安悪化や国民への搾取も見当たらない。

 実状は『国ぐるみでの同盟裏切り』でありながら、()()()善からぬ事を企んでいる様子も窺えず、王族への利益還元が皆無であり、同盟国との会談の場でも、モスアゲート王国からの出席者に自称帝国との密通を疑わせる者が居た事も無い。

 因みに、アルロ公爵は会談に列席したことが無い。


 同盟裏切りの規模が『国ぐるみ』であることが、モスアゲート以外の同盟各国の見落としに繋がった。

 ()()()()()()()()()()()が実現されてしまったことで、経験豊富な各国首脳陣の思考の外になったのだ。


 何しろ、犯した罪が『国ぐるみ』の状況でありながら、主犯が国王どころか王族ですらない。

 たかだか数十年前に陞爵して公爵家になった一貴族で、「元王族」ですらなかった。


 そして、その、『国ぐるみでの同盟裏切り』の主犯たるアルロ公爵にしても、自称帝国と通じて密輸や人身売買で財を築き、モスアゲート国内で権力を(ほしいまま)にしておきながら、権力闘争に(まじな)いを用いるでもなく、戦争やクーデターに備えて武器を蓄えるでもなく、世論を「同盟解消」や「侵略による国土拡大」へ導くでもない。

 これでは、わざわざ手を組む相手に自称帝国を選んだ意味が見えないのだ。


 ただ、権力を増す為に非合法な手段で大金を稼ぎたくて、外道な犯罪行為に馴染んだ駒が欲しいだけならば、何も国の存亡の危機となる道を選ばずとも、他に遣り様は幾らもあった筈。

 制裁の条件等も盛り込まれた同盟国間の条約が存在するのだから、アルロ公爵が主犯となっている『国ぐるみでの同盟裏切り』の現状が招く結果は、「国の滅亡」又は「現王家の解体」又は「現政権の粛清による政権交代」だ。

 それを考えれば、アルロ公爵を『政治犯』と捉えたくもなるが、実際にはアルロ公爵の犯行目的には政治的なものが無い。


 その為、一国の『統治者』として能力や責任感を有するほど、現況は理解不能であり、見える現況と目的から遡って『共犯は自称帝国』というゴールに辿り着く想像を遮断した。


 王国最大の政治派閥首領の公爵家当主という権力者が、()()()()()()()()()()()、『政治犯』でもなければ手を出さないような罪を犯し、国の王侯貴族一丸となって協力体制を敷いている訳でも無いのに、それを王が三代も代替わりしている間、同盟裏切りで築いた巨万の富を分配されている訳でも無いのに、どの国王も他の貴族達も、阻まず、諌めず、どころか気付かず、放置で五十年以上だ。


 そんな状態で、何故か、不思議なことに、国家が()()()()()()()維持され続けていた。

 現実を目の当たりにしても、悪い夢か(たち)の悪い冗談に思えるという意見を、アンドレアも否定など出来なかった。

 それほど、有り得ない事象なのだ。

 規模が小さくはない国の維持や運営は、想像以上に易しいものではない。

 悪党の下に無能が集まって「王様と貴族ごっこ」をしていたら、何となく出来てました。なんてことは、有る筈が無く、有ってはならないのだ。


 アルロ公爵の父親、元アルロ侯爵である前アルロ公爵は、アルロ公爵よりも()()()()()()国賊だったと思われる。

 非常に権力欲が強く即物的で、物事を深く考えずに国家間の契約を軽視して、同盟の裏切りと敵国との密通で利益を上げようとしたのだろう。


 当時は、同盟を結んだどの国も国内がゴタついて、互いに他国の監視や干渉など「やってられない」時代だった。

 制裁の条件や内容だけを決め、「自国の不始末は(てめぇのケツは)自国で片付けろ(てめぇで拭け)」という、余裕の無い時代だ。


 そんな時代に、後先は考えず同盟裏切りを決行した前アルロ公爵と、自国の不始末を片付けられなかった当時のモスアゲート国王。


 同盟各国が一定の基準まで自国の安定を成し遂げた頃には、前アルロ公爵は故人となり、()()()()の常識では測れない現アルロ公爵が、モスアゲート王国を牛耳っていた。


