尊い血とは
ここから数話、ブラック企業の社畜並みに長いアンドレアの一日(=起床から仕事が終わるまで)で起きている話になります。
胸糞悪い犯罪の描写があります。ご注意ください。
イェルトとリオが持ち帰った「取って来ーい」の『土産』の重さに、アンドレアは感嘆の溜め息を吐いた。
クリストファーから深夜の私室に届けられた、リオの報告書を執務机にバサリと置いて、側近達にも見ることを促す。
事が大き過ぎるので、既にジュリアンにも同様の内容の報告書を渡してあった。
リオの初回のモスアゲート派遣の目的は、現在モスアゲート王族の教育係を務める数人の貴族の身辺調査だった。
その際、その貴族らが属する派閥の首領であるアルロ公爵周辺の情報も耳に入り、以前アルロ公爵が元ロペス公爵から購入した『商品』の帰国を知った。
『商品』達は平民の中でも下層の扱いを受ける者達だったことで、「リオ」の耳にも入ったが、残念ながら平民の身分での単身潜入では、教育係の貴族達の羽振りの良さや、平民相手の品の無い振舞い等の良くない評判といったものは幾らでも耳に入れど、貴族界隈への接触には限界があった。
今回の潜入調査では、リオは高位貴族の同伴者となり、前回は入り込めなかった場所へも大手を振って同行することが出来た。
貴族客限定の娼館や、貴族街の平民お断り高級店、貴族街に在る貴族の私有地ギリギリの区画や、厳めしい見張りだらけの大きな館の近くなどで、無邪気な振りをしたイェルトが傍若無人な質問を放ったり、好奇心いっぱいの行動で同伴者を翻弄する体で動き回り、イェルトの身分と個性ならではの反則的な情報収穫作業は、短期間で恐ろしい成果を挙げ、帰路で捕獲し尋問した『人買い』から聞き出した情報と合わせれば、速攻で有益な「モスアゲートの腐敗の根源を炙り出す素材」となった。
これで、現在モスアゲートを腐らせている病巣を、大きく切除する大義名分が手に入った。
モスアゲート側に残るクリソプレーズの負の遺産諸共、完全に地上から消し去ることが出来る。
「しかし、『尊血派』か。図々しい呼称だな」
アンドレアは、口許を皮肉げに歪める。
現在、モスアゲートの王族の教育係を担う人物は、分野別に四人居るが、全てがアルロ公爵率いる『尊血派』に属する家の貴族だ。
『尊血派』というのは、古くから存在するモスアゲートの政治派閥の一つであるが、現代では、「獣の特徴を持たない尊い血筋を何より大事にする」趣旨で集った派閥となっている。
趣旨を教導したのは、アルロ公爵である。
時代によって趣旨の変遷する『尊血派』は、忠誠心篤く勤勉な人物が中心となり王国を支えた時期もあったが、多くの時代に於いて、血統を根拠とした差別主義を正当化して違法行為を罷り通す、過激思想の組織として、モスアゲート王国以外の国では記録されている。
現在モスアゲート王族の教育係となっている四つの貴族家は、どの家も百年から百四十年ほど前までは、王族の教育に携わるどころか、モスアゲートの慣習では、未成年王族に直接拝謁する資格すら持たない家格だった。
これは、ジルベルトが外務部の禁帯出過去資料を精査することで抽出できた情報だ。
ジルベルトが外務部の資料庫に籠もって読み込んだ、約三百年分のモスアゲート貴族の爵位や役職の変遷記録は、クリストファーの抱いた疑念や、ダーガ侯爵の覚えた違和感を念頭に読み解けば、酷く胸糞の悪い隣国の闇の歴史に辿り着くものだった。
モスアゲート王国の国法では、三代続けて功績無き貴族家は、たとえ公爵家であっても例外を許さず、爵位の降格を王が命じることとなっている。
正しく運用されていれば、爵位に胡座をかいて無駄に禄を食む穀潰しを更迭出来る素晴らしい法だ。
だが、法律マニアのネイサンが言うには、立法時に致命的な条件の付け忘れをしているために、悪用し放題の悪法であるらしい。
言われてみれば、この法は、性善説の下にしか真っ当には成り立たないと、アンドレア達も気付いた。
この世界には、結構似たような中途半端な法が多いとネイサンから聞いたアンドレアは、速やかにクリソプレーズの法の中で「中途半端な法」を、解説付きでリストアップするようネイサンに求めた。
