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推しに没落させられたので仕返しする所存  作者: 佐野雪奈
第二章 悪役令嬢は飼い慣らしたい
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9.本当に悪い人みたい


「そもそも、なんでそんな怪しい仮面を着けてるんですか」

「これは、我ら『バルツ教団』の正装である」

「バルツ教団?」


 聞いたことのない教団名に首を傾げると、彼らは自慢げに胸を張った。


「ふっ。聞いて驚け。バルツ教団はな『マーデュオシュバルツ・オクツェルネ様を称えこの腐敗した世界を一掃してもらう』ことを掲げた素晴らしい教団なのだ」


 ⋯⋯マーデュオシュバルツ・オクツェルネ様?

 チラッと隣のマオくんを見たら『はぁ?』と言うような顔をしていた。


「既にマーデュオシュバルツ様の御力を借りている」


 ブンブンと首を横に振るマオくん。


「⋯⋯えっと、違うみたいですよ?」

「そんなはずあるか! これを見るがいい」


 仮面の男が自慢げに取り出したのは⋯⋯


「⋯⋯魔物?」


 先程セシルが返り討ちにしたような小さな魔物。うさぎのような見た目の魔物は耳を掴まれてブラブラ揺れている。⋯⋯ぬいぐるみみたいに大人しいわね。


「こいつにコレを飲ませれば、魔王様の御力で強くなるのだ」


 男が取り出したのは、小さなガラス瓶の中に桃色の液体が入ったもの。


 ⋯⋯。


 あー。ピンときたわ。魔王様の力というのはよくわからないが、さっき出てきた魔物もこの人たちがあの桃色の液体で凶暴化させたのね。


「さっきもそれやりました?」

「ほう、よくわかったな。まずはこの森の魔物たちを凶暴化させ、この周辺の町から消し炭にするのだ」

「なるほど」


 これ本当に悪い人たちだわー。騎士を呼びに行ったセシルの判断は正しいわね。早く戻って来ないかな。


「というわけで早くここから助けろ」

「今の話聞いて助けると思います?」


 むしろこの近辺の安全の為に一生そこにいて欲しいくらいよ。


「なんだとっ」

「裏切ったのかっ!」


 何故か裏切り者扱いされた。


「くっ、そちらがそう来るのなら⋯⋯」

「あ⋯⋯」


 仮面の男はうさぎのような魔物に桃色の液体を飲ませた。

「ヴゥゥヴヴ」と苦しそうな声がしたと思ったら、魔物の目が赤く光る。


「まずはお前から消えろ」


 息を荒くし牙を剥き始めた魔物を男がこちらに放り投げてきた。


「ひっ」


 びっくりして一歩後ずさったけれど、魔物は私に届く前に一瞬真っ赤な炎に包まれて消えた。


「⋯⋯あれ?」


 パラパラと燃えカスのような物だけが空中に残り、穴の下にいる男たちに降りそそぐ。


「「「⋯⋯⋯⋯」」」


 ゴゴゴゴゴゴゴと音がするように、隣からものすごい怒りのオーラを感じる。


「⋯⋯おい、おぬしら。黙って聞いておれば勝手なことばかり抜かしおって。挙句エリアナに攻撃したな。⋯⋯死ぬ覚悟は出来ておろうな?」


 ⋯⋯マオくん?

 えっ、待って、目据わってるわよ? すごい瘴気出てるわよ? なんか空気がビリビリしてる気がするわよ?


「がっ⋯⋯」

「ぐっ⋯⋯」

「かはっ⋯⋯」


 えっ?! なんか仮面の男たちが苦しみ始めた?! え?


 三人とも苦しそうに膝をついて胸を押さえている。地面に倒れた人の仮面が取れたけれど、顔色は真っ青で呼吸も苦しそうだった。これが魔王、マオくんの力⋯⋯?


「マ、マオくん、待って待って! 充分、充分だから!」

「いや、ああいうのは早めに始末しておかぬと、奪われてからでは遅いのじゃ。わしはエリアナを失いたくない」


 ぐっと眉間に皺を寄せるマオくんはとても辛そうな顔をしていて、それは今のこの状況だけの顔じゃないように見えて⋯⋯私は思わずマオくんを抱きしめた。


「エリアナ⋯⋯?」


 ぎゅっと力を込めて抱きしめるとマオくんの力が抜けた。


「⋯⋯私は大丈夫だよ。マオくんが守ってくれたからね。これからもマオくんが守ってくれるでしょう? だから、この人たちは殺さないで」

「⋯⋯エリアナ」


 マオくんの放っていた瘴気が消えて、代わりにぎゅっと抱きしめ返された。


「エリアナは優しいの。優しすぎる。しょうがないからわしがこれからも守ってやるぞ」


 小さな手が少し震えているような気がして、安心させるように頭を撫でた。






「エリアナ!」


 しばらくそのままでいると、何人かの足音とセシルの声が聞こえてきた。


 

「大丈夫? なにかとんでもない瘴気を感じたけれど⋯⋯」


 駆けてきたセシルが、穴の中の気絶した男たちを見て言葉を失う。

 先程マオくんが放ってた瘴気はかなり濃かったので、マオくんが彼らを気絶させたと察したのかもしれない。


「あのね、これは⋯⋯」


 マオくんは少し暴走したけど今は大丈夫だと、害はないから追い出さないでと言おうとすると、先にマオくんが事情を説明した。


「あやつらエリアナに攻撃してきてのう。イラッとしたから気絶させてやったぞ」

「よくやったマオ」

「うむ」


 ⋯⋯あれ? むしろ褒められた?

 珍しくセシルがマオくんの頭を撫でた。


 マオくんが危険視されたり追い出されたりしなくてよかったけど⋯⋯セシルに頭撫でられるとか、ちょっとだけ羨ましい。



 そうこうしている内に騎士の人も何人かやって来た。


「エリアナ、彼らを穴から出してあげてくれる?」

「わかったわ」


 気絶した男たちを穴から出して、騎士に引き渡した。男たちが持っていた桃色の液体も説明したので、彼らが何かしら調べてくれるだろう。


 魔王殿へのピクニックは変な仮面の男たちを三人捕まえて、忙しなく終わった。





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