プロローグ
新連載始めました。よろしくお願いいたします。
ストックがある間は、毎日朝6時に投稿します。
この『世界』に人々が認識し口にする名前は無い。
空の神を神々の父、大地の神を神々の母、海の神を空の神の双子の弟、森の神、山の神、河の神、湖の神を空の神と大地の神の子らと考え祈りを捧げるこの世界の人々は、偶像崇拝を固く禁じている。
故に神々の擬人化は大罪とされ、神に名をつけ呼ぶなどあってはならないこととされる。
そして『世界』は神々そのものである。
人々がそれに名をつけることは、過去を遡っても無かった。
そんな世界の一大陸の東側に、帝国を自称する国を囲む中規模の王国群があった。
それぞれ石の名を戴いた国名のそれらは、その石と同じ色の瞳を持って生まれる王族同士の婚姻により対自称帝国の同盟を結んでいる。
東の海に面し自称帝国と山脈で隣接するクリソプレーズ、クリソプレーズの北内陸側の隣国で帝国と最も接地面積の大きいアイオライト、自称帝国とアイオライトに細長く隣接するカイヤナイト、カイヤナイトの隣国で自称帝国と大河を挟んで隣接するパイライト、自称帝国との接地面積が最も小さくクリソプレーズの南側に森を挟んで隣接するモスアゲート。
この五つの王国は、およそ六十年前に小国群を武力統一した一つの元小国の王族が自称する帝国を沈黙と監視で包囲し、自滅を待つ同盟国だ。
今日、クリソプレーズ王国のとある場所で一人の女児が二度目の産声をあげた。
その産声と時を同じくして、ある場所では三歳の男児が頭を打った拍子に記憶を取り戻し、またある場所では一歳の女児が電撃に打たれたように記憶を蘇らせ、更にある場所では生後数日にして男の赤ん坊が成人男性の記憶を眠りながら反芻していた。
そして、世界の運命は一度目とは大きく異なって廻り始める─────。