ネイサンは薄紅色の目を輝かせ、嬉々として宿題に取り組み中である。
さて、モスアゲート王国独自の「三代続けて功績無き貴族の降爵」という国法であるが、この法の最大の穴は、そこに「当主の在位期間や年齢」等の条件が設けられていないことだ。
事故や病によって短期間で急激な当主交代が行われ、慌ただしく三世代が移行した場合や、成人している後継者の資格を持つ者が居ない家で、幼子を当主に据えることを三代繰り返せば、功績など挙げられるものではない。
親子間で当主を継がず、当主急死の際に兄弟に継がせ、次々と不幸が続けば、親子間で当主を継ぐより更に短い期間で「三代」は終わる。
ジルベルトが外務部の資料庫に籠もって読み込んだ記録には、意図的にそのような状況を周囲から作られて爵位を落とし、要職を追われたと疑わしい家が幾つも在った。
その中には、建国当時から王族の教育係を担って来たとされる、モスアゲート建国王の王兄が興した公爵家も含まれている。
その公爵家は、男爵家まで落とされていた自称帝国との戦時中に、後継者を失い断絶していた。
外務部の資料によれば、王族の教育係を担う家の他、大臣職や軍の指揮官クラス、王立研究所のトップや貴族学院の学院長や理事等々、現在のモスアゲート王国の要職や、貴族に大きな影響を与えられる立場に在る者には、約三百年前にそうであった家の貴族は、一人も残されていない。
要職や影響力の強い立場に置く貴族の入れ替えが済んだと思われるのは、およそ百年前。
それ以降は、貴族の爵位の変遷が緩やかになり、それ迄のような、不自然なほどの勢いでの上下の入れ替わりが発生していない。
現アルロ公爵に限らず、モスアゲート王国の貴族は、百年単位で遡る大分昔から腐敗していたようだ。
クリストファーの疑念に一定の回答を用意できたと判断した後、ダーガ侯爵の違和感に焦点を合わせ、追加で取り寄せた資料と共に記録を読み込んだジルベルトは、要職に就く者の入れ替えだけではない、嫌な合致も見つけ出していた。
ダーガ侯爵がモスアゲートを訪国した際に、「おかしい」と感じたモスアゲート貴族親子の子供の年齢は、最年長の子で十六歳。
実年齢は知らないが、記録上では、ダーガ侯爵が違和感を覚えた貴族親子の登録情報は、そうなっている。
そして、モスアゲート王国に於いて、貴族の出生と死亡の情報を管理する部署である『貴族籍記録課』の、トップから所属する末席の文官に至るまで、爵位の変遷によって全員が『尊血派』の貴族に入れ替え完了となったのも、十六年前。
モスアゲート王国の貴族の出生と死亡の情報を管理する『貴族籍記録課』は、約二百七十年前の課の発足以来、伯爵家以上の家の出身者のみが採用される部署である。
下位貴族の出身者は、採用を希望する資格すら持たない。
記録の管理に留まらず、貴族の親子間の血縁関係に明らかな不審点が見つかった場合の調査も担当する部署であるために、「下賤な血の混じった者に尊い血統に触れる資格など無い」と言う、端から差別思想に基いた採用基準だが、モスアゲートでは疑問視されていない。
だが、モスアゲートの常識で育てられてはいない、クリソプレーズの王族や貴族であるアンドレア達は、現代の『尊血派』の主義主張と実態に、首を捻るばかりである。
歴史資料によれば、そもそも結成当初の『尊血派』とは、モスアゲートの建国王と、建国王に従ってモスアゲート王国を興した、建国当初から「モスアゲート貴族」として存在する家の血筋を『尊い血』、それ以外を『獣混じりの下賤の血』として差別し、『尊い血』を守り、『尊い血』が『獣混じりの下賤の血』と混じらぬよう護り抜くことを誓った、思想は偏っているものの、王家と国への忠義は篤い愛国者の集団だった。
建国当初から「モスアゲート貴族」と認められて家を興した家名は、既にモスアゲートの高位貴族には存在しない。
当初の『尊血派』が護った血筋での、王兄または王弟が臣籍降下して興した公爵家も、現在は一つも残っていない。
アルロ家は三百年ほど前の記録でも侯爵家ではあるので、一応、モスアゲート王国の「由緒ある高位貴族家」ではある。
