むかしの話6 セシル視点
二章からは学院に入学してからのむかしの話になります。
王立魔法学院。
アルフィアスト王国王都にて広大な敷地面積を誇る、貴族の子息令嬢が十四歳になる年から十七歳になる年まで四年間通う学院。
そこで学ぶのは魔法だけでなく、一般教養や剣術、護身術や社交術なども含まれる。
ほとんどの貴族が学院に通うので、家同士繋がりを作ろうという目的もあるらしく、学院でパーティーが催されることもある。
そんな学院に僕とエリアナは入学した。
僕はエリアナの庇護もあり、上手く彼女の取り巻きという立ち位置に入ることができた。
最初は男爵家である僕がエリアナと親しく話したり、そばにいたりすることをよく思わない連中も多かった。
しかしエリアナが、「私の大切な友人を侮辱しないでくださらない? いつか後悔いたしますよ」と言って庇ってくれたお陰で僕への中傷は無くなった。
エリアナは『セシルはいずれ王になるから』という意味で後悔すると言ったのだろうが、言われた彼らは『私がお前を潰すから』くらいの脅しに聞こえたのだろう。
僕は『エリアナ様のお気に入り』として認知された。
男の僕としては、好きな女の子に守られるのは若干不服なのだが、それよりも学院内でもエリアナのそばにいられるポジションを獲得することが大切だった。
二人きりにはなれないけれど、エリアナの近くにいて、おしゃべりして、それだけでも心が弾む。癒される。
「セシルはいるか」
そんなエリアナとの穏やかな時間に、僕は呼び出された。
呼び出した相手は、僕がこの世で二番目に嫌いなフィリップ殿下だ。
「なんのご用でしょうか」
落ち着いた金色の髪にサファイアのような青い瞳、自信に溢れる整った顔立ちのこの男がエリアナの婚約者だと思うだけで、憎悪が湧き上がる。
「⋯⋯話がある。移動しよう」
殿下は談話室まで来ると人払いをし、何やら魔導具を起動させた。薄い透明の枠がこの談話室全体を囲んだようだった。
「音声遮断の魔導具だ。⋯⋯他の者には知られたくないのだろう?」
殿下の見定めるような視線に、にっこりと笑顔を返しておいた。
僕は魔法学院に入学する直前、義両親に母の形見の指輪から王家の紋章が出てきたことを伝えた。
義両親は顔を見合わせて驚いて、そして知っている限りのことを話してくれた。
今の国王陛下の兄である先王陛下は、優秀で国民の信頼も厚い賢王だったそうだ。ただ、若くして即位したこともあり、妻がいなかった。臣下たちも縁談話を持っていくが、のらりくらりと躱す方だったそうだ。
実は先王陛下は義父の姉――――僕の母と愛し合っていたそうだ。ただ、身分が男爵家なこともあり、その事実を知る人はほとんどいなかったのだとか。
ある日、男爵家の娘が身ごもった。先王陛下の子だ。先王陛下はそれは喜んで男爵家の娘を妻に迎えようとしたらしい。まさか、直後に馬車の事故で亡くなるなんて思いもしなかったのだろう。
母は子どもの父親の話を誰にもせず、妙な醜聞が立つ前に大きなお腹を抱えてエディローズ男爵家を出たのだとか。
それから母は行方不明となり、数年後に余命幾ばくもない母から「私が死んだらセシルを頼みます」との手紙が届き、義父は母の居場所を知ったそうだ。
義両親は、これからのことは僕自身が選択すればいいと言ってくれた。
このまま男爵家にいるのも、王族になるのも、どちらでも応援すると言ってくれた。
僕は王族となることを選択した。
義両親と共に向かった王城で、突然現れた先王陛下の息子に国王陛下には煙たがられるかと思いきやそんな事はなく、むしろ「よく生きていた」と感激され、快く王族に迎えてくれると約束してくれた。
エリアナを手に入れる為に選べる手段は多いに越したことはない。
何より――――
「父上から聞いた。私に同い歳の従兄弟がいたとは知らなかった。学院を卒業する時に王籍入りしたいと言ったそうだな」
「ええ。男爵家の教育しか受けてきていない僕ではまだ王族を名乗るには未熟でしょうから。卒業までにそれなりの教養を身に付けるつもりです」
僕は王族となることを選択したが、公表する時期は魔法学院卒業時にして欲しいと頼んだ。
先程言ったことも理由の一つだが、『シナリオ』でそうなっているらしいからだ。
「⋯⋯入学時試験のトップがよく言う」
「たまたまですよ。ヤマが当たっただけです」
魔法学院に入学してすぐの試験で、僕はトップの成績を取ることができた。成績優秀なエリアナに負けたくなくて頑張ったのだが、フィリップ殿下も負かしてしまったので気にしていたらしい。
「王族になって何を望むんだ? 金か? 権力か?」
フィリップ殿下は生まれた時から王族として育てられている。弟妹よりも優秀だと言われてきた彼は、次期国王確実だと周囲からも言われている。だから、安定した立場を揺るがす先王陛下の忘れ形見の登場に焦っているのだろう。
「⋯⋯どうしても、欲しいものがありまして」
勝手に勘違いして踊ってくれればいいなと思い、敢えてぼかしておいた。
「⋯⋯欲しいものとは?」
「秘密です。奪われてしまうと困るので」
にっこりと微笑みを浮かべると、殿下は眉間に皺を寄せた。
「⋯⋯ああ、そういえばフィリップ殿下の趣味はガーデニングだそうですね。エリアナから聞いて驚きました。王城にも殿下が手がけられた庭があるのだとか」
「⋯⋯ずいぶんとエリアナと仲が良いんだな」
殿下の眉間の皺が更に増えた。
「幼馴染みですから。よく一緒にお茶を飲みつつ話すのです」
実際は、エリアナはフィリップ殿下の話はあまりしない。王族の個人情報だからか、フィリップ殿下に興味が無いのか。⋯⋯おそらく後者だ。
今の情報も、ゲームの攻略対象の情報としてなんとか聞き出したものだ。
だがこれで、フィリップ殿下の情報はエリアナから僕に筒抜けだという印象を与えられただろう。僕を警戒する殿下はエリアナと距離を置くんじゃないかな。
「そうか⋯⋯。卒業時には同じ王族となるんだ、これから仲良くしようではないか」
「そうですね。よろしくお願いします」
――――エリアナと共にフィリップ殿下の敵に回れば、シナリオ通り没落するエリアナと僕はずっと一緒にいられるよね。