 そして、モスアゲート以外の同盟各国が自国以外に目を向ける余裕が出来た頃には、『政治的な動機を持たない政治犯』という矛盾した存在が、国家とは関係無く私的に欲を満たそうとして、()()()()()()()()()自国を保全するという、訳の分からない現在の形式が完成していたのだ。


 しかも、ここ二十数年は、クリソプレーズ王国の秘匿する事情で、モスアゲート王国の『本来なら注目を浴びるほど王として無能な国王』が、『凡才だが問題無き王』として在位出来るほど上手く操られていたのだから、より一層、モスアゲートへの疑惑の目は不要だと逸らされた。


 同盟国への内政干渉を疑われるような行為は、どの国も特に気を付けて避けて来たのだ。

 『敵国』へ差し向けるような高レベルの間諜を送り込まないことも、暗黙の了解だった。モスアゲートからも各国に送り込まれていないことでも、モスアゲートに同盟維持の意思はあると見られていた。


 同盟裏切りが、『国主導』ではないのに『国ぐるみ』で実現していたなど、三世代も安定した王国が見えている状態で、「疑って気付け」と言う方が無茶だ。


 まぁ、納得、同意、モヤモヤ一つ消化、である。


 ジュリアンが、ニコラス王を『親友』として「真っ当な国王」であれるよう操縦していたことで、モスアゲートの同盟裏切りの発覚時期が遅れたことは確かだろうが、()()()『言い訳』など不要な事であると、アンドレアは考えている。

 クリソプレーズ王国の王族が、クリソプレーズ王国を護る為に行った事柄である。後ろめたい処など無い。

 当然、ジュリアンも、この点に関しては『言い訳』をしていない。


 ただ、アンドレアの胸中の一番重い「モヤモヤ」である、『ジュリアンが育てたニコラスの依存心』に関しては、ジュリアンも苦い顔をして、「あいつ(ニコラス)の依存心の肥大レベルを読み間違えた」と言った。


 まさか、何百年計画で『高度な王族・貴族教育が出来る教育者』が一人残らず排除されている状態だとは考えず、モスアゲート王族の()()()()()の深刻度を、軽く見積もっていたのだと言う。


 モスアゲートの貴族学院の教師や授業のレベルが、クリソプレーズより明らかに低い事には、留学して直ぐに気付いたが、元々貴族学院の意義は勉学より社交の実習の場という意味合いが強い。

 また、優秀な教育者は学院の教師よりも、高い名声や報酬が得られる王族や高位貴族の家庭教師の立場を求める事も少なくない。

 当時ジュリアンは、モスアゲートの学院のレベルの低さを、『国柄の差』の範疇と判断したそうだ。


 ニコラスに掛り切りにならず、視野を広げていれば、王族のニコラスだけでなく、学院入学前から各家庭で高度な教育を受けている筈の高位貴族の子供達まで、教育もしくは能力が『足りていない』ことに気付いたかもしれないが、「()()余裕が無かった」と言われれば、納得するしか無い。


 三ヶ月でモスアゲート王国次期国王を、完全な信頼を得るまで誑し込むなど、とんでもなくハードなミッションである。

 確かに、対象以外に意識も時間も能力も、割いている余裕は無い。


 他の情報も色々と上がってから客観視すれば、「気付かなかったのか?」と思うような事柄でも、当時の情報量で渦中に在れば、アンドレアも気付ける自信は無い。

 『後から』、『客観視』だから、「父上(ジュリアン)は有能なのだから、読めたのでは、気付けたのでは」という期待が湧いてしまったのだ。


 有能と万能は違う。


 いくら有能な人物でも、全てを最適な時期に見通せるものではない。そうあるよう、努力するだけである。


「まぁ、お前達の不眠不休を招いた元凶が私であることは、否定も言い訳も出来ないな」


 長い『言い訳』を、最後にそう締め括ったジュリアンに、胸に巣食うモヤモヤはすっかり消化したアンドレアは、引き攣りそうな頬を隠して「そうですか」と微笑みながら、内心でガックリと項垂れていた。



 次話投稿は、7月2日午前6時になります。


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