だが、当初の『尊血派』から見れば『獣混じりの下賤の血』に当たる、『尊い血』以外の家から迎えた妻が産んだ息子が当主を継いでいたのだから、アルロ家の当主は、既に、本来の『尊血派』からは『尊い血』と認められる要件を失っている。
他の、現在『尊血派』に属する貴族達も同様だ。
誰一人を取っても、『護り抜かれた尊い血』のみで肉体を構成された者など居はしない。
現代のモスアゲート王国に、当初の『尊血派』に認められる血を持つ者が存在するのかどうかも疑わしいところだ。
だからこそ、自分達が『尊血派』を名乗るために、アルロ公爵は、「獣の特徴を持つ者は下賤」という、建国に纏わる伝承を都合良く歪めた、本来の『尊血派』とは異なる思想を宣教師のように自国の貴族達に植え付けたのだろう。
どうにか血を護っていた公爵家の最後の一家まで潰えた時期は、同盟締結後の戦後の動乱期だった。
どさくさに紛れるように、ほんの十年かそこらの期間で、子爵家まで降爵の上、継げる人間が遠縁にも存在しないことで断絶の扱いになったと、過去の記録は示している。
ただでさえ、戦争で後継者となり得る男子は減っていた時期だ。
分家の末端まで探したとしても、公爵家が子爵家まで降格される『三代』を十年かそこらで繰り返されれば、継がせられる者など尽きるだろう。
ほぼ時を同じくして、アルロ家が公爵家に陞爵している。
同盟締結後、アルロ侯爵家は急激に資産を増し、それに伴って発言力を強めて行ったと見られる。
動乱期のどさくさ紛れに本当に由緒正しき公爵家が最後の一家まで潰えたその年に、アルロ家は公爵家となっていた。
自称帝国の工作員から搾った情報から、アルロ家が急激に資産を増やし、繁栄を迎えた背景には、想像以上に深い闇が広がってることも分かった。
同盟締結後、同盟各国の協力にて、自称帝国は包囲され封鎖された───
筈だった。
しかし、モスアゲート王都には、イェルトにとっては「すぐに目に付く」ほど多くの自称帝国工作員が紛れ込み、イェルトとリオのモスアゲート観光旅行の帰路で襲撃して来た『人買い』も、自称帝国の工作員だった。
真っ昼間の王都と国境を繋ぐ街道で、イェルト達の乗った馬車が通過した後に、モスアゲートの正規兵を動かして見通しの悪い区間を一時的に封鎖し、襲撃は行われた。
正規兵を工作員に協力させている時点で、『モスアゲートが国ぐるみで同盟を裏切っている事実』を否定することは出来ない。
イェルト達は、一人の逃亡も許さず、襲撃犯と、近くで見張っていた奴らの仲間を無力化した。
そして、折角目撃者が存在しない空間を用意してくれたのだからと、時間制限のある中で尽くせる手を尽くした尋問で、情報を搾り取った。
俄には信じ難い話だった。
自称帝国の『商人』や工作員は、同盟締結にて全ての外へ通じる国境が封鎖された後も、モスアゲートを玄関口として各国に仕事に出ていた。
玄関口の存在を知り、利用することを許されているのは、自称帝国でも最上位の身分とその直下の駒のみ。
そして、自称帝国とモスアゲート王国を繋ぐ『窓口』は、アルロ公爵。
最初に『窓口』になったのは、自称帝国が封鎖された同盟締結時には、まだ「アルロ侯爵」だった現アルロ公爵の父親である。
現アルロ公爵の父親は、自称帝国が、封鎖された自国から出て稼ぐための玄関口としてモスアゲートを利用させる『窓口』となることで、禁制品や金銭を得て莫大な富を手にし、『尊血派』を隠れ蓑にした権力闘争で抜きん出ると、公爵の地位に上り詰めたのだ。
アルロ家の繁栄は、自称帝国との共存共栄により成されていた。
目を覆いたくなる情報だが、事実である限り、関係各国の首脳陣による迅速な対応が必要だ。
ジルベルトが外務部の資料から導出した推論を裏付ける、リオの報告書という『土産』によって、アンドレア達は、アルロ公爵の人物考察に対する前提が、最初から間違っていたことに思い至った。
アルロ公爵の思想や常識は、『お国柄』の違いを考慮した程度では、推し量れないものだったのだ。
アルロ公爵は、モスアゲートの闇の歴史で暗躍した、権力欲の権化のような父親からの英才教育と、産まれた時から身近に存在した、自称帝国の工作員や禁制品の密輸商人の薫陶を受けて、ハイブリット仕様の、こちらから見れば『異質』な思考回路を持っていたと考えられる。
それは、自称帝国の自称皇族と同種の思考の仕方だ。
一般的には、アルロ公爵の人物評は、「常に自信に満ち溢れ、堂々と振る舞う、良くも悪くも大貴族」と言ったものである。
周囲は彼の、後ろ暗さを感じさせない堂々たる態度と、「何らかの悪事に手を染めていたとしても、同盟に与する王国の公爵が、我欲で、国の破滅必至となる同盟裏切りなどする筈が無い」という『常識的思考』から、アルロ公爵は悪人で黒い金脈や人脈を持っているだろうという確信はあれど、その相手は、自称帝国の外側の裏社会の人間だと思い込んでいる。
アンドレア達も、その推定で調査に入っていた。
道理で、状況証拠が積み上がるばかりで、物的証拠は上がらない筈である。
最初から、アプローチの対象が間違っていたのだ。
毎度お馴染み、父王ジュリアンからの『次代の実権者』への小出し情報として、自称帝国の自称皇族達が精神基盤とする思想とは、自称皇族が「人の身でありながら神に成り代わり、外の全ての人類よりも『上位の存在』である」というものだと、先日アンドレアは聞かされた。
アルロ公爵が自称皇族の思想にかぶれ、実父からは権力欲を満たす英才教育を受けたならば、モスアゲート王国の破滅や売国は努力してまで忌避すべきものではなく、罪悪感など当然持ちはしないだろう。
己をモスアゲート王国の誰よりも上位の存在と自認し、自身が生まれ育ったモスアゲート王国は、己が欲を満たし、私腹を肥やすために用意された『一つのフィールド』に過ぎないとでも考えていそうだ。
自称皇族と同じような考えを抱いているならば、アルロ公爵にとって、自身は神と同列の存在だ。
国の存亡など、神の視点で見れば「小さき事」である。
その『フィールド』が、自分にとって使い勝手が良く、不要となって飽きるまでは、形だけ保って存在していればいい。
アルロ公爵が、その程度の感覚で「モスアゲート王国の保持」を考えていたならば、今まで理解不能だった「モスアゲート側の動き」が、『モスアゲート王国』と『アルロ公爵』に分離して考えることで、アンドレア達にとっても理解可能なものとなる。
イェルト達が搾り取った『人買い』の話では、モスアゲートで品薄となっている、「高貴な色を持つ若い娘」は、モスアゲート王都内のアルロ公爵の別邸の一つに運び込まれ、集められて監禁されていた。
この屋敷は、イェルト達が王都観光中に、「強面の見張りだらけで怪しい隠し通路から人が出入りする、明らかに監禁用の屋敷」と目を付けていた物件で、表向きはアルロ公爵の持ち物ではない。
ダミーの商会の商品保管場所兼会員宿泊施設となっているが、実際はアルロ公爵が自身の『後宮』と称する別邸であると言うことだ。
アルロ公爵は、自称帝国経由で「高貴な色を持つ若い娘」を買い漁り、『後宮』と称する自身の別邸で、色とりどりの己の種で成る子供を、監禁した娘達に産ませている。
自称帝国の工作員は、モスアゲート国内や各国で、『アルロ公爵向けの商品』を仕入れて納品して来た。
見返りに、モスアゲート王国内では、呪いの生贄や工作員に育成するための加護の多い子供や、他国で確実に高値が付くだろう上物の美男、といった『商品』の仕入れが、捕縛や拘束の不安も無く出来るよう計らいを受けている。
自称帝国の工作員がモスアゲート王国内で仕入れる『加護の多い子供』の中では、アルロ公爵から直接渡される赤ん坊が、それなりの数に上っていたそうだ。
ダーガ侯爵の覚えた違和感。
入れ替え完了となった『貴族籍記録課』の人員。
合致する年数。
アルロ公爵が『後宮』と称する別邸に監禁される、色とりどりの女性が囲われている理由。
そして、アルロ公爵から直接自称帝国の工作員へ渡されて来た、少なくない数の『加護の多い子供』。
状況から導き出される答えは、酷く悍ましい。
石の名を戴く王国に於いて、『国の色』は『神の御業』によって護られ受け継がれている。
その色を持たず、されど権力欲は、「神に成り代わろう」、「己は全ての人間より上位の存在である」と、常軌を逸する強さで有するアルロ公爵。
彼は、全ての人間より上位の存在である己の血で、「モスアゲート」という「神に認められた石の名を戴く王国」を侵食し、覆い尽くし、己の血で支配することで、『神の御業を下した人間』=『神に成り代われる者』に成れると考えたのではないだろうか。
その目的の為には、『貴族籍記録課』の完全掌握が必要だ。
恐らく、アルロ公爵は、『貴族籍記録課』の職務の一つである「不審な親子間の血統調査」の名目で、出生届を提出しに来た貴族から本当の子供を取り上げ、自身が『後宮』と称する別邸で監禁する女性達が産んだ、同じ色合いのアルロ公爵の子供を返している。
それが、ダーガ侯爵がモスアゲート王国の貴族親子へ抱いた違和感の正体だろう。
現在、近隣諸国の王国貴族は殆どが政略結婚であり、同国内の貴族と婚姻を結んで子を成し次代へ繋いでいる。
アルロ公爵の行いは、やがてモスアゲート王国の貴族が、血の繋がった兄弟姉妹で子を成す未来を作るものだ。
単なる野心家が、王位簒奪や王国支配を狙って起こす行動ではない。
その、人を人とも思わぬ所業の根底には、己を『他の全ての人類の上位者』と位置付け、『我は神に成り代わる者』というアイデンティティーが窺える。
アルロ公爵の人物考察を、前提条件を『悪辣なモスアゲート王国の大貴族』から、『自称皇族と同様の思考を持つ異人』と挿げ替えて再考すれば、各人の協力に拠って明らかにされつつある『アルロ公爵の犯した罪と動機』は、こんなところだろうか。
他の『尊血派』メンバー全員が同じ意見とは思えないが、アルロ公爵が宣う『尊い血』は、十中八九、いや、十中九割九分九厘、アルロ公爵自身の血のことだろう。
同じ結論に至った第二王子執務室のメンバーは、苦く重い空気に包まれる。
実に悍ましく、本当に「図々しい」としか言いようが無い。
アルロ公爵が掌握する『貴族籍記録課』によって取り上げられた子供達は既に、──自称帝国に売られているだろう。
アルロ公爵を中心とした自称帝国との人身売買ルートは、ここ二十年ほどで莫大な利益を互いに与え合ったそうだ。
イェルト達が捕えた工作員達は、モスアゲートから他国へ回るために、モスアゲートの平民の身分証や商人札まで、金品と引き換えに、アルロ公爵から与えられていたと言う。
同盟に与する国の貴族が、ここまで自称帝国とズブズブだったとは、国王が機能していない国でなければ有り得ない醜態だ。
モスアゲートの国王が現実を知っているかは怪しいところだが、モスアゲートは同盟裏切りによる同盟各国からの批判や制裁のみならず、他の多くの国々からも強烈な批判を浴びることになるだろう。
国の舵取りの現場で意見を求められることの無い、血筋のために飾られているだけの王だとしても、『国王』である限り責任は発生する。
本件で『モスアゲート王国』という国の名を背負って責任を取るのは、現国王ニコラスであらねばならない。『責任者代理』の首など、幾つ並べても足りない重さが、本件には在るのだ。
国王が責任を取った後、これだけの事をやらかして、『モスアゲート王国』という国が生き残り続けるかは、世論が生かすことを選んだ王族次第である。
ここまで事が大きくなれば、一度現在のトップは総入れ替えの姿勢を見せるくらいでなければ、同盟国を含む国交のある諸外国は対話すら拒むだろう。
そもそも、同盟の約定の中に制裁の条件や内容も明記されている。
現状維持での延命などと足掻くこと無く、一度自ら体制を壊した後で、再生に力を貸してくれと願い出るくらいはしなければ、『モスアゲート王家の血を繋ぐ王国』が生き残る道は無い。
生き残ることを許されるモスアゲート王族が、存在するのかゼロであるのかは、それこそ「神のみぞ知る」ではあるが、世界そのものである神がモスアゲート王国の存続を望むのならば、誰かしら、生殖能力のある王族が、『尊い血』を繋ぐ者として、生き残ることになるだろう。
アンドレア的には『一日で起きている事』の話が続くので、少し投稿のペースを上げます。
次回は、6月25日午前6時に投稿